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彼はフェアリーステップを探検する(3)

 パジャッソの役目は、言ってみればこの街を見て回ることだ。

 フェアリーステップの地形は基本的にユノーヅに公開されているし、ユノーヅからの接続で街を見て回ること自体は簡単にすることができる。パジャッソがわざわざこの街に来たのは、そこで見て回れるもの以外のことを確認するためだ。

 実際に歩いてみると、EnScapeには所々に隙間があることがわかる。裏を覗いて確認するとそういう場所には隠れ通路やメンテナンスハッチがあったりする。パジャッソは宿の近くにも複合抗へのハッチがあるのを確認した。

 宿に戻ってそこに潜り込む準備をする。

 難しいことをするわけではない。マガタマを使用したcpSやpCATをそのまま利用することは位置情報を常時監視されているのと同じことになるので、それを避けるだけだ。もちろん都市の提示するプライバシーポリシーはpCATやcpSに使用した位置情報を目的外で使用することはないと明記されているが、なにぶんにもEnScapeなりcpSなりのサービス提供元と警察のサービス提供主体が「うぐいす電機インダストリー」主管のフェアリーステップ運営で同一なのだ。パジャッソの行動が捜査されることになった場合、それらのログが洗われるのは間違いない。

 入市の際に運営から貸与されたマガタマ使用のcpSターミナルを置いて、ここに来る前にフェアリーステップの外で調達した調査用の機材と交換する。特別なものではない。高級品でさえなく、どちらかと言えばごく普通のレイヤードリアリティ環境である。EnScapeそのものは通常のユニバーサルノーヅ上のレイヤードリアリティ技術の延長であり、その特別性は「都市全体をひとつのポリシーで」運用していることと、マガタマを使用した緻密な測位技術によるアバターへのアクティブな反映性の高さと、実地にその場所にいるという心理的な臨場感で特徴づけられている。

 レイヤードリアリティもパッシブな情報取得に限ればマガタマは不要なのである。存在場所のコールを号令としてその場所のレイヤーを呼び出してくる形である以上、使用実績自体の秘匿ができるわけではないが、コールする際のアイデンティファイ情報を偽装してさえいれば、貸与のマガタマとの連続性は自明ではない。

 念には念を入れて用意はしているが、なによりパジャッソがするのはそれほど大掛かりな事でもない。関係者以外立入禁止の場所を見て回る程度なのだ。足がついても本当はそんなに困らない。計画を実行すれば、この街では犯罪の捜査どころではなくなる予定である。極言すれば、襲撃が始まるまでの短い期間、調べずにわかるほどの痕跡が残らなければそれでいいのだ。


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