はじめのチュートリアル
VR…スマホの機種替えで付いてきたのですが…酔いました。三半規管がオーバーフローいたしました。皆さんはVR楽しめてますか?でわ、冒険に行ってもらいましょう!
リサリムス王国の中核外縁城壁都市ザランデラ。
交易拠点都市として大変賑わっている。
冒険者組合通称【ギルド】も活気に溢れている。
【ギルド】受付に二人の少年達が来ていた。
この地方では珍しく黒髪に黒い瞳の少年達である。
「あの~、言葉は通じていますか?」
受付に来た二人はオノボリさんのようでキョロキョロと辺りを見回している。
「あ、ハイ!通じています!わかります!少し声が重なってますけど大丈夫です。」
「大丈夫ですか?」
「オオー、言葉が通じる!克哉、マジで通じてるよ!日本語で通じてるみたいだな!」
受付の男性デリアスも少し困り顔で
「当、レインザード区画冒険者組合のご利用ですか?ご依頼ですか?」
二人の少年はみるみる笑顔になり声をあわせて
「「ハイ!冒険者登録をお願いします!」」
大きな声でそう告げた。
「では本日、受付を担当する私、デリアスと申します。宜しくお願い致します。」
デリアスは自己紹介をして頭を下げる。
「「宜しくお願いします!」」
少年達も軽く頭を下げる。
普通貴族は頭を下げる事はないのだが厳しい躾の行き届いた良い貴族の出自のようだとデリアスは思った。
「お一人の登録料とギルドタグ発行手数料合わせて1000ジルでございます。お二人様で2000ジルでございます。」
「1000ジルってこれだよな?克哉。」
「うん、それだ。大銅貨だ。昌也。」
少年二人は袋財布から大銅貨一枚づつデリアスに手渡す。
デリアスは二枚の大銅貨の裏表を確認する。
昨年発行された大銅貨のようだ。
間違いはないのでカウンターの引き出しに大銅貨を硬貨入れにしまい魔洋紙を二枚取り出す。
二人の少年の見た目では16~18歳ほどのようの成人に成り立ての若者のようだが身なりと服装がこの辺りの物では無い。
高価な布を丁寧に裁断し丁寧に縫い合わせて作られた不思議な素材の靴底の靴に細かな縫い目で仕立てあげられた紺色の衣服。
明らかにこの国の貴族では無いが二人の少年の上着の左胸のポケットには同じ紋章が刺繍されている。
胸に紋章を掲げているのだから貴族に間違いは無いのでこちらも丁重に対応しなければならない。
「はい、確かに。それではこちらの魔洋紙にお名前、年齢をご記入下さい。」
左側の少年が声を潜めて聞いてくる。
「あのさ、デリアスさん、名前は本名じゃ無いと駄目なのか?」
「いえ、いわば通り名でもよろしいですよ。フルネームでなくファーストネームでも愛称でもよろしいです。名をギルドタグに刻み登録するための認識表ですので。ただ、過去の英雄の名前や勇者の名前は受け付けていません。貴方がこの街の冒険者だとして登録するため物ですので。」
それを聞くと少年はますます興奮しているようだった。
右側の少年は名前と年齢を記入すると
「このゲームの…、いや、この国での曆と季節を教えて貰えますか?あと時計…時間もわかりますか?」
と聞いてきた。
やはり王国外からの旅行をしている貴族の嫡子達のようだ。
「はい、今はエミルター暦1757年、四の風精の後期でございます。時間は午後の1の時、半でございます。」
デリアスは水晶の魔道具に魔力を流し曆と季節と時間を伝える。
右側の少年は掌に乗るほど小さな黒革の外皮に挟まれた白い紙に記入している。
デリアスは目を見開きそれを見ている。
回りの者達には衝立があるので少年の手元は見えていないが高級な物には違いがない。
