第62話 イナズマ フラッシュ
反撃に転ずる俺達。思い返せばこの8ヶ月、モンスターアタック初日に斉藤と二人、ゴブリンに襲われれてからというもの、俺は魔物と戦い続けて来ている。
それはゴブリンに始まり、その進化系であるゴブリンウォーリアにゴブリンキング、アラクネ、オークにオークにオークキング。山中の遭遇戦でマンティコア、オーガ、トロルを倒し、遂には魔族の赤鬼族の戦士と戦った。そして今日だけでもモスマン、ガーゴイル、名も知らぬ蟲の魔物。
幸いな事に俺にも斉藤にも戦う術があった。師匠から習った錬気道空手、錬金術師。部活動で鍛錬した剣道。そして、エーリカとユーリカが教えてくれた魔法。背中を預けられる友、恋人達がいて、愛刀と巡り合い、更に神々から加護を授けられた。
変わってしまったこの世界で俺は生きるため、大事な人達を守るため、強くなろうと努力は惜しまず修行し、今まではどうにかなってきた。もしかしたら、俺はその事に慢心し、満足し、モンスターアタックという異世界からの侵略行為を甘く見ていたのかも知れない。その結果が今日だ。数多の魔物を斬り、燃やし、撃ったが最後には追い詰められた。正直、バーンや斉藤達か来てくれなかったらどうなっていたか。
(今のままじゃダメって事なんじゃない?)
そうだ、今のままじゃダメだ。だが、今の俺にこれ以上何が出来るというのか。俺だって何でも出来るって訳じゃない。限界がある。
(限界?君はそうやって何だって枠にはめすぎだ。自分自身もね。だからせっかくの魔法だって活かしきれていないんだよ)
活かしきれていない?
(せっかく魔法が使えるのに、君には使えない魔法がある。それは苦手だとか、属性だとかいう枠に自らをはめ込んでいるからじゃないのかい?炎龍の言葉を思い出してごらん?)
炎龍の言葉を?
(そう。魔法は想像力だよ。そして想像力は無限だ)
炎龍の言葉、想像力は無限…
「おい、リュウ、大丈夫か?」
不意にタケに肩を叩かれ我に返った。どれくらいの時間が経過したのか。随分と語り合った気がするが、ってあれは誰だったのか。
「ああ、済まない。ちょっと考え事してた。」
「ならいいが、防御壁の向こうでまた蟲型が動き出した。「火炎旋風」を使うか?」
「火炎旋風」は俺の火魔法と斉藤の風魔法の合わせ技だ。斉藤が作り出した竜巻に俺が作り出す火炎を合わせ、魔法による人工の火災旋風を作り出し、広範囲に多数の敵を殲滅する事を目的として編み出した。
確かに、火炎旋風は殲滅対象が多数あり、巻き込む住民もいないこの状況には適した技なのかも知れないが、
「火炎旋風だと周囲に延焼して、大規模な山火事を起こしてしまうかもしれない。そうなると消火が極めて困難だ。」
大規模な山林火災は消火が極めて困難だ。今のこの地域には消防組織など存在しないし、害特封地の外からだって応援の消防隊など来ない。そうなると自然鎮火を待つしか無く、どれくらい延焼し、何時頃鎮火するのかもわからない。
「ではどうする?時間はあまり無いぞ?」
この場面では一気に広範囲に及ぶ強力な攻撃魔法が必要だ。火は広範囲には使えない。そうなると… と、俺はここで先程の謎対話にあった「炎龍の言葉」を思い出す。
「我は炎龍なれど炎のみにあらず。汝、炎のみに捉われる事なかるべし」
炎龍は"炎龍"というくらいだから炎が特徴的な龍神だ。そう、龍神なのだ。龍とは即ち水神であり、水神は雨を降らし天候を操り司る。天候とは気象現象のこと、雲、雨、雪、雹、風、嵐、雷、そうか!雷だ。
「タケ、俺に考えがある。上手くいけば蟲の大群を一気に片付けられる。」
斉藤は怪訝な表情で聞いていたが、「それで?」と俺に説明を促した。
「雷だ。雷を群に落として一気に殲滅出来る。」
「お前の雷魔法でそんな事まで出来たか?出来ませんでし他じゃ済まないんだぞ?」
「大丈夫。多分。」
「多分ってお前なぁ」と渋る斉藤。だが、そこでユーリカから援護が入った。
「ねぇ、タケ、リュータが出来るって言うんだからきっと大丈夫だよ。」
「ユーリカがそう言うなら大丈夫か。」
お前… まあ、いいんだけど、ユーリカに激甘だな。
俺は蟲の大群を見渡せる防御壁の上まで行くべく体内の魔力を高め、空を自在に飛行する様をイメージし、念動力を応用して一気に飛翔する。
「リュータ、空飛べるの⁉︎」
エーリカの驚く声が聞こえたが、次の瞬間には防御壁の上に降りていた。防御壁の上から眺めると、モンスターアタック以来続く魔物との戦闘で荒廃した秩父盆地が見渡せ、荒川の上流から後続する蟲の大群がこちらへ迫りつつあった。
これから行うのは、今まで使っていた雷魔法ではなく、天候を操る魔法だ。俺は吸気に依らず、大気中の気(=魔素、だがこの場合は飽くまでも気)が自分の体に集まるイメージを持つ。すると、周囲から膨大な気が渦を巻いて集まり、体内に蓄積されていく。
準備は整った。俺は体内の膨大な気を練り、魔力に変換しながらこの駐屯地の上空に黒々とした積乱雲が湧き上がる様をイメージし、そして思いつくままに技の名を叫ぶ。
「雷雲招来!」
俺の魔力を帯びた咆哮は駐屯地の上空を魔力の音場となし、忽ち雷雲を湧き上がらせる。黒々とした雷雲は日光を遮り、辺りは雲の峰を雷光で光らせながらも、急激に暗くなっていく。
雷雲は周囲に雷鳴を轟かせ、膨大な静電気を蓄える。頃は良し、俺は自らの言霊で支配する雷雲から蟲の大群へ一気に雷を落とすべく、再び思いつくままに技の名を叫ぶ。
「雷撃招来!」
雷雲は見る者の網膜を焼き尽くすような閃光と、周囲の全てを揺るがさんばかりの雷鳴を響かせて蟲の大群の上に雷撃を放った。
蟲の大群は雷撃による青白い閃光の中に一瞬その姿を隠すと、周囲を満たすオゾン臭の中、次の瞬間にはブスブスと煙を漂わせる黒焦げの死骸の重なりとなっていた。
雷雲は雷撃を放つと忽ち散り、青天の下、辺りは静寂に満たされている。
(初めてだから、こんはもんかな。やれば出来るじゃないか)
ああ、お陰様で。しかし、あなたは誰なんですか?
(まあ、いずれわかるよ。それまで修行に励む事だね)
この声の主は本当に誰なんだろうか?敵ではなさそうだが。
「今の雷、リュータがやったの?」
「先輩、凄いです。」
「竜太、天候を操ったという事なの?」
「「兄貴、凄え!」」
「リュウ、後で話そうか。」
俺を追って来た皆の声を背中越しに聞きながら、俺は、これだけの事が出来た今、イマジネーション枠を超えた限界の向こうには一体何があるのだろう、なんて事を考えていた。
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