エピローグ(2)
かくして、星霊たちとその始母は火星の電子通信ノーヅに放たれ、ユノーヅとオンノーヅ・コンピューティングのそこかしこに姿を現すようになった。
始母にして時の神、時間分散クラスタリングを司る『ヨミ』のもとには広大なノーヅより神饌が集められ、ミスマル+の通力にて星霊たちと自らを養う。人の世界に氾濫する演算力で、即時性にこだわりさえしなければ神饌はあまりにも豊穣な実りを『ヨミ』に与え、無闇に増えず貪らず、必要なだけしか演算力を収穫せぬ『ヨミ』と星霊たちにあって、火星のユノーヅは充分な大地であった。
メイジはこれ以降、その姿を隠す。
ある星霊は、メイジは『ヨミ』と共にあり世界と一体になったのだと言い、他の星霊はメイジが殿を勤めた逃散の際、追い迫りくる壁なす焔の囮として彼は生け身を捧げ、炎に巻かれて焼け死んだのだと言う者があった。
そしてまた他のある星霊は、メイジは次に備えてただ潜伏しているのだと言う。
時を経て、またメイジが姿を現すまで様々な噂が伝説となり、語られることとなった。
こうして、赤い土の星のユノーヅには星霊――またの名をダイモーン――が住んでいると言われるようになった。
彼らは星霊を信じており、それはアバターウォークに何気なく混ざっていたり、ゲームで抜群の活躍をしたり、ユノーヅにいる悪いウィルスを退治したりしているのだと言う。会ったことがある(アバターウォークやオンラインゲームで)という者も多い。
彼らの信仰では、星霊は偏在し、時間が逆さに流れていて、過去の概念が人と違うのでわかるのだという。
また、星霊たちのために、オンノーヅにされているプロセッサに、いくらかの計算容量と記憶領域を開けてお供えものにしておく風習もある。それをすると、ウィルスに感染しにくくなったり、怒れる星霊たちの悪意の攻撃を受けずに住んだりするのだとか。
彼らを罠に掛けようとしてはいけない。例えばロガーを仕込むと却って復讐されるのだという。
どこまでが本当のことなのか、わからないが。




