第83話 日本へようこそフレデリカさん達
アメリカ人研修生の受け入れについて俺と斉藤が付けた条件を本省に持ち帰った皆口さん。上司とよく相談してねとは言ったが、どれくらいの上司まで話が行ったものか、国防省は結果的にその条件を丸飲みにした。まあ、色々もっともらしく付けた条件だったが、良く読めばわかるように大した内容じゃない。要は何かあるなら事前に相談しろな?という事だ。
相手がこちらの条件を飲んだならば、こちらも相手の要求を叶えなければならない。という訳で俺達は国防省の魔法研修生として三人のアメリカ人を受け入れる事を承諾した。
魔法研修では一回の研修で受け入れる研修生を五人としている。研修期間は特に設定していないが、概ね三ヶ月以内。研修に来たはいいが全く魔法が発現しない者もいれば、なかなか発現しない者もいる。逆にすぐに発現して上達する者もいて、それぞれへの対応は結構難しい。残念ながら全く魔法が発現しなかった研修生には申し訳ないがその時点で終了とさせて貰っている。
魔法の研修はまだまだ始まったばかりで、どのようにすれば効果的に多くの研修生に魔法を発現させられるか、手探りで進めている状態だ。魔法を修得しようと選ばれて来た研修生達なのだから、出来るだけ多くの人に魔法を修得して帰って貰いたいと俺も思っているが、まだ積み重ねた実績が少なくて斉藤も効果的な研修方法を編み出せないでいる。
そして、今までは国防省の研修のみだったが、今後は厚生労働省と警察庁からの研修生も受け入れる予定だ。それぞれが魔法に求める物が違うため、どのように研修を進めていくのか考えなくてはならない。そうなると俺一人の手には余るので、今後は国防省などからそうした専門のスタッフを派遣して貰う必要があるだろう。
今まで魔法研修では40人の研修生を受け入れている。その内訳は男性が24人、女性が16人。男性の研修生からは10人の魔法不発現者が出ており、女性の方が魔法との親和性が高い傾向が見られた。
また、研修生から話を聞くと魔法の発現や上達が早い者達はそれぞれ第六感が働く、予知夢を見る、所謂見える人、洞察力が鋭い、といった能力者の片鱗が窺える者達だった。これにも能力者と魔法の親和性が高い傾向が見られた。そう考えると、魔法との親和性には家系的、遺伝的な関係があるのかもしれず、俺と雪枝は能力者の家系、舞の祖母と母親は副業で占いをやっており、斉藤は神道系の秘密結社の家系で、真琴の実家は品川の神社と、俺達は皆この条件に当てはまる。
今日はいよいよ次の研修生5人がこの満峰神社に来る。国防省は俺達とのやり取りで懲りたのか、研修生についての詳細な資料を事前に送って来ていた。
二人の日本人は問題無い。男女で二人とも24歳の陸軍の少尉。一般大学を卒業して一般士官候補生として入隊。男の方は米国に短期留学経験あり。
米国組は白人男性が二人に、女性が一人。年長24歳の男はトッド・ヘイワード、国務省勤務。年下23歳の方はオスカー・ワイルダー、海兵隊員だ。20歳の女性はフレデリカ・ラングレー、なんと現役のハンターだ。3人ともがESP能力者だそうだが、具体的にどのような能力であるかの記載は無かった。
「中尉、アメリカ人の女子ってどんな娘なんですかね?」
そう言ったのは俺の唯一の部下で研修助教を務める大沢徹軍曹(23)。彼が誰かと言えば、秩父特別駐屯地の攻防戦でオーガキングに殺されかけて俺が助けた歩兵だ。なんと彼はその後、第一回の魔法研修生となり、更に助教となって戻って来た。
「小学生かよ。転校生じゃないんだから。資料の写真じゃ結構美人だったろ?」
「いゃあ、テンション上がりますね!」
「あれ?ケモミミはもういいの?エミリーちゃんに言いつけるぞ?」
「いや、それは無しっすよ中尉。」
エミリーちゃんとは宿坊で働く狼獣人の女の子で、大沢軍曹とちょっといい仲になっている。彼は参加した魔法研修中にすっかりケモナーに目覚めてしまったのだった。
研修生達は陸軍の立川駐屯地から援助物資などと共にヘリで送られて来た。陸軍の連絡官として現場に復帰した竹内中尉に先導されて5人の研修生達が宿坊の会議室へと次々に入室する。
「竜太君、久しぶり。今回の研修生達を連れて来たわよ。」
「竹内さん、お疲れ様です。」
この流れで、俺はそのまま自己紹介をする。
「皆さん、魔法研修へようこそ。私が今日から皆さんに魔法を教える当研修の教官である土方竜太中尉です。詳しい内容はこちらの大沢助教から説明があります。それでは三か月間宜しくお願いします。」
俺がそう挨拶を兼ねた自己紹介をすると、アメリカ人研修生のワイルダーとラングレーの二人が俺をガン見している事に気付いた。
「…あの、どうかしましたか?」
俺が二人にそう尋ねると、すかさずラングレーさんが身を乗り出して来た。
「あの、質問があります、ミスターヒジカタ。」
「何でしょうか、ミスラングレー。」
フレデリカ・ラングレーさんは20歳の白人女性だ。現役ハンターだけに青い瞳の眦も凛々しく、ポニーテールにしている髪型と相まって、やや小柄でほっそりとしつつも、その佇まいはさながら女騎士のようだ。
「はい。私の事はリッキーとお呼び下さい。会社でのコードネームだったので。それで質問なんですが、ミスターヒジカタはあのオークキングを一撃で倒した動画に出ていた方ですか?」
「?」
何の事だろうか?確かに俺は三年前に満峰神社の駐車場で目の前で進化して誕生したオークキングを炎龍爆砕で仕留めている。だが、何故彼女がそれを知っているのだろうか?動画?俺は隣にいる舞に念話で尋ねた。
"動画って、どうゆう事だろう?"
"誰が撮影したかわかりませんが、先輩が三年ま前にオークキングを倒した動画がSNSの動画サイトに投稿されていたんですよ"
"って、あの時のが?あれ服燃えちゃって全裸だったんだけど?"
"バレちゃいましたか"
"舞は知ってたのか?"
"知っていたも何も、あれは私のお宝どう、いえ、知っていましたけど、先輩が知ったらショックかなと思ってみんなで先輩には内緒にしていたんです"
何たる事か。俺の全裸動画が、俺に無断で全世界に配信されていたとは。という事はリッキーも俺の全裸を見ていたという事じゃないか。
「ミスラングレー、いや、リッキー、それはおそらく私だが、君はその動画を見た事あるのか?」
「見ました。勿論見ましたとも!」
マジか、まいったな。しかも「見ましたとも!」とか、もうバッチリ見られているわけか。不幸中の幸いは、おそらく炎を纏っていたし、距離もあっただろうから鮮明な画像ではないであろう事か。
「ミスターヒジカタ。三年前、私はモンスターアタックでサラマンダーに両親を殺され、故郷を焼き払われて人生に絶望していました。でも兄に勧められてミスターヒジカタが戦う動画を見たんです。それで、こうして凄い不思議な力でモンスターと戦える人が世の中にはいるんだと勇気を貰いました。私がハンターとしてモンスターと戦えるようになったのらミスターヒジカタのお陰です。私、私は今こうしてミスターヒジカタに会えて、嬉しくて…ううっ…」
そう言ってリッキーことフレデリカ・ラングレーさんは両手で顔を覆って泣き出してしまった。突然の事で、俺は咄嗟に動けなかったが、真琴がすかさず彼女の肩を抱いてハンカチを渡していた。そしてエーリカ達からは「あの娘が七人目かな?」「…多分、そう」とか、ヒソヒソと話す声が聞こえて来た。
「ミスターヒジカタ、私もその動画見ました。」
えぇ、今度は男か?ワイルダー軍曹は23歳の白人男性で、180cm程の身長に如何にも軍人といった引き締まった体格の海兵隊員だ。髪型は所謂GIカットで、顔はチャーリー・シーンに似たイケメンである。昔、師匠の洋画コレクションで『若き勇者たち』『プラトーン』を見たなぁ。
「私もロスアンゼルスでモンスターと戦い、そこで小隊長をはじめ多くの戦友を失って、一時的に無気力になっていたのです。そしてミスラングレーと同じくミスターヒジカタの動画を見て立ち直る事が出来たました。ミスターヒジカタ、お会いしたかった。」
ワイルダー軍曹はそう言って俺に握手を求めて来た。勿論俺は求めに応じてワイルダー軍曹と握手をした訳だが、なかなか手を離してくれない。
アメリカ人研修生に実は自分の全裸動画を見られていたり、会って早々に泣かれたりと想定外の事態だ。しかし、会えて嬉しいとか、会いたかったと言われて俺も嫌な訳も無く、「アメリカ人の研修生とか面倒臭え」とか思っていた事を申し訳なく思ったりもした。
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それじゃあ、次話にカプッちゅう




