VRキラキラパフォーマンス オン・ノード(3)
店長から開放されてロビーに設置されているショップに向かう。
ゲーム内通貨であまり高くない金額に設定されているこの土地のキラキラアピールと特製の綺羅を購入、買ったキラキラアピールを使ってゲーム内で特定条件を満たすともらえる追加アピールプライズの取得条件を確認する。一連の、言ってみれば旅先のキラハウスでのお決まりの手順を踏んでいると、アバターのハルカに話しかけてくる人が居た。
「ねえ、もしかしてフェアリーステップのキラハははじめて?」
ロビーの旅行者に話しかけてくるものは少なくない。明朗で心優しく快活というスローガンのとおり、このゲームには親切なプレイヤーや、親切を演じているプレイヤーが多いのだ。
「うん、はじめてだけど……」
「わぁよかった。じゃあ、お友達になろう?」
「え? いいの?」
「うん。そのリボン、可愛い。わたしはまいぴょこって言うの。お名前、なんていうの?」
「私はハルカっていう名前なのよ」
会話をしながらパジャッソは緊張する。この感じ、話題の飛び方、距離を詰める速度、名前のセンス、どれをとっても相手の少女はかなり幼い本当の少女だと察せられる。元々少女向けのゲームなのだから、もちろん本当の少女は多い。
少女向けの世界で、少女の役を担う自分が少女の世界を損なう訳にはいかない。出来る限り破綻なくそれらしさを装わなければいけない。上手く行かなくとも、少女の悲しみを誘うような形での破綻は避けなければいけない。難しいのだ。
「そのコーデ、似合ってて可愛いね。どこのブランド?」
「え……、サニーマーメイドの新作だけど……」
「そっか。あたしは最近キラハにあんまり来なくなっちゃったから詳しくないんだ……」
「私、いっぱい持ってるから、同じのあげようか?」
「あれ?」
パジャッソの申し出にまいぴょこが少し怪訝な顔になる。
「もしかして、大人の人?」
……もうバレてしまった。実際、よくバレるのだ。
「そう。大人だよ。だから綺羅もたくさんあるんだ。プレゼントするよ」
「ありがとう。大人の人ってコーデくれるから好き。この後も遊んでくれる?」
「それはいいけど、知らない大人と遊んじゃだめって怒られたりしないの?」
「よく言われるけど、慣れてるし、ゲームだから大丈夫。友達もみんなそれで危ない目にあったことないよ」
「そう……」
「それに、あたし他所の街のスタンプ欲しいんだ。一緒にピクトしよう?」
ピクト、つまりデコレーションスタンプ付きの写真である。キラキラライブハウスでは土地ごとに所属のデコレーションスタンプがあり、あまり厳しくない条件でキラメスターはそういったスタンプを入手することもでき、スタンプはピクトに付与できる。
「やった。じゃあ撮ろう!」
結局のところ写真なので、機能的にはどこででもピクトを起動することはもちろんできるのだが、キラメキライブハウスには特製ピクトスタジオがあり、プレイヤー取得不可の背景や効果や前景やスタンプなどで公式印ピクトを作成することができる。ピクトの料金はゲーム内通貨も使用できるし、実際の通貨でも子供のお小遣い程度。
大人であるパジャッソが支払おうとすると、まいぴょこが制止してくる。
「あたしは無料だから払わなくても大丈夫だよ」
「え!? スーパースターなの?」
「うん」
「すごい!」
「そんなことないよ。友達にもスーパースターがたくさん居るし。この辺だと普通」
スーパースターはゲーム内のランクだ。累計スコア最高ランクの証であり、様々な特典がある。公式ピクト無料もその一つだ。
まいぴょこはこう言うが、上位数%の相当な高ランクプレーヤーである。
「スーパースターとピクトできるのは嬉しい。撮ったらサインもらってもいい?」
「いいけど、あたしのサインなんて誰も知らないよ。スーパースターってたくさん居るんだから」
「そんなことないよ! それにスーパースターのサインは光るでしょ? あれが好きなんだ」
「うん、あたしのも光るよ。じゃあサインも入れるね」
まいぴょこは「これが好きなんだ―」と言いながら背景に恐竜時代のものを選び、前景やスタンプなどをパジャッソに選ばせてくれた。パジャッソは本当は何でも良かったので、まいぴょこの反応を見ながら彼女が好きそうなものを適当に指定をして一緒にピクトした。