森が消えていく時(3)
ムルシエラゴは戦闘艇であるアルサ・デ・ムルシエラゴに実際に搭乗している。
乗っていたとしても、本来ならばすることはあまりない。
攻撃目標と効率の良い飛行経路はすでに艦載の戦術コンピュータに登録してあり、飛行は自動、攻撃も自動だ。
しかしテロ攻撃には不測の事態が付きものであり、その時にコマンダーとしての役目を果たすために乗っているのだ。
予備攻撃の反応はOK。砲は正常。
ムルシエラゴは舌なめずりをして、これからの攻撃の楽しみに備える。
そのとき、アルサの光学系が突然アラームを鳴らした。
ムルシエラゴが目視で確認すると、フェアリーステップの手前に三〇階建てのビルほどの巨大な物体が出現している。
火気管制とレーダーは、その巨大物体を捕らえることができない。
ムルシエラゴが拡大画像を参照すると、それが巨大な少女の後ろ姿であることがわかった。装飾の多い派手な作りにパステルカラーの、子供のおめかしみたいな衣装を着ている。
「なにあれ?」
人が真剣にテロをしているのに!
馬鹿にされているとしか思えない目の前の光景にムルシエラゴは怒りにかられたが、冷静さは失わなかった。
このタイミングで異常事態が起きたということは、この襲撃計画が発覚している可能性が高い。
意味が分からず、迎撃のメッセージなのかなんなのかまるで分からないが、誰かの意図で何かが起きており、それが今だということは、ムルシエラゴに向けたメッセージではあるはずだ。
ムルシエラゴはプロらしく、爆撃計画を「緊急用」に切り替えることにした。
より致命的な場所だけを五〇〇箇所のみ攻撃する。
予定の二〇分の一ほどまで攻撃目標を絞り込むため、目的の達成が容易であり、緊密なスケジュールを遵守する必要もない。また、必要時間も減少する。
緊急回避に時間を取られても、充分に大きな被害を与えられるだろう。
ムルシエラゴは操縦桿に手を添え、緊急事態への対処に備える。
こんな時のために搭乗していたのだ。
戦士としての血が沸くのを感じる。
「面白くなってきた」
ムルシエラゴは赤く塗った唇をすぼめて、だんだんと近づいてくる巨大な少女の後ろ姿を見つめた。




