最終話:決着
ハヤテの精神世界に入り、ナギは自分の目を疑っていた。目の前にあるのは巨大な大樹。腐ったような色をしており、ところどころ腐食して枝が折れそうだ。
「何だこれは……」
大樹をよく見ると、真ん中に人が入っていた。まさかと思い、ナギは近付いた。
「ハヤテ……ハヤテ‼」
ナギは木に登り、ハヤテを引っ張ろうとしたが、見えない力が彼女を突き飛ばした。
「つつつ……なんだ今のは」
「私の力だ」
上から声が聞こえた。見上げると、大男が宙に浮いていた。男は長髪、分厚い鎧を着ていて、背中には男の伸長と同じ位の長さの大剣を背負っていた。
「お前がビヨンか」
「そうだ。まさか、精神世界に入ってくるとは思わなかった」
「ハヤテを助けるためなら、何でもするさ!」
ナギは剣を構え、高く飛び上がった。
「無駄なことを‼」
ビヨンは大剣を手に取り、大声と共に剣を振り回し、風を生み出した。
「なっ!?」
ナギは風に飲まれ、後ろへ吹き飛んでしまった。地面に叩きつけられる前に受け身を取って立ち上がったのだが、ビヨンはすぐ目の前まで迫っていた。
「滅せよ」
ビヨンは剣でナギを突き刺そうとしたが、ナギは光の盾を作り、ビヨンの攻撃を受け流した。ジャバの左側に移動し、ナギはビヨンの左目を突き刺した。
「ぐおおおおおおおッ‼」
目を刺され、ビヨンがうろたえる隙に、ナギはハヤテの元へ向かった。
「ハヤテ、目を覚ませ!私だ、ナギだ‼助けに来たぞ‼」
「無駄だ‼貴様の声など聞こえはせぬわ‼」
ビヨンは闇の力で作った鎖を投げ、ナギを捕まえた。ビヨンは鎖を振り回し、拘束されているナギを地面や天井、壁に激突させた。
「くたばったか?」
ビヨンは倒れたナギの様子を調べた。しばらくし、ナギは立ち上がってまたハヤテの元へ向かった。
「ハ……ハヤ……テ……」
「無駄なことを‼」
ビヨンは強い魔力を発し、周囲に衝撃波を放った。ナギは衝撃波に当たり、再び地面に倒れた。だが、ナギは再び立ち上がり、ビヨンに向けて光の刃を放った。
「邪魔をするな、魔王」
「そんな攻撃が通用すると思うか?」
ビヨンは光の刃を破壊し、ナギに接近し、攻撃を仕掛けた。
「くたばれ‼」
ビヨンの強烈な右ストレートが、ナギの腹にめり込んだ。ナギは嗚咽した後、再び倒れた。
「これで終わったか……」
ビヨンは勝利を確信し、笑い始めた。倒れたナギに近付き、止めを刺そうと闇の剣を生み出し、剣先をナギの左胸に向けた。
「死ね」
自分の勝利で戦いが終わる。ビヨンはこう思いつつ、不気味な笑みで剣を構えた。だが、何故か体が動かなくなった。
「な……何!?」
「おいお前……僕の中で……勝手に暴れるなよ」
「は……ハヤテ‼」
大樹の中にいるハヤテが目を覚まし、枝を使ってビヨンの動きを止めていた。ナギは急いで立ち上がり、ハヤテに近付いた。
「ハヤテ‼よかった……目を覚まして」
「ナギ様……いろいろと話したいのですが……どうやら今はあいつが僕の体を使ってやりたい放題やって来た奴なんですよね」
「ああ。その通りだ」
「分かりました。だけど、今のままじゃあ動けないんで、枝を伸ばして援護します」
「頼む」
「ナギ様、立派になりましたね」
ナギは剣を構え、ビヨンの方を睨んだ。
「来い、魔王。我が祖先ジャバに変わり、私が貴様を消し去る」
「倒せるか?たかが小娘と、私に封印された小童。たった二人で私を倒せるか!?」
「倒せるさ」
ナギはビヨンに向かって走って行った。ナギの周囲にはハヤテが伸ばした枝があり、ナギを守るように周囲に伸びていた。
「それで守っているつもりか‼哀れな‼」
ビヨンはハヤテが伸ばした枝をへし折りつつ、ナギに近付いた。ほぼ全ての枝をへし折り、ビヨンはナギの前に立った。
「終わりだな」
「そうだな……お前は次の攻撃で消える」
「どういうことだ?」
その時、ビヨンは背中に違和感を感じた。後ろを見ると、折ったはずの枝が伸びていて、ビヨンの背中を刺していた。
「何故……だ……木の封印の魔法は……」
「魔力を送り込んだんだ。今、この木は僕の一部。自由に扱える」
ハヤテはそう言うと、魔力を使い、自身に絡みついている枝をどかし、外に出た。
「ナギ様、やっちゃってください」
「ああ‼」
ナギは剣を構え、剣先に魔力を送り込んだ。刃が光り輝き、どんどんと大きくなっていった。
「これで……終わりだァァァァァァァァァァ‼」
大声と共に、ナギは剣をビヨンに向け、振り下ろした。光の刃はビヨンを切り裂き、真っ二つにした。
「グガァッ……おの……れ……」
ビヨンが苦しそうな声を上げた瞬間、切り口から光が次々と溢れ出た。
「この魔王ビヨンがッ‼こんな小娘小童共にッ‼負けるなんてッ‼嫌だ……消えたくない……グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼」
ビヨンは雄たけびの後、光に飲まれ、体が消滅した。
「……終わったのか?」
ナギはハヤテにこう聞くと、ハヤテは答えた。
「ええ」
「そっか……」
ハヤテの声を聞き、ナギはハヤテの方へ歩いて行った。
「よかった。お前が元に戻って」
「……ありがとうございます。あなたのおかげで、助かりました」
「お前から礼を言われるのは初めてだな……おっと、ここから出ないと」
「ああ、ナギ様は精神体ですから、早く出ないと大変なことになりますからね」
「ハヤテ、元の世界に戻ったら、伝えたいことがたくさんあるからな」
「はい。分かりました」
話を終え、ナギは元の世界へ戻って行った。
同時刻、横になっているナギとハヤテの周りにいるジャバたちは、ナギの帰りを待っていた。
「……終わったようだな」
ジャバは周囲の気配を察し、呟いた。ナボットとミーナも、気配が変わったことに気が付いた。
「なんか、重い気配が消えました」
「まさか、魔王を倒したのか?」
「そのようだな」
ジャバは笑いながらこう言った後、ナギに近付いた。しばらくし、ナギの目がゆっくりと開いた。
「う……ん……」
「よ、戻って来たか」
「ジャバ……戻ってこれたんだな」
「ああ」
その時、涙目のミーナがナギに抱き着いた。
「ナギ様ァァァァァ‼」
「うわっ!いきなり抱き着くなよ」
「だって……だって……」
「ははは……まー無事でよかったよ。な、ベイト」
「ああ。ナギ様、ハヤテの方は?」
ベイトに聞かれ、ナギはハヤテの方を見た。
「大丈夫だ。しばらくしたら起きるだろ」
「そうですか。完全に魔王を倒したんですね」
ヒナクの質問に対し、ナギは少し考えてからこう答えた。
「倒したというか、消したな。完全に消え去った」
「そうですか。なら安心しました」
ナギ達が話をする中、イスタリがナギに近付き、こう言った。
「我が弟子ナギよ、頑張った。魔王を消し去るなど、今まで誰もできなかった」
「お前は俺が出来なかったことをやり遂げた。よくやった」
イスタリの後ろにいたジャバがこう言った。その時、ハヤテの声が聞こえた。
「ん……」
「ハヤテ……」
「……ナギ様」
ナギはハヤテに近付き、顔を覗き込んだ。
「戻ったのか?」
「はい。やっと自由に動けるようになりましたよ」
