第一章 正義の底辺冒険者と呪いの剣3
「アルくんはやっぱり優しいね――えと、本当は秘密にするように言われてるんだけど、アルくんには特別」
と、ユウナはネックレス――青い結晶を加工して作られたそれを、外して手に取る。
そして、彼女はそれをアルに見せながら、言葉を続けてくる。
「このネックレスはね、何百年も前から受け継がれているものなんだ」
「ユウナの家系にとって、大切なものってこと?」
「それが少し違くて……」
と、なにやら言いにくそうに続けるユウナ。
そんな彼女の言葉をまとめると、こんな感じだ。
まずユウナのネックレスは、家系に代々継がれてきたものでない。
それは当代の所有者が、後継者を選び託してきた物とのこと。
そして、ネックレスには特殊な力があり、それは選ばれた後継にしか使えない。
さらに後継として選ばれた者は、とある役目があるそうなのだ。
それは――。
「このネックレスの所有者は常に世界の平和を見守って、もしも世界が乱れた時は立ち上がらないとダメなんだって」
と、言ってくるのはユウナだ。
彼女はネックレスを見つめながら、アルへと続けてくる。
「なんかね。このネックレスの最初の所有者は、とってもすごい人だったんだって。特別な力を持っていて、その力を人を救うためだけに使った人……その命が尽きるまで、世界の平和を守った人」
「まるで魔王を倒した勇者みたいだね」
「うん! あたしもそう思ってるんだ! おとぎ話の主人公みたいに優しくて、とっても強い……あたしの子供の時からの憧れ!」
と、再び笑顔になるユウナ。
アルはそこでふと、とあることが気になる。
故に、彼は彼女へと言う。
「ちなみに、ユウナは誰から後継に選んでもらったの? あと、その人も初代のことは知らないの?」
「まず選んでくれた人のことなんだけど、その人は小さい時に村にやってきた冒険者さんだったんだ。その人は各地を転々としながら、無償で人助けしてたみたい」
「無償でって――」
「アルくんのお父さんみたいだよね! あたしなんかより、アルくんのお父さんが後継に選ばれた方がよかったよね、きっと」
「そんなことないよ。ユウナが冒険者ギルドに入った理由っていうのがそれでしょ――人助けがしたかったってやつ」
すると、こくりとうなずくユウナ。
アルはそんな彼女へと続けて言う。
「だったら、ユウナだって充分偉いよ! それに後継者として相応しいと思う!」
「っ」
と、なにやら赤面しているユウナ。
彼女は顔の前で手をわたわたさせたのち、アルへと言ってくる。
「そ、それで初代の話なんだけど、先代もやっぱり初代が誰かは知らないみたい。というか最初の継承の時から、初代が誰かわかってなかったみたい」
「つまり、初代は後継を選ぶ時に意図的に正体を隠した?」
「うん。きっと後継が欲しかっただけで、名声にはまるで興味がなかったんじゃないかな」
なるほど、それならば説明がつく。
名声が欲しくなければ、名前を後世に伝える必要はない。
(初代が何年前の人なのかわからないけど、一回会って話してみたかったな。ユウナの話を聞く限り、初代の生きざまは僕の理想だ)
アルが初代に会いたい理由はもう一つ。
それは初代の正体がわからないのに、その志が未だ引き継がれているところにある。
なぜならば――。
「あたしは確信してるんだ。初代がすごいっていうのは、きっと『言葉で表せないくらいすごい』って意味なんだって」
と、言ってくるユウナ。
彼女はネックレスを握り、胸に当てると言葉を続けてくる。
「当時は名乗らなくても誰もが知っているくらい――どの後継者も『初代みたいに立派な人になりたい』って、そう思えるくらいに」
「僕もそう思うよ。何百年経って伝承がどんどん薄れてなお、ユウナがこうして憧れるくらいだもんね」
「うん! あたしね……このネックレスを握っていると、初代の気持ちが流れ込んで来る気がするんだ――とても大きくて優しい、力強い意思が」
ユウナはそこまで言うと、一旦息を整えるかのように頷く。
そして、再びアルへと言ってくる。
「改めていうけど、それでなんだ! あたしも伝え聞く初代みたいに、人の役に立てる優しい人になりたいなって……そう思って、冒険者ギルドに入ったんだ!」
「…………」
やはりユウナの考えは立派だ。
笑う要素など一つもない。
アルがそのことをユウナに伝えようとしたその時。
「おーい! そこのおまえら! 魔物が片付いたから、一回集合だってよ! 多分キャンプの設営だ! 急げよ~!」
と、冒険者のそんな声が聞こえてくるのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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