左手首にはデリアスの見たことの無い四角い小さな魔法具が装着してある。
右側の少年の記入を確認するデリアス。
右側の少年の名前はカツヤ・カミヤと記入してあるがミドルネームは伏せているようだが名字を持つ貴族には違いがないようだ。
年齢は17歳、昨年成人したようである。
「エミルター暦、1757年、四の風精の後期…4月の後半位かな?とりあえずは13:30と現実時間と差はないみたいだな。」
デリアスは小さな声でカツヤ・カミヤに話し掛ける。
「カミヤ様、ミドルネームを伏せられるのであればファーストネームだけをご記入されては如何でしょうか?冒険者達はほとんどがファーストネームで呼び合いますので。」
デリアスは新しい魔洋紙を取り出そうと引き出しに手をかけていると
「…えっ、ミドルネーム?あ、ああ、そうなんですね。じゃ、書き換えますね。」
カツヤは海外の人はミドルネームを持つとテレビで見たことを思い出し魔洋紙に手をかざすと名字が消えカツヤだけを残す。
「これでいいですか?」
デリアスは見たことのない消去魔法を無詠唱でいとも簡単に行使したカツヤに驚きただただ頷く。
デリアスが驚きながら声を出せずに見ているとカツヤは左手首の四角い小さな魔道具を操作している。
その間にもデリアスも手を動かし真新しいギルドタグにカツヤの名を魔道具で刻印していく。
「時間の誤差は無いな。ん?おい、昌也何やってんだよ。早く名前を記入しろよ。冒険者登録の次は買い物をしなきゃいけないんだぞ。」
カツヤが左側の少年が名前を記入いていない事に気付くと記入を急がせる。
「わかってるって!ちょっと待てよ!カッコいい名前の方が良いだろう!マジでもうちょっと待てって」
左側の少年を眇るように右側の少年が見る。
「ったく、いつも名前決めで時間がかかるんだからな。どうせいつものジークフリードで決まりだろ?書けよ、ほら、ジークて書けよ。どうせ、β版のキャラクターエディットも出来ないテスト用キャラクターの登録なんだからさっさと行くぞ。装備を整えないと面倒なテンプレイベントが起きるだろう。早くしろよ。」
「判った!ジークで良いや。そう言うテンプレもβ版テストのうちだってスタッフの女の人が言ってただろう?テンプレイベントの反応も見てくださいってよ。えーとデリアスさんお待たせ。はいコレ。」
左側の少年から魔洋紙を受け取り確認をする。
名前は先程の自称ジーク。
年齢17歳の成人のようだ。
二人は成人の旅立ちの儀式でこの街に立ち寄り騎士となる前の修行として冒険者登録をするようだ。
どの国にも似たような通過儀式があるものらしい。
成人した男性貴族は爵位を受け継ぐまでに名家の貴族の出自を隠し冒険者として名を上げ爵位を受け継ぐ為に騎士となり更に名声を残す。
一般的な貴族の出世街道だった。
彼ら二人もそうなのだろう。
危険な冒険者として命を散らす貴族もいる。
危険が無い様にと大勢の冒険者を雇い依頼だけを名目上達成している貴族もいる。
そんなお飾り物の名声ではなく自力で自立をしようとしている立派な志を持った貴族の息子達なのだとデリアスは心から感心して応援しようと思っていた。
「では、登録は以上で終了です。三の時から新人研修がございますので良ければご参加下さい。こちらがギルドタグと階級章です。こうして重ねて首から下げて置いて下さい。」
二人にギルドタグを二人の首にデリアスがかけてくれる。
うっすらと光るミスリル製の小さな板に名前が刻まれた物と階級を表す冒険者組合の紋章が刻まれた小さな板二枚一組を鎖に通した簡素なネックレス。
