メイジ:リストラクテッド・ペルソナ(3)
メイジはフェアリーステップのホストキャラクターだが、人前に出ることを好まない。
別にそれを禁止されているわけでも、絶対にしないように避けているわけでもないが、華々しく人前に出てトークやEnScapeの仕掛けを使った見世物を披露してゲストをもてなすことを好まない。何か理由があったのかもしれないが、自分でも忘れてしまった。単にへそ曲がりなのかもしれない。
ゲストの応対をしないホストキャラクターに存在意義があるのか、というのはフェアリーステップの運営主体でも過去に検討されたことがあるのだが、実際にメイジの動作の停止や隔離、クラスター分割などを通して検証され、メイジが存在するだけでスメラ全体のパフォーマンスが向上する傾向が確かに存在していることが判明した。なぜそうなるかは不明なまま、謎のノウハウとしてメイジの稼働は続けられることになった。
メイジが全体効率に関わる話は、「中国人の部屋」と呼ばれる──つまり本来の知性でないという扱いを受ける──ことのあるリストラクテッドペルソナ同士の社会的行動と創発性にまつわる新しい問いを立てることのできる大きなテーマなのだが、フェアリーステップの運営主体に顧みられることはなかった。
メイジは気の向くままに過ごしている。
アバターの姿を表わすことなく、気ままにあちこちを見て回り、スメラたちと気の向くままおしゃべりをして過ごしている。
パジャッソがメンテナンスハッチから複合坑に入りこんだときにはすでに気がついていた。あえてルールを破りたがるものはどこにでも居て、それ自体は珍しくもない。cpSターミナルを外して出所不明のターミナルで連続性の隠蔽を図っているのはどちらかといえば珍しい。複合抗のマップ作成の手際も悪くない。
児童と接触してマガタマを奪い取る流れは、メイジにとって目新しかった。
取り上げたマガタマのアイデンティファイ情報を乗っ取る手順も、メイジから見ても悪くないものだった。
メイジはパジャッソにを観察対象と定め、エルフを遣わせておおまかな追跡を仕掛けた。面白いことをするようならば、また見に来よう。
更に、なんとなく盗聴を仕込んでいたアケビに対する仕込みを一段階進めてAIを乗っ取ることとし、メイジの分身をスキットとして仕込んで逐一反応を確かめることにした。マイは個別に面白い対象ではないが、行動の取り留めのなさから、乱雑さを生み出すシードとして使うことができそうだ。
なにより、パジャッソがしていたように児童に虚偽を吹き込んで行動させることは、なかなか面白そうでもある。