ハハハと、笑いながらハヤテは言った。
「これで、俺たちの旅が終わりってわけか」
「そうだな」
「いろいろありましたけど……」
ミーナはヒナクの方を見て、こう言った。
「ミーナ、私が死んだことなんて気にするな。命あるものはいずれ死ぬんだから」
「……そう……ですね」
「さてと、用も済んだし、そろそろ行くか」
ジャバはベイト達にこう言った。その言葉を聞き、ナギ達は動揺した。
「もう……行くのか?」
「そうだ。そろそろ魔法の効果が切れる」
その時、ジャバ達の体が徐々に薄くなった。
「じゃ、俺たちは戻る」
「ナギ様、私たちは天からあなた達を見守ります」
「それでは……」
「達者でな」
それぞれ言葉を残した後、ジャバ達の姿は消えた。
「ジャバ……ベイト……ヒナク……師匠。皆、ありがとう」
ナギは礼を言った後、ハヤテ達の方を振り返り、こう言った。
「皆、帰ろう」
魔王討伐から7年の時が流れた。ナボットはベイトの跡を継ぎ、ミーナもヒナクの跡を継ぎ、それぞれ仕事に激しんでいた。
その日、ナボットは数人の部下を連れ、廊下を走っていた。
「皆急げ‼遅れちまうぞ‼」
「はい、ナボット隊長‼」
入っている途中、ナボットは本を担いでいるミーナを見つけた。
「ミーナ‼」
「あ、ナボット。大変ですねー」
「大変じゃねーぞ、あと少しで式が始まるぞ‼」
「大丈夫ですー。風魔法でササっと行きますのでー」
「余裕だなー」
話を終えた後、ナボット達は再び廊下を走りだした。数分後、ナボットは息を切らせながら城の外れにある式場の入口前に座っていた。
「じ……時間まで休憩。少し余裕ができてよかった」
「ですね……」
「間に合ってよかった……」
ナボットは石に座って休んでる中、空からミーナがやって来た。
「到着っと」
「魔法って便利だな」
「ナボットもやってみます?」
「いや、俺は魔力を扱える体質じゃないから無理だ。さて、お前とも合流したし、ナギの所に行くか?」
「はい」
「お前らはここで待機。俺はナギの所に行くから」
「分かりました」
その後、ナボットとミーナはナギがいる控室へ向かった。ミーナがドアを叩き、ナギの返事の後、部屋に入った。
「失礼します」
「邪魔するぜ」
「おお二人とも」
「来てくれたんですか」
部屋の中には、ウェディングドレス姿のナギと、タキシード姿のハヤテがいた。
「ご結婚おめでとうございます」
「似合ってるぜ、二人とも」
「ありがとな」
「ありがとうございます」
ハヤテは頭を下げ、礼を言った。その時、ナボットはハヤテの足元にベイトとヒナクとイスタリの遺影を見つけた。
「この遺影はどうした?」
「実は……無くなった三人にも私達の晴れ姿を見てもらいたくて」
「縁起悪いかもしれませんが、どうしても」
「……許してくれるだろうよ。あの二人ならさ」
「はい。きっと、天国で見てくれてますよ」
その時、セイルが慌ててやってきた。
「セイル、今日は他国との会議で来れないって言ってたのに」
「あんなのとっとと終わらせたわ。あなたの晴れ姿を見るためにね」
「そんなに慌てなくても……」
「ハヤテさん、ナギとの付き合いは私の方が長いんですよ。幼馴染の晴れ姿が見れなかったら、ショックで寝込みます」
「ははは……」
楽しく会話をしている中、チャイムが鳴った。
『ナギ様、ハヤテ様、式の時間が迫ってきましたので、準備の方をお願いします』
「そろそろ行かないとな」
「では、また会場で会いましょう」
「失礼します」
ナボットとミーナとセイルが部屋から出てった後、ナギはハヤテにこう言った。