だがこれが正式な冒険者だと証明する大切な物だ。
「ギルドタグは冒険者組合や商店で提示すれば貯蓄してあるジルの支払いや預け入れや引き出しも可能です。ジルは冒険者組合が責任を持って管理致しますので安心して預けて下さい。」
二人の頭の中にはファーストミッションクリアのインフォメーションと短いファンファーレが聴こえて来る。
「なるほど!デリアスさん、ありがとう!」
「マネーカードみたいな物か!デリアスさんありがとう!一個クリアだな!カツヤ。」
「ああ、次は装備の買い物だな。」
「いよいよ武器かー、まぁ最初はショボい奴なんだよな?」
「確かな。でも話をする相手を変えると良い事があるらしいぞ?」
二人が話をしながら冒険者組合の扉を開けて出て行こうとすると
冒険者組合に併設されている酒場から酒の入っていたであろう陶器のカップがカツヤの足元に飛んで来て砕ける。
「けっ、また貴族の坊っちゃん達の冷やかし足掛け冒険者登録かよ!さっさとオーガにでも追われて国に逃げ帰んな!」
「そうだ!そうだ!冷やかしは帰んな!ハッハッハッハッ!」
如何にも手下臭い小汚ない小男がハゲ巨漢を囃し立ててる。
テンプレイベントが始まったようだ。
カツヤはうんざりとした顔でジークを見る。
「いや、テンプレだからな?カツヤこれはテンプレ。」
「…わかっている。テンプレな…一応手を出してもいいんだよな?」
「いいんじゃね?テンプレキャラは敵になるかどうかはそいつの固有称号の行動次第だって言ってたし。パーティーに有力な強い味方をつけるなら奴らが手を出して来たのをぶっ飛ばせば注目をされるって言ってた。うん。」
カツヤとジークは絡んできたハゲ頭の巨漢を無視して会話をしていた。
「…この…ガキ共が~!調子に乗ってんじゃねえぞ!このベルネル様をぶっ飛ばすだと~っ!」
ハゲ巨漢が殴りかかって来る。
自分の事を『様』付けのハゲナルシストのまさに【小物】のようだ。
デリアスは慌てて衛兵に目配せをするが
「大丈夫だ。」
と言う風に衛兵は頷き返して来るだけだった。
カツヤとジークの頭の中に戦闘に入った警告と自分たちのパーティーステータスとバトルスキルコマンドが浮かび上がり酒場にいたノリの良い吟遊詩人達が奏でる軽快なバトルミュージックが流れ始める。
「二人のルーキー達へささやかな手助けを!肉体加速・小!《チープ・ヘイスト》」
吟遊詩人の一人が声高らかに宣言をするとカツヤとジークが柔らかなオーラに包まれ身体が少し軽くなる。
「「ありがと!!」」
カツヤとジークは吟遊詩人達に短く礼を言い続け様にスキルコマンドを詠唱する。
『『肉体強化&敵検索』』
カツヤとジークは自己強化魔法を掛けハゲ巨漢のステータスを見る。
シグナルカラー レッド
敵
【人間】男 ベルネル
【年齢35歳 】
ギルドランク【ブロンズ】
レベル13
【重剣士 】武装 銅のブロードソード 革製の鎧
称号【新人潰し】【経験値泥棒】【報酬横領】【盗賊初級】【強盗初級】【小物】
追記
【賞金首ではありません。討伐しても報償金はありません。】
とカツヤとジークの頭に浮かんで来た。
ハゲ巨漢の拳を同時に避けてハゲ巨漢の脚を二人でタイミングを合わせたように蹴り払い転ばすとため息と言葉を吐く。
「「はぁ、【小物】かよ…」」
ハゲ巨漢はカツヤとジークの一つ上の初級階級のようだ。
35歳にもなって新人潰しとは情けない男である。
顔面から派手に床にぶつかり大きな音を上げて転けているハゲ巨漢はテンプレイベント用モブキャラのようだ。
「これ以上小物には関わりたくないぞ?ジーク。」
「だな。まだこっちを睨んでる頭で理解出来そうにない小悪党には身体に解らせるか、カツヤ。」
報償金も出ないようなモブキャラには以降の出番が無いように叩きのめそうと頷き合う。
「俺様を…俺様を小物だとっ!?子悪党と言ったな!ガキ共が舐めるなー!」
二人に全力の拳を避けられ床に派手に転んでいたハゲ巨漢は肩を貸してもらっていた小男を逆上して突飛ばし怒声を上げて立ち上りこちらに向かって走っているようだがカツヤとジークにはスローモーションのようにゆっくりと動いているように見えている。ハゲ巨漢の拳が唸りを上げて二人に向かって来る。
ハゲ巨漢の大きな拳をカツヤは身体を捻るように反らし躱すと素早く右脚を踏み出し丁度良い位置に来たハゲ巨漢の顎を両掌底で思い切り打ち上げた。
「フンッ。」
カツヤが追撃の右肘を喉に打ち込もうとしているとジークに肩を軽く叩かれて動きを止める。
「おっと。」
オーバーキルになりそうだ。
「ごりゅガバッ」
顎を真下から直撃されたハゲ巨漢の身体が仰け反り口から情けない声と砕けた歯と唾液と血液を撒き散らし宙に舞う。
「あとは俺に任せろ。フンッ!」
ジークの天高く振り上げた右脚の踵がハゲ巨漢の鼻っ柱に振り下ろされ鼻は潰れ血を流しハゲ巨漢は後ろ頭から床に叩きつけられる。
「新人潰しをするなら相手をよく見て喧嘩を売れ。小物ハゲ。」
カツヤは石ころを見るような眼で白眼を剥いて意識を無くし小刻みに痙攣するハゲ巨漢を一睨みすると冒険者組合の外へと歩いていく。
「てめぇみたいな新人潰しを弱い者虐めを面白半分でやってる小物ハゲは女に生涯モテねぇ。断言してやんよ。床の掃除でもしていろ、禿。」
ジークも靴の踵の汚れを床の上で無様に痙攣をして気絶しているハゲ巨漢の上着で拭うとカツヤのあとを小走り追いかけ並んで歩いていく。
二人は商店街を目指しているようだが地図も持たずに迷い無く歩いていく。
カツヤとジークはハイタッチをしてそう言い残すと連れ立って冒険者組合を後にした。
二人が去った組合に併設されている酒場の大きなテーブルに座る面々が語り合いを始める。
「おいおい、ブロンズの新人潰しが新人に一撃かよ…」
「いんや、正確には二撃だ。追い討ちの足技で意識を完全に刈り取りやがった。しかもありゃ、かなりの手加減をしてだぞ。」
「手加減をしてあれかい、へぇー、貴族の坊っちゃんにしてはやるねぇ。」
「あの子ら新人潰しの性根に気付いてたようだったしね。魔法の詠唱も滞りなく滑らかだったねぇ。最初のあの子からは殺気の闘気が漏れ出ていたよ。」
「ああ、最初のあの子は本気で殺すつもりだったな。顎を打ち上げたあと肘を喉に叩き込んで潰しに行こうとしていた。新人潰しはそれを喰らっていたら確実にあの世行きだったのをもう一人の子がそれを見越してあの子を止めて代わりに新人潰しを蹴り落としやがった。」
「あの若さで【連携】までとは見事だねぇ。やるねぇ、二人共優しいじゃあないの。良いねぇ!あの子らぁ。」
「ホッホッ、無手でも闘えるように実戦を見据えてかなり厳しく躾られおるのじゃろうな。なかなかの筋じゃな。体内の魔力操作も悪くない。じゃが剣技も見てみたいのう?」
「うん。だけど見た事の無い紋章。他国の貴族。扱いには注意が必要。」
「初撃の技も初めて見た物だが見事に【新人潰し】の顎を的確に捉えていやがった。ありゃぁ、かなりのものだな。」
「稀に見る期待の大物新人みたいだな?おい。」
「おい、新人研修の相手をやって見ないか?」
「良いね!コインで決めるよ!裏か表か!」
二人の去った冒険者組合の酒場は大いに盛り上がっていた。
続きは…しばらくお待ちください。