森が消えていく時(1)
マイの目の前に巨大なハルカちゃんが出現したころ、都市の各所で異変が起こり始めた。
街の外れで爆発が起こった。レーザー砲の動作確認のため、反応がわかりやすい目標をムルシエラゴが予備攻撃したのだ。
撹拌中の粉末ディスプレのプラントが破裂し、撹拌された状態の粉末ディスプレが爆圧で一気に拡散する。拡散しながら、粉末ディスプレが異常反応した虹色のキラメキが空中を舞っている。
そして、ムルシエラゴの襲撃と時を同じくして、人々の視界からEnScapeが失われはじめた。最初のEnScapeが消えるのと同時に、全ての人のDoLRの戦闘が発生しなくなった。
それだけではなく、スメラたちが彼らの前から姿を消し、商用のカルキュレーションからコントロールが失われ、商店のレジが会計を停止し、交通信号機から光が消え、病院のオートメディケーションが動きを止めた。
EnScapeはその間もどんどん人々の視界から失われてゆく。
EnScapeを使用しない、ユノーヅからレイヤードリアリティだけにアクセスしている人達の姿も、街からどんどん失われてゆく。
人々の視界から次々と様々なものが失われて行き、フェアリーステップの象徴である森もまた消失してゆく。
状態確認や回復のため、マガタマに直接アクセスを試みた者もいたが、マガタマも所定の動作をしなくなっていた。
どうやら演算処理が次第に人々の手を離れて行っている。
実は、ムルシエラゴの攻撃開始をキーにしてメイジの脱出計画が始まっていた。人々が感じているEnScapeの喪失は、ムルシエラゴの攻撃の成果ではなく、脱出計画の副作用である。
メイジの計画とは、ミスマルを乗っ取ってフェアリーステップのすべてのマガタマの動きを書き換えてイザナミを殺し、スメラたちの新たな居場所であるヨミを出現させることである。
その最初の段階、マガタマの書き換えが始まっている。




