イントロダクション
火星には星霊が住んでいると言われている。
星霊、またの名をダイモーン。
そう言われているというか、火星の住人たちの間で囁かれているフォークロアのようなものだ。曰く星霊は火星のユニバーサルノーヅに住んでおり、曰くノーヅでは特別な力を発揮できる。曰くアバターとしてゲームやチャットに姿を姿を表すことがある。曰く普通に言葉を交わすこともできるが、星霊たちは逆さに流れる時間の中に住んでいる。未来のことを知っているが過去のことはまだ知らない。
ユノーヅで遭った星霊を見分ける時、外見ではわからないが、特有の時間感覚でわかってしまうんだそうな。
話によれば、瑞穂のオーディンやアイドルのハルカのような有名ゲームキャラも星霊なのだという。
ゲームのキャラなら要するにAIボットなのではないかと聞くと、似て非なるものなのだそうな。星霊たちには目的のようなものはなく、決まった行動があるわけでなく、そもそも所有者が居ない。そしてなにより、星霊たちにお供えをしたり親切にしておくと、悪意の攻撃を受けにくくなり、健康にユノーヅの生活ができるご利益があるのだという。
お供え物はセキュリティを緩めて誰でも使えるようにしたユノーヅ上の計算資源やストレージ。
ローカルなノーヅ共有の境界にセキュリティを甘くしたそれらの機材を置いておくとか、細かな調整が面倒ならばお供えサーバもお店に売っているのだとか、信心深い人は自宅に専用の神棚を置いているとか、携帯用のお守り袋に入れておけるお供えサーバもあるのだとか。
そんなお供えを掠めて使おうとするとバチが当たるから、火星人ならばどんな悪人でも供犠の御饌を奪うようなことはしないそうだ。
この話は、その星霊が生まれた時の話。
誰が見てきて誰が伝えたのかもわからない伝説。
’ユニバーサルノーヅ (Universal Nodes)【名詞】
こんにち一般的な演算装置同士の情報通信網の全体のこと。略してユノーヅ(UnNodes)とも。接続されている個々の機材の、ユニバーサルノーヅ側の接点をノードと呼び、おおまかに全世界的なノードの集合の結果としてできあがった有用性を指してユニバーサルノーヅと呼ぶ。旧地球時代二〇世紀に発生した”インターネット”から発展し、技術的な進歩とともに包含するノードの種類や接続方法が増加して概念的な拡大が行われた。
極狭義には、アバターチャットをするための仮想的な空間を指す。
広義では、天体間の即時でない接続や、”死後の世界”など想定される未知のノードを含む情報網全体を指す。