美しく謎の多い、危険な女:ムルシエラゴ(3)
街に来る前からフェアリーステップの重要施設を含む立体的な構造図を、パジャッソは入手していた。そしてここ数日の市中の偵察で複合抗の情報や各所の交通量などの情報も手に入れた。
イザナミによって決定的な中央管制施設を持たないフェアリーステップをレーザー爆撃で破壊するとなると、各所の施設やインフラを地道に破壊する他ない。
電池を狙った誘爆や、クリティカルな電力線へのダメージ。
どこを攻撃すべきか。攻撃しやすいのか。
あとはパズルである。
パジャッソは学習型の意思決定支援のエルフを利用しながら重点目標三千箇所と破壊目標三〇万箇所を選定した。それらの破壊目標から、重点破壊目標の達成率と、継続射撃の発熱量を考量に加え、最大破壊目標数を目安に最適フライトプランと射撃スケジュールを算出する必要がある。
このパズルは組合せ最適化問題となり、近似解を生み出すだけでも膨大な計算力が必要となる。とはいえ演算力は手近にあるのだ。つまり、フェアリーステップからカルキュレイト・エンジニアリング・プランを購入すればよい。
それは専門のエルフとの対話で求めるカルキュレイション・システムを自動発行し、必要な演算を『量/納期』で確保するサービスである。一時期流行した映像素材衣料のセルフメイド・テクスチャや、観光巡礼者が選択した聖地巡回路の特殊条件解決、ゲームのRTAアタッカーによる最適手順チャート作成などにも利用される、誰からも利用されているありふれたサービスだ。街のガイドのパンフレットにも書いてある。
カルキュレイト・エンジニアリング・プランでは、顧客の秘密を保護するために人間の相談を通さずに自律型のエルフを利用している。さらに顧客情報保護の法令もあるうえ、フェアリーステップのコンプライアンスと利用規約の遵守が徹底されている。またさらに言うならば、ゲームの攻略のための爆撃目標の効率的な算出自体はよくある問題なので、特に目立ちもしない。
つまり、フェアリーステップでフェアリーステップの爆撃計画を算出したとしても、その計算が特に人目を引くという理由はない。
ムルシエラゴに送ったタイムライン通り、パジャッソはそれを購入した。
結果が帰ってくるまで二日。
その間はパジャッソとしても空き時間になる。




