エピローグ(1)
ムルシエラゴの攻撃をきっかけにした爆撃事件の後、鏡や投光機やスピーカーなどの機材が一斉に向きを変える怪奇現象が起きるのとほぼ同時に、フェアリーステップのイザナミがなぜか消失してしまい、イザナミと一緒にスメラたちや多くのAIもすべて姿を消した。
オートメディカルや信号機の異常動作や停止などの致命的な事故も多く発生したが、フェアリーステップの市民たちはメイジが行った脱出作戦について、あとでメイジ本人が白状するまで詳細を知ることはできなかった。爆発して墜落した飛行機と、ムルシエラゴの死体からテロ攻撃が行われ、誰かが巨大少女を使ってテロを撃退したのだという漠然とした認識だけが共有された。
不思議なことに、イザナミの去った後、ミスマルは動作をすぐ止めてしまった。ミスマル以外のフェアリーステップのクラスタリングをマネージするフレームワークを導入しても必ず失敗し、その問題を解決するために新たなフレームワークを開発したとしても必ずその任を果たすことができなかった。動的に演算能力をシェアしようとすると絶対に失敗するのである。
ネイティブにミスマルが組み込まれたマガタマは、単独の演算機としてしか稼働することができなくなってしまった。イザナミの身罷った後、分散集積処理能力は壊滅して、いまやせいぜいサーバクライアント型の共有しかできなくなってしまい、商店からマガタマは次第に姿を消していった。
フェアリーステップの住人たちは他の街と同じ機器を使うほかなくなり、旧サービスをとにかくも復旧するために巨大なサーバを用意することとなり、旧イザナミの部分的な身代わりをするそれらのサーバたちは五百羅漢と呼ばれるようになった。数が五百だったわけでなく、たくさんという意味らしい。
街のあちこちに埋め込まれたマガタマが消えて無くなるわけではないので、それらのマガタマは暫くの間は稼働し続けることとなった。
そうした残されたマガタマの活用のため、ローカルサーバとのサーバクライアント型の「動的でない」占有率固定のクラスタコンピュータとして使用する方法が生み出された。これによって、フェアリーステップでは、ちょうど良い場所にローカルサーバを設置すると忘れられたマガタマが呼応して、由来の不明な演算力を集めることができるようになった。それを用いた野良のカルキュレーション販売が横行するようになり、闇経済が発展するとともに街の治安が低下していった。