「私達も行くか」
「はい」
その後、ナギとハヤテも部屋から出て行った。
数時間後、式が終わり、ナギとハヤテは供養塔へ来ていた。手にしている遺影を塔へ戻し、ハヤテとナギは手を合わせて結婚の報告をした。
「ベイト、ヒナク、師匠。私、ハヤテと結婚したぞ」
「今、平和な時間があるのも、皆さんが頑張ったおかげです」
「皆の犠牲が無駄にならないよう、私達で努力する」
「力及ばないこともあるかもしれません。その時は、天国から祈りをお願いします」
「そして、平和が長く続くよう見守っていてください」
ナギとハヤテは顔を上げた後、手をつないで帰り始めた。その途中、ナギはこう言った。
「ハヤテ、これから平和の為の仕事で忙しくなるかもしれん」
「大丈夫です。何があろうと、僕はナギの傍にいます」
「うむ。その返事ができるなら、ベイトやヒナク、師匠も安心するだろう」
「はい。皆さんの犠牲を無駄には出来ません」
「そうだな。皆の犠牲があったから、今の時間があるんだ。そのことを忘れちゃダメだ。七年前の戦いも忘れてはいけない、絶対にだ」
「ええ」
今の二人は幸せだが、あの戦いで戦死した人の事を思うと、少し重くなる。だが、時は戻らない。死んだ人は蘇らない。前を向くしかないんだ。先へ進むしかないんだ。二人は互いにこう思いながら、今後人生を歩んでいくと決めた。その二人の背中を、誰かが見ていた。
「ベイト、ヒナク。声をかけなくてもいいのか?」
「ジャバ様」
ベイトとヒナクは後ろを振り向いた。
「祝福の言葉とか言わなくていいのか?今なら言えるのに」
「……ええ」
「死んだ私達があーだこーだ言わなくても、ちゃんとやると思います」
「自信あるんだな」
「はい。私の予想以上に二人は成長しました。過去の人間の言葉などなくても、先へ行けるでしょう」
「それに、ミーナとナボットもいます。キノハラ王国のセイル王女、若い者がいます」
「そうだな。後は若い奴らに任せよう」
「はい」
ジャバは二人の姿を見ながら、ベイトとヒナクと共に去って行った。
その後、ナギは父、コロンボから王の座を引き継いだ。それからは、平和な時がずっと続いたという。
後書き~この作品についていろいろと語ります~
プリンセスクエストは今回で最終回となります。最終回なので、今回はあとがきでいろいろと語って行きたいと思います。
今作品、プリンセスクエストは短期連載で考えていた物です。実はと言うと、2年前にはこの作品、書きあがっていました。いつかなろうで作品を出そうとしてたものがこの作品になります。更新するとき、本文を読むとちょっと恥ずかしかったです。
この作品には元ネタがあります。それは、以前自分が書いていた二次創作の作品になります。かなり前になると思いますが、まだにじファンという小説家になろうの二次創作系のサイトがあった時に連載をしていました。どの作品の二次創作かは言えませんが、興味のある方はツイッターか感想欄にメッセージを書いてください。こっそり教えますので。
ストーリーについて語ります。この作品は王道の主人公のヒーローが悪者に捕まったヒロインを助けに行く。という王道の物語を逆にしたうえ、助けようとした者が逆に敵になるという王道どころか邪道の道をまっしぐらに進んだ物語です。何でこうしたかというと、いつも通りの王道の物語だとまたこの展開かよ。と、思ったからです。
以上でこの作品を終わります。未熟者でクソみたいな文章ですが、最後まで見て行ってくれた皆さま。本当にありがとうございます。次回作にご期待ください。