EnScapeキラキラパフォーマンス:オン・ライフ(2)
「さあ、ハルカちゃんの楽屋についたよ。ノックしてみて」
ガイドマスコットに促されて、扉をノックすると「はーい」という聞き慣れた声が奥から聞こえた。
「どちらさま? …あれ?」
実際の扉が開いて、中から仮想の女の子が顔を出した。
見慣れた顔。いつもは自分が操作しているハルカだ。
「わぁ、来てくれたんだ! ありがとう!」
そう言って、仮想の視覚の中のハルカが自分の手を取って握手してきた。
いつものセンサーグローブのフィードバックとは違う感触がある。仮想視覚なのに? そもそもセンサーグローブもつけてないのに?
パジャッソが戸惑っていると、楽屋の中のキラメキターミナルからハルカを呼ぶ声が聞こえる。
「ハルカちゃん。スタンバイお願いします」
「あ、呼ばれちゃった。あたし、出番に行ってくるけど、その子に聞いて舞台袖から見てて欲しいなぁ」
そう言ってちょっと振り返りながらハルカがゲームに出てくるキラメキターミナルを操作して、虚空から出現した扉に入っていく。ゲームで見慣れた扉、キラキラエントランスだ。その中で着替えたりその日の特別メイクをしてから、ステージに行く。
「じゃあ、奥のドアを閉めてから、キミも同じ扉に入ってね。そこから舞台袖に向かうよ」
「いま、ハルカに手を握られたんだけど……」
「キミとハルカちゃんは特別な関係だから、ハルカちゃんだけは手を握ったりできるんだよ」
「まさか……、どうやって……」
「どうしても知りたいなら、エントランスの横のヒントのオーメンをエンゲイズしてみて。でも、手品の種明かしはあんまりおすすめしないなぁ」
パジャッソは扉の横にヒントのコールをしてオーメンを呼び出し、視覚利用操作でアクションを起動してそのオーメンにEnGaze、該当オブジェクトに透明度を二〇%付与する。すると扉の映像が少し薄れ、ブランクボットの格納庫が肉視できる。つまり、のっぺらぼうのロボットがアバターを着ていた、ということのようだ。
確かに知らないほうが良かった。
どこでも使われているありふれた方法なのに、動転のあまり気づけなかったのも情けない。すでに格納されていて、ブランクボットそのものの姿が見えないのだけがせめてもの情けだと思える。




