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裏テレビショッピング

作者: 春名功武

 耳馴染みの良い音楽が流れ、「裏テレビショッピング」というテロップが画面いっぱいに出てきて番組はスタートした。


 ニコニコした笑い皺だらけの司会者が軽くトークを交えた後に、3名のゲストを紹介した。


 ゲストは、司会者とは打って変わって人相が悪い。司会者が軽快な語り口で商品を紹介していく。


 「さぁ、次の商品はこちらでございます」

司会者は台の上のピストルを手にした。

「こちら、長年不動の人気を誇りますS&WM19コンバットマグナムの最新版でございます。まさにピストルの枠を超えた超画期的な機能が搭載されているのです」


 「へ~、従来の物とどこが違うのですか?」

ゲストの1人が言った。

「秘密はこれです」

そのピストルから弾を取り出した。

「弾!?」

「そうです。実はこれが凄いんです」

「そこら辺にあるただの弾にしか見えませんがね」

「では、実際にこの弾の凄さをお見せしましょう」


 司会者の指示の元、ラジコンカーが用意され、スタジオをグルグルと走り回った。

「いいですか。よ~く見てて下さいよ。今から、あのラジコンカーを撃破します」

そう言うと、司会者は目をつぶりピストルを適当な方向に向けて構えた。


 「ちょっと、ちょっと、全然的を狙ってないじゃないですか。そんなので、当たるわけがないですよ」

「心配無用です」

不敵に笑いピストルを撃った。すると、弾はラジコンカーを追跡するように飛び回り、見事に粉々に撃破した。


 「おお~、凄い。お見事」

ゲスト3人が声を揃えて言った。

「こちら、弾の先端に誘導装置が取り付けられてある、自動誘導弾なんです。そして、ピストルには半径30㍍を捜索するレーダーが取り付けられてあります。これに目標をセットすると自動的に追跡し、撃破するというシステムなんです。これさえあればどんな標的でも1発撃破でございます」


 「欲しい~。でも、これ高いんじゃないの」

「そんな事はありません。レーダー付きピストル1丁に自動誘導弾12個をお付けして、お値段据え置き、39万8千円でございます」

「えぇ~!!安い~!」


 「それだけで驚いてはいけません。今回は特別に、発射音完全シャットアウトのサイレンサー、さらに、よりいっそう腕前を上げてもらう為の射撃練習用的。こちらもお付けいたします。さらに、この時間帯に見ていただいている方限定で、防犯用の小型銃もお付け致しましょう!こちら全てセットで、お値段変わらず消費税込み39万8千円!いかがですか皆さん。10回までの分割払いもご利用いただけます。もちろん、金利手数料こちらが負担。今がチャンスです!数に限りがありますので、御注文はお早めに。この機会をお見逃し無く!」


 画面が切り替わり、商品番号E‐027638番、捜索レーダー付きS&WM19コンバットマグナム、自動誘導弾セットがアップになり、説明が繰り返された。そして、0120‐564883(0120‐ころしやバンザーイ)という電話番号ゴロ合わせの歌が流れた。


 俺は慌てて、商品番号をメモした。俺は裏の社会では名の通った殺し屋。


 ピストルの手入れでもやりながら、のんびりと番組を見るはずであったのに、こんなに見入ってしまうとは。ピストルは分解したまま手つかずになっている。まったく俺とした事が。


 裏の社会で危険と隣り合わせな俺らにとっては、武器ほど物欲を刺激するモノはない。この層を狙うとは、隙間産業でなくては生き残れない今の時代を物語っているといえる。

「しかし噂が本当だったとはなぁ……」


 俺はテレビの上に取り付けたアンテナに目をやった。この番組を見る事が出来るのは、裏の社会に生きる、選ばれた僅かな者だけなのだ。


 俺が殺し屋をやり始めた頃にこんな噂を耳にした。裏の社会で生きる者をターゲットにした『裏テレビショッピング』という通販番組があると。


 それは特殊な電波で発信される為、専用のアンテナでしか見る事が出来ない、まさに裏の番組。


 その番組を制作している謎の組織が一流と認めた人物でなければ、アンテナを購入する機会は与えられない。


 俺はその噂を最初は子供染みていると信じていなかった。しかしつい先日、とあるバーで、その組織の者だと名のる男にあった。その男は驚く程俺の事をよく知っていた。どのように調べたのか分からないが、極秘のはずの俺の仕事内容まで調査済みであった。


 その男は持っていたアタッシュケースを開け、アンテナのカタログを出して詳しい説明をしてくれた。


 この話が来るという事は、一流であると認められた証。アンテナを持っていれば殺し屋としての箔が付く。


 俺はアンテナを購入する事にした。持っていて損する物でもないだろう。今夜は早速それを取り付けて見ているというわけだ。


 その後、番組は商品を続々と紹介した。1㌔先のアリまで見る事の出来るスコープ、本物より本物の偽パスポート、全身タイツ型防弾チョッキ、武器装備車、などなど。


 俺は気に入った商品を幾つかメモし、総額500万円程になった。まぁ、こんな額、俺の報酬からすれば微々たるものだ。それにこんな仕事をしていると敵も多く、いつ狙われるか分からない。自分への投資は必要経費なのだ。


 番組は佳境を向かえ、ついに最後の商品となった。


 袖からアシスタントの女が、商品を乗せた台車を押して出てきた瞬間、俺は何だか胸騒ぎがした。


 「さぁ、最後の商品はこちらでございます」

司会者は満面の笑顔で台の上に乗ったTVのアンテナを指した。

「あ!これ、この番組を見る為に必要なアンテナでしょう」

ゲストの1人がニコニコして言った。薄気味悪い笑顔である。

「よくご存じで。でもね、実は、このアンテナには秘密があるんです」

「え!何々?」

ゲスト3人、わざとらしく声を揃えて言った。何処か楽しそうな表情であった。

「秘密というのはね……。このアンテナ、裏の社会で生きる者を消し去る為の爆弾だったんです」

「え~!驚き!」

「では、実際にこのアンテナ爆弾の威力お見せ致しましょう」

司会者はそう言うと、リモコンを手にしてこちらに向け、ボタンを押した。


 それと同時に、自宅のアンテナのランプが赤く点灯した。チィッ、チィッ、チィッ、というタイマー音がしている。恐らくもう逃げ切れまい。

「くそ。まんまとやられた」


ドカ~ン!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の落ちが…! 少し笑ってしまいました。 [一言] 読み直すと > 裏の社会で生きる者をターゲットにした『裏テレビショッピング』 や > 0120‐564883(0120‐ころしやバンザ…
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