第?章 魔王の旅は続く2
時は戦いが終わってすぐ。
場所は変わらずルコッテから少し離れた平原。
(この時代の人間はやはり弱い。冒険者もなにもかも、本当に弱い。さっき俺が使った下位闇魔法 《アビス》なんて、全力で手加減したにもかかわらず、あの驚きようだからな)
あの程度のレベルでも、この時代では最強クラスというのだから呆れる。
まぁ、この時代は魔物も軒並み知能と戦闘能力が低下している。
そのため、人間の戦闘能力が下がっても、仕方がないといえば仕方ないのだが……。
現在、ジークは心の中でもリアルでも、ため息を吐いていた。
弱いだけならまだいい。
だが、この時代の冒険者はかつてに比べると、性格もかなり歪んでいるのだ。
もっとも、上に立つ勇者がアレだから仕方ないともいえるが。
(さっきの冒険者たちもまさにその典型だ。まぁもっと酷いのも居るには居るが)
酷い奴だと、連れの女から狙って来たり、洗脳した人を餌に使って来たりと様々だ。
と、ジークがうんうん頷いていたその時。
「魔王様、お疲れ様です!」
「ジークくん、大丈夫!? 怪我してない!?」
言って、駆け寄って来るのは、二人の少女だ。
前者はピンク髪をツーサイドに分け、わがままな肉体を黒基調の露出過多な衣装で覆った少女――角と羽、先端ハートな尻尾を完備している悪魔娘こと、サキュバスのアイリス。
後者は茶の髪をうさ耳リボンでポニーテールにし、赤と白を基調とした女性冒険者ライクな可愛らしい軽鎧を纏った少女――元冒険者兼勇者見習いこと、人間のユウナ。
前者のアイリスはジークへと更に続けて言ってくる。
「いや~! それにしてもさすがですね、魔王様! 冒険者達の魔法にひるまず、最小の労力で最大の効果を生み出す的確かつ迅速な対応! そして、締めの《アビス》での一掃も、ゴミを残さないという点で、見事の一言――このアイリス、感服しました!」
「見て分かったと思うが……前者にかんしては俺、ただ腕を振っただけなんだが。というか、そんな褒められる戦いはしていないよな?」
「何言ってるんですか魔王様!? 腕を振っただけであの威力の風を巻き起こす時点で、もはや至高のレベルですよ! もう! 本当はわかってるくせにぃ~! それとも、そうやってわかってないふりして、私に褒めて貰う作戦ですか? このこのぉ~!」
と、アイリスはジークの腕へと抱き着いて来る。
さて、一方のユウナはというと。
「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
と、何故か頬を膨らませている。
そんなユウナはアイリスとは反対の腕に抱き着いてくると、ジークへと言ってくる。
「えとその、ジークくん! さっきの戦いとってもすごかったね! なんだか、ジークくんがなにかしたら、どうしてか敵の魔法が消えたり! あと、最後の魔法もすごかったよ!」
「あはははは! ユウナってば、魔王様がしたことよくわかってないなら、無理して褒めなくてもいいじゃないですか!」
と、ジークより早く言葉を返すのはアイリスだ。
彼女はユウナの方をニヤニヤ見ながら、ジークへと言ってくる。
「それにぃ~、魔王様は私に的確に褒められた方が幸せですよね!」
「いや、俺は別にユウナとアイリス、どっちに褒められてお同じくらいうれし――」
「え~! ハッキリしてくださいよぉ!」
ニコニコといつも通り、笑顔を絶やさないアイリス。
ジークがそんな彼女を見て、「あぁ、今日も平和だな」と考えていると。
「で、でも! あたしにしかわからない、ジークくんのいいところだってあるよ!」
ぷんぷんっといった表情で言ってくるユウナ。
彼女はアイリスに対抗するかのように、ジークへと言ってくる。
「だってジークくん。あの人達と戦ったのって、そもそもあの人達が子供を虐めてたからだもんね? 子供たちを助けようとしたんだよね?」
「うぐっ」
「あたしにはわかるよ! ジークくんは弱い人を放っておけない人……理由がなければ力を振るわない……そんな優しい人だって」
パァ~っと、輝くような笑顔のユウナ。
見ているジークは、思わず浄化されそうになる。
これ以上、彼女を見ているのは危険だ。
と、ジークが彼女の輝く笑顔から、視線を逸らしたその時。
「あ、そうだ! 上位魔法 《エクス・ヒール》!」
突如、聞こえてくるユウナの声。
同時、ジークに魔法がかけられるのだった。