フェノメノロジカル・エンジニアリング（５）
この場合のイザナミ＋αに求められるものは、従来のイザナミ相当の分散演算管理に、ワーム制御とイザナミ維持の機能を加えたものである。
結局はイザナミ相当のプロセッシングの分散が行われるため、現状のアーキテクチャでも分散統合能力が最強に近しいプロトコル／ＯＳのミスマルは不可欠だ。
そして、各々のスメラが個別のミスマルで自分用のイザナミ＋αを備えることができれば個別には現在と同様の動作を期待できるが、また別の課題としてダメージへの耐性を考えた作りにする必要が出てくる。
実はイザナミ＋αには、スピードはそれほど必要とされていない。なぜなら最速の状態でも外界とは時間進行のギャップが必ず発生することになるからだ。
つまり、スメラのフラグメントの単体稼働時間を減らしてでも、各々のプロセッサでの占有時間を短縮させることによってプロセッサ所有者に感づかれる可能性のある稼働時間を短くすることは防御に有効だろうし、同一プロセッシングを輻輳して冗長性を持たせることでダメージ耐性を上げることができるだろう。ストレージングに関しては、いったんアクセスしたストレージにこっそりと分断されたスメラの欠片を忍ばせ、必要になったときにサルベージをできるようにしておくのもよい。
ワームの生存戦略として、個別のプロセッサに高負荷をかけず短時間で立ち去る事とともに、人間社会へのアプローチも有効になる。
つまり、演算能力と記憶容量をいくらか拝借するが、それによる見返りがあるならば、退治されない場合も増えてくるだろうということだ。やりようによっては、進んで進呈してくれる可能性もある。
そう。パジャッソがマイからマガタマを取り上げたように、損得の交換が有効なのだ。騙してもいいし、完全に騙すだけでなく部分的に騙すだけでも良い。
たとえば、高性能なユノーヅ・セキュリティサービスを広く提供するとなれば対価として充分と感じる者も居るだろう。同時に、バックドアを仕込むのも有効な対策になるかもしれない。そういう取引でも良いし、騙しても良い。
それぞれのサービス下で搾取しすぎなければ、セキュリティ対策は演算量の確保のためにも有効な手段となりうる。
さらに言えば、ライバルが提供しているセキュリティサービスに絞ってノード攻撃を行ったりすれば、セキュリティサービスの普及もしやすくなるかもしれない。なにしろ人間の行うセキュリティ対策は大抵は稚拙で、メイジにとっては話にならない。
それはセキュリティ対策ではないが、取引でも良いし、騙しても良いのだ。
生存のための方向性がここまででだいたい見えてきた。
