第?章 魔王の旅は続く3
「あ、そうだ! 上位魔法 《エクス・ヒール》!」
と、聞こえてくるはユウナの声。
同時、ジークにかけられる魔法。
かけた本人こと、ユウナはジークへと言ってくる。
「ジークくん、どうかな? 痛いところはなくなった?」
「ちょっと待て、それ以前に俺は怪我してないんだが」
「ダメだよ、ジークくん! その癖は治した方がいいよ!」
その癖とはなんのことだろうか――ジークには全く心当たりがない。
などと考えていると、再びユウナはジークへ言ってくる。
「ジークくんは昔から、痛いことがあってもすぐ我慢して、他の人に迷惑をかけないようにすること、あたしは知ってるよ!」
「あぁ、たしかに魔王としての記憶を取り戻す前……ただの人間だった頃はそうだったかもな。だけど、今は大丈夫だ。本当に何の怪我もしてな――」
「上位魔法 《エクス・ヒール》!」
「まさかの二度掛け!?」
どうやら、ユウナさんは心配性のあまり、ジークの言葉が耳に入っていないに違いない。
けれど、ユウナは圧倒的な魔法の才能と魔力を持っている。この程度では魔力切れの心配もないし、回復魔法をかけられたところでジークに害があるわけでもない。
(これでユウナが安心するなら、放っておいてあげた方がいいかもな)
「ところで魔王様、次はどこに行くんですか?」
と、言ってくるのは、アイリスだ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「この近くに街があるみたいだから、とりあえずそこに行ってみようと考えてる」
「さっきの冒険者も、そこから送られてきたみたいですし、それがいいかもですね!」
「あぁ。大きな街だったら、ユウナを覚醒させる条件を知っている人も居る可能性が高い。それに俺達の仲間――宿魔人がいる可能性も高い」
「あとあれですよね! 邪魔な勇者を粉砕玉砕大喝采するんですよね! わかってますよ魔王様! この世界から勇者を全滅させて、魔物の楽園を作り出すんですよね!」
「ジークくんはそんなことしないよ!」
と、アイリスに言うのはユウナだ。
彼女はジークの腕をきゅっとしながら、言葉を続けてくる。
「もしその街の勇者が悪い人で、人を苦しめていたなら……ジークくんはそういう時だけ、勇者を倒すんだよね? だって、ジークくんはとっても優しい正義の味方だもん!」
「正義の味方!? ユウナって、本当に時々おかしなこと言いますね! 魔王様は悪そのものですよ! 最強にして至高の悪……あぁ、憧れます! さすが魔王様です!」
と、ユウナと反対側から、より強く抱き着いてくるアイリス。
彼女は小狡そうな表情を浮かべてくる。
一方のユウナはというと、それを見て対抗心を燃やしたに違いない。
「じ、ジークくんは悪なんかじゃないよね? 魔王になってからも、何だかんだ優しいし……だってこの前も、おじいさんをおんぶしてあげてたし!」
言って、彼女はアイリス同様、抱き着きを強めてくる。
けれど、ユウナはアイリスに対抗してやっているのが見え見えだ。
ようするにユウナは露骨に照れまくっている――上目づかいの涙目で、頬を染めている彼女を見ていると、ジークの方が恥ずかしくなるほどだ。
この状況を打破する方法は一つ。
「あぁ! 魔王様が逃げた! 待って下さいよ! 五百年以上待ち続けた、この忠臣アイリスを放置していくつもりですか!? 放置プレイはもう飽きましたよ!」
「ジークくん、そんな急に走ったら危ないよ! また怪我したらどうするつもり!?」
と、逃走したジークを追ってくるのはアイリスとユウナだ。
逃げる魔王。
追うサキュバスと勇者見習い。
傍から見たから、相当異質なパーティ。
そんな彼等の旅はまだまだ始まったばかりだ。
さてさて、本日の天気は快晴。空はどこまで澄み渡っている。
そして、そんな空には真っ白いドラゴンが、先ほどからずっと――まるでジーク達を見守るように旋回し続けているのだった。
さて……これは毎回、言ってることなのですが
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