EnScapeキラキラパフォーマンス:オン・ライフ(5)
ステージ終了後、ふわふわと現実感の戻らないまま、マスコットの赤い鳥に楽屋まで誘導された。
レイヤードリアリティをすべて戻すようにという強い注意のあと、ハルカが戻ってきた。
そのまま楽屋でハルカと三〇分ほどの楽しいおしゃべりの時間を過ごす。
その日、そこを立ち去ったあと、パジャッソはひとつの決断をした。
ハルカのアカウントをAIボット化するのだ。
これまで手塩にかけて育てた自キャラではあるが、肉眼でステージパフォーマンスを見てしまったことで「自分がハルカになる」ことに抵抗を感じるようになってしまった。
AIとはいえ、ハルカが歌って踊る姿を見ることができさえすればよい。人格も付けるが、ボットのついでみたいなもので、あまり凝る必要もない。というよりも、ハルカがどんな性格なのかまでは別に決めていないのだが、今から自分が決めるのも違うと感じる。自分はハルカが居ることを知っている(ような気分になっている)が、どんな人物なのかまでは知らない。この知識のギャップは現実の他人ならばよくあることだ。
その他人の人格をどう再現するか。
答えが出るわけないのだから、さしあたり仮置きするしかない。
それだけではない。凝ったAI人格をパジャッソが作れるはずもないのだ。いままでそんなことをしようと思ったこともないから、作り方もわからない。
人格AIといえばリストラクテッド・ペルソナを使用すればよいのだろう。ちょうど良いことに、フェアリーステップはリストラクテッド・ペルソナの本場だ。……多分。
パジャッソはリストラクテッドペルソナが稼働できる量のマガタマクラスタと、リストラクテッドペルソナの構築キットの価格を調べ始めた。
その二日後、予定通りカルキュレイト・エンジニアリングの計算結果を受け取って、以前と同じく秘匿化した通信でそれをムルシエラゴに渡した。
これで現地での仕事は終了したが、パジャッソはフェアリーステップに居続けてハルカのボット作りの続きをすることにした。
どこが攻撃されるのかは知っているから、そこを避けさえすれば危険すぎるということはない。




