第8話:最終決戦
ナギは一人、門の前で立っていた。無言で立っているうち、ナギは溜息を吐いた。
「おい、殺気が漏れているぞ」
ナギは後ろにいるモンスターの群れにこう言った。前方にいたモンスターは、よだれを垂らしながらこう言った。
「ケケケ、そりゃどうも」
「そんな事より、俺ら腹減ってるんだよ」
「魔王様に会う前に、俺らの餌になってくれよ」
モンスター達は静かに笑うと、ナギに向かって少しずつ歩いて行った。ナギは剣を手に取り、こう言った。
「餌になってたまるか」
「それは俺たちが決めることだ」
「どうする?食う?」
「答えは一つだけ。食うしかない‼」
一斉にモンスター達が、ナギに向かって襲い掛かった。ナギはその場から一歩も動かず、剣を構えていた。
「さて、魔王と戦う前の準備運動をするか」
そう言うと、ナギは剣を縦に振った。剣から衝撃波が発生し、前方にいたモンスター達を真っ二つにした。
「はぁ!?」
「なんじゃそりゃ!?」
斬られた仲間たちを見て、モンスター達は驚いた。その隙を狙い、ナギは前にいたモンスターに斬りかかった。
「ウギャアッ‼」
モンスターの体を斬り捨て、続いて横にいたモンスターの頭を手で掴み、横に投げ飛ばした。モンスター達がドミノ倒しのように倒れていく中、ナギは再び剣を縦に振り下ろし、衝撃波を放った。衝撃波がモンスターを切り刻む中、仲間のモンスター達は恐れをなし、その場から逃げようとした。
「逃がすか」
ナギは剣を横に振り、衝撃波を放った。横に広がる衝撃波は、逃げようとしているモンスター達を真っ二つに切り裂いた。周囲に散らばるモンスター達の死骸を見て、ナギは剣をしまった。その時、扉の開く音がした。
「ナギ、大丈夫か!?」
最初に出てきたのは、ナボットだった。ナボットはナギに駆け寄り、周囲を見回した。
「襲われたのか?」
「今さっきな。気にすることはない、すぐに終わった」
「まぁお前が無事ならいいんだけど。それより、ヒナクとミーナは?」
「まだ戻ってきてない」
「ナギ様‼」
扉の方から、ミーナの声が聞こえた。ナギとナボットはすぐにミーナの元に近付き、ミーナの無事を確認した。
「無事だったかミーナ」
「おい、ヒナクは……まさか」
ナギはヒナクがいないことで、ヒナクが死んだことを察した。
「……きつかったか?」
「……はい……だけど、最期に私に力を渡し、そのおかげで敵を倒せました」
うつむいたまま、ミーナはこう言った。目から流れる涙を拭き、ナギにこう言った。
「今はハヤテさんを救うことが大事です‼」
「ああ」
その後、ナギ達は魔王の部屋の扉の前に立った。ドアノブを握り、ナギはこう言った。
「ミーナ、今まで私の我儘に付き合ってくれてありがとな」
「そんな今更。今後とも、あなたの我儘に付き合いますよ」
「ナボット、私たちの味方になってくれてありがとう。ここまで来れたのは、お前の力のおかげもある」
「礼を言うには早すぎないか?魔王を倒した後、礼を言ってくれ」
二人の声を聞き、ナギは深く深呼吸し、こう叫んだ。
「行くぞ‼」
「はい‼」
「おう‼」
ナギは扉を開き、部屋に入って行った。
「……ハヤテ……いや、魔王ビヨン」
「ほう、あの二人を倒したのか。これはすごい」
部屋の中央にビヨンはいた。玉座から立ち上がり、ナギ達に近付いた。
「一人足りないようだな。フフフ……先にあの世へ旅立ったか」
この言葉を聞き、ミーナはビヨンを睨んだが、ナギがミーナに落ち着けと手で合図した。
「遊びのつもりだったのだが、どうやら本気で貴様らと殺し合いをしなければならないようだな」
「何が遊びだ、お前のせいでたくさんの人が死んだんだぞ」
「いちいち殺した虫けらの事など、気にはしないさ」
「……クズ野郎……今すぐお前の命を消して、ハヤテを救う‼」
「癪に障ることを言う娘だな……いいだろう、貴様らをあの世へ送ってやろう‼」
会話が終わった直後、ナギとビヨンは同時に剣を持ち、走り出した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
「はあああああああああああああああああ‼」
雄たけびと同時に、二人は剣を振り下ろした。二つの剣はぶつかり、周