第一章 正義の底辺冒険者と呪いの剣4
時は変わって夜。
場所は洞窟の中――その開けた一角。
アルはテントの中で、他の冒険者達と眠っているのだが。
「ぐふっ!?」
突如、腹に圧迫感を覚えて目を覚ます。
見ると、隣で寝ていた冒険者のかかと落としが、アルの腹にクリーンヒットしている。
凄まじい寝相だ。
(魔物と戦ったり、テントを設営したりで疲れてるから、ゆっくり寝かせて欲しいんだけどな……全部終わった後、エミールから全員分の水汲みまで頼まれて、体中痛いし)
などなど。
アルがそんな事を考えていると。
「~~~~~~~~~~~~~~!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
テントの外から、誰かが言い争うような声が聞こえて来たのだ。
そして、片方の声はどうやらユウナの声に違いない。
(こんな時間に外で何してるんだろう? 昼のエミールとの一件もあるし、いちおう見に行った方がいいよね)
もしも何もなければ、引き返して寝ればいい。
アルはそう考えて、他の冒険者達を起こさないようにテントを出る。
すると。
「やめて、放して!」
「おい貴様! この俺様の命令が聞けないのか!? まさか俺様が誰か知らないのか!? この俺様は魔王を倒した勇者ミアの末裔――エミール・ザ・ブレイブ七世様だぞ!」
「よっ! 七世! いいぞいいぞ! ユウナもシラケるからよ、さっさとこの七世殿の言うこと聞けや、マジで……無理矢理されたくなかったらよぉ」
「全裸になれって言ってるわけじゃねぇだろ! 少し服を脱いで、踊ってみろって言ってるんだ! それくらい簡単だろ、なぁおい! 酒の余興だよ、余興!」
聞こえてくるユウナの声。
そして、そんな彼女を囲むように怒鳴りつけるエミールと、その取り巻き二人。
全員が酒瓶を持っていることから、酔っぱらっていることは容易にわかる。
大方、最初はユウナにお酌をさせていたところ、エスカレートしたに違いない。
(なんにせよ、黙って見てるわけにはいかない!)
と、アルはすぐにユウナのもとまで走る。
そして、エミールの手を叩き落とし、ユウナを彼等の中から引っ張りだしながら言う。
「エミールも、あなた達もユウナに何をしてるんだ!? 僕達は同じ仲間でしょ! どうしてこんな、彼女を貶めるようなことができるんだ!」
「あ……アルくん、その――」
と、ユウナは安心した様な、申し訳ない様な……複雑そうな表情を浮かべる。
だが、アルは彼女に手をやって遮ると、エミール達へ続けて言う。
「エミール。あなたは勇者ミアの末裔だ! 本来なら、こういうことを止めるべき人なのに!」
「うるさい奴め……また貴様か、アル! 俺はそこの淫乱なメスに、身分相応の行いをさせてやろうと思っているだけだ!」
「ユウナはそんなんじゃない! エミール、いい加減ユウナに絡むのはやめるんだ! そんな事ばかりしていて、恥ずかしいとは思わないのか!」
「黙れ、クソガキめ! ん、あぁ……いや、そうだな」
と、突如笑みを浮かべるエミール。
彼はそんな不審な態度のまま、アルへと言ってくる。
「それじゃあ一つゲームをするのはどうだ?」
「ゲーム……それに勝ったら、ユウナにちょっかい出すのをやめて、普通の仲間として認めてくれるってこと?」
「あぁ、ユウナだけじゃなく、貴様のことも認めてやるとも。それで、返事は?」
「わかった……」
アルが言うと、エミールはニヤリと笑ってくるのだった。
さて、時はキャンプでの騒動から数分後。
現在、アル達はエミールとその取り巻きに、洞窟の奥へと案内されていた。
そして、案内された先にあったのは――。
「あれは、剣?」
「あぁ、そうだ。この洞窟を調査していてわかったが、あれは《隷属の剣》というらしい」
と、台座に刺さった悪魔の角のような、禍々しい装飾の剣を指さし言ってくるエミール。
彼はニヤニヤ笑いを続けながら、さらに言葉を続けてくる。
「あの剣は、伝説の勇者ミア・シルヴァリアが残した伝説の武器のようで――」
「え? エミール様、あれって呪いの――」
「貴様は黙っていろ!」
と、エミールの言葉を遮った冒険者を、更に遮るエミール。
アルはそんな彼へと言う。
「ようするに、あれを引き抜いたら、もうユウナには絶対にちょっかいをかけない。そういうことでいいかな?」
「理解が早いな……じゃあ行ってこい。俺様はここで見ていてやる」
「アルくん! やめて、あたしは大丈夫だから! なんだか怪しいよ!」
と、ユウナの心配そうな声。
正直――。
(怪しいのはわかってる。だけど、エミールは僕よりも強い。ユウナを守るためには、こうするしかないんだ)
エミールのことだから、あの剣は絶対によくないものだ。
けれど、さすがに命を落とすようなことはないに違いない。
アルはそんなことを考えながら、剣へと近づいていく。
そして、彼が剣へと触れ、それを引き抜こうと力を入れた瞬間。
「くははははははっ! バカが! それは触れた者を醜い魔物にする呪いがかかっているんだよ! 俺様達はユウナで心行くまで遊んでやるから、貴様は雌の魔物と盛っているがいい!」
聞こえてくるエミールの声。
アルはすぐさま手を放そうとするが、身体中の力を剣に持っていかれる。
(手を放すことが出来ない……っ、このままじゃ!)
その直後、アルの意識は闇に落ちていくのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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