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マイちゃんの下校(1)

 フェアリーステップの少女マイ。

 学校を終えて帰り道。肩には薄紫色をした熊と猫の中間みたいな不思議な生物を模ったペットロボットを載せて、顔には学校指定のゴーグルをかけている。EnScapeの森を通り、自宅までの道を示すcpSの道案内を無視して町外れの綻びに向かう。その綻びは先週見つけたEnScapeのバグで、上手く引っ掛けたらめくれそうな気がする。

 友だちを誘っても来てくれなかった。あんまり興味が無いそうだ。

「裏側が見えたら絶対面白いのにね。ね、アケビ?」

 肩に乗ったペットロボットは、幼い頃から遊んでいるキラキラパフォーマンスの標準的なアシスタントマスコットを模している。好きで買ってもらったものだけど、自分より小さな子たちも遊ぶゲームだから幼いような気がしてちょっと恥ずかしくなってきた。

 ゲームの方には飽きていないのだけど、もっと大人がやるDoLRの方がかっこいい。みんなもそう言ってる。キャラクターは作ったものの、まだ弱くてそんなに楽しくないから、キラパの卒業を思いきれないでいる。

「そうだね、マイちゃん」

 アケビが返してきたのは、お決まりの答えだ。

 いつもこうだ。

 難しい質問には答えられないのだという。

 面白いかどうかなんて難しいとは思えないけど、意見を求められるのは苦手だっていう話だ。楽しいかどうかなんて意見に入るんだろうか。マイにはよく分からないのだが、アケビが苦手なのだから文句を言っても仕方ない。

 小さな橋のたもとを抜けて、あまり綺麗ではない川辺りに降りる。

 木の根が邪魔をしているように見えるが、木の根はEnScapeで見えているだけで、実は障害物は何もなく素通りできてしまう。

 EnScapeの壁をすり抜ける時にアケビが制止の声を上げるが、お決まりのセリフなのでマイの耳には留まらなかった。

 さあついた。

 森の奥の秘密の泉だ。

 とはいえ泉というよりも小川の切れ端が乱雑に重なったような見た目で、周囲は森の自動生成の境目なのか、木の枝が普通以上に複雑に絡んでいる場所が多い。とある木の幹の一部が(ひず)んでいて、薄い皮のように持ち上がっている箇所がある。

 その持ち上がっている部分が樹皮ならばもう少し厚みがあるはずだから、やっぱり変だ。だからこれはバグだ。

 EnScapeの裏側に行くことができたらどこにでもすり抜けて入れるようになるらしいという話をよく聞くし、ワープしたり色々な裏技が使えるようになるという噂も聞いたことがある。

 どうにかこのほつれを捲ってみることができないか、色々と試してみる。

 でも上手くいかない。

 手をぶつけてもすり抜けてしまうので難しいのだ。

 アケビに捲ってもらうように頼んでも、アケビも上手くできない。

 アケビを自分の手に持って、アケビの耳の尖った部分でこすってみても上手く引っかかる様子はない。


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