彼はフェアリーステップを探検する（１）
パジャッソは大樹の街を歩く。
インプラントされている角膜ディスプレでEnScapeを利用して、それがフェアリーステップの街並みを大樹の森の街に見せている。街に入るときに借り受けたcpSターミナルは違和感なく使用できている。パジャッソの自前の行動センサーとの連携も悪くない。
パンフレットに書いてあったとおり、街並みそのものがテーマパークなので見て回るだけでもなかなか楽しい。
巨木の幹に沿うように建てられた建造物や、建てた後に木の幹に取り込まれたような建物。森と街が融合したような新規で目に楽しい風景である。
視界に大量の兆し──シグネチャオーメン──がチラついて、通行人のアクションを誘ってくる。いわゆるアイコン的な視覚的な印も多いし、オブジェクトの揺れや動き、音や配置など、さまざまな兆候がアクションの目標として指定できる。
確かに売りにしているだけあって、フェアリーステップのEnScapeは一般のレイヤードリアリティと比べてずっと緊密だし、オブジェクト同士の関連も整然としている。普通ならば、せいぜい看板にユニバーサルノーヅ連携のタグがついているぐらいだし、凝っていてもマスコットキャラのオーメンにアクションすると詳細を見るかどうかの許可が自動的にポップして、許可をすればそこで通信が発生してポスターの前で宣伝をするぐらいのものである。
フェアリーステップでは域内ノードへの接続は無料、域内ノードからユニバーサルノーヅへの接続は無制限で同じく無料。EnScapeの常時使用が強く推奨されている関係で域内ノードへの接続は無料だから自由にできるというよりむしろ義務となっており、接続が途切れると警告されてしまう。
現代ではレイヤードリアリティ自体が普通のものであり、EnScape常時使用でもあまり違和感はない。常時とは言え、視覚の神経接続デバイスはまだ医療用のイメージが強いのだが、角膜ディスプレのインプラントもそれほど珍しくもない。パジャッソが角膜ディスプレをインプラントしているのも、まぁ普通だ。
町を歩く人の格好も様々だ。
広告用のレイヤードリアリティボットと同様、他の場所では配信許可制だが、ここでは域内ノードへの配信は原則受け付けになっている。EnScapeというだけあって風景すべてが対象なのでいちいち許可していられないし、ノードへの接続が無料なのでなので拒否する理由も無いのだ。そのため、仮想アクセサリやアバターを着て歩くのが盛んである。このあたり、パンフレットに書いてあった通りではある。
一番多いのは、普通の人体にフェアリーステップ土産のDoLR装備に準じた仮想アクセサリ（弓や剣などの武器、設定にある森の民の衣服など）を付けている人。自前のアバターを着ている人（いわば着ぐるみ）、出来合いのフルアバターをレンタルしている人。この町で見かける特有の存在としてユノーヅ接続のアバターだけの人も町中を歩いているし、ロボットにアバターを着せてテレプレゼンスしている人も時には見かける。
そして、この街特有といえば、スメラたちである。
