美しく謎の多い、危険な女:ムルシエラゴ(1)
パジャッソは今日も目立たないように市内のあちこちを見回っていた。
市内の様々な場所を見回り、ライフの人たちの交通の様子を探り、大づかみに地域の地形を体感していく。パジャッソが歩き回り、カメラで捉えた情報を元にコンピュータが自動的に修正をしてくれる形だ。
拠点に戻った後、集めた情報を元に目標地点のリストを修正する。地図情報は多くの場合は事前に調べていた情報の答え合わせになっているのだが、複合抗の地形を把握できたのは目新しい。
マイから騙し取ったマガタマを改造して秘匿化した通信を作成し、仲間のムルシエラゴのところに修正計画の予定と今後の予定のタイムテーブルを送りつける。
安全確保のために相互通信はしない。そういう約束だ。
ムルシエラゴといえば、その道では知らぬものの無い雇われテロリストである。
傭兵というのとはまた質が違う。そもそも現代、地球失踪後の太陽系では、戦争はまだ一度も発生していない。もともと大部分の軍事力が地球に存在していたのだが、それも地球と一緒に太陽系から消えた。
太陽系全体の領域に比べて人類はまばらであり、領土の拡大がしたければ好きなようにできるし、人類も地球が在った頃に比べて十分の一以下で資源も偏ってはいるが不足するほどではない。テラフォームができていない居住空間の方が多く、生存のための余裕が小さく、人の命が重く、情報の流通は高速で活発なために、戦争をするほどの理由がない。強力な兵器そのものは存在するため平和同盟と平和維持軍が存在するが、人類社会にその敵になる勢力は存在しない。
仮に傭兵を開業しても、雇い主が存在しないのである。
とはいえ荒事そのものの需要はあるので、ムルシエラゴはその隙間に生きている。
傭兵とテロリストの間を取って、テロリスト・オブ・フォーチュンと自ら名乗ることもある。
美しく謎の多い、危険な女。
それが広く世に出ているムルシエラゴのイメージである。
分野は都市攻撃。暗殺などは請け負わない。
それがムルシエラゴの仕事だ。
殺人をしないのではない。なぜならば、結果的に出る人死にには頓着しない。
特定個人を選択的に標的にはしないというだけだ。
そうではなく、とにかく都市を大規模に破壊する。
パジャッソはムルシエラゴの相棒である。実際の行動、交渉事、パブリックイメージ担当がムルシエラゴで、パジャッソは計画や下調べ資材の調達などなど、表に顔を出さない仕事を担当している。
チームのリーダーはムルシエラゴ。
二人の間には肉体関係もある。
実態は、何かのときに暇にしていたムルシエラゴにパジャッソが手を出された、という程度のことであり、恋情や愛情が有るのかといえば無いのだが、ムルシエラゴは確かに姿の美しい女なのでパジャッソとしても悪い気がしているわけではない。




