マイちゃんの下校(2)
マイはDoLRを起動する。
マイのEnScapeアバターは生身の姿と変わりないので、フェアリーステップの域内環境で別アバターのDoLRを起動すると、いわば変身をすることができる。
DoLRのマイの自キャラは大きなスカートを履いた背の高い赤い髪の女戦士だ。
DoLRには大人のプレイヤーも多くて課金をしている人が多いから、マイの女戦士は見た目ほどには強くないけど、アクティブスキルは豊富に持っているし、キャラの扱いは上手い。この街で生まれて育ったのでこういった操作には慣れてるのだ。
自分の身体よりだいぶ大きなアバターの自分の手とは違うところにあるアバターの手を使ってほつれの部分を触ろうとするが、やはり上手くいかない。アバターの持っている剣の先で触ろうとしても変わらない。
『気合充填』スキルのモーションのオーラで少し風が出るのだけど、その風でほつれの部分がそよぐことは確認できた。まったくの無反応というわけではないという事だから、希望があるように思う。
より強い風、と思っても魔法使いではないから直接風を吹かせるスキルは持っていない。
戦士の強力な攻撃をすると風とか爆発が出るので、いくつも試してみたけどめくれるところまでは行かない。
「もうちょっと、なにかがあればできるのかも…」
回復レーションの恐竜肉があったら肉を焼くときの火で燃やすことができるかもしれないけど、いまはちくわレーションしか持ってない。そのちくわレーションで歪みを触ろうかと思ったら、予約行動が設定されていて出した瞬間に食べてしまった。手に持ったちくわでなにかをすることはできないらしい。
戦闘中にはそのほうが使いやすいから、それが当たり前なのかも。
いずれにせよ、めくれの部分がそよぐように動くので、ゲーム上のスキルポイントなしで何度も使える『気合充填』を繰り返しやってみるが、それ以上の進展はないので埒が明かない。次回は、風の魔法と火の魔法が使えるアイテムを持ってこよう。
cpSの記録があるので帰り道の寄り道があまり長いと怒られてしまうし、確認したときにEnScapeの裏側を通って来たこの場所だと「危ない所に行った」といって怒られてしまうだろう。
あまり長くなりすぎる前にもう帰った方がいいかもしれない。
その前に、EnScapeを切ってこの場所がどうなっているのか確かめておこう。
自分の家以外でEnScapeの接続を切るのは良いことではない。
よく知らないけど法律で禁止されているって聞いた。
とはいえ、ぶつけた時とか目が痒い時に少し止めるだけで逮捕されるわけじゃないから、ちょっとなら平気だと思う。ぶつけたことにして、EnScapeゴーグルを取り外してみる。
茂っていた森が消えて、茂みの向こうにトンネルの入口があった。そこにお兄さんが立っている。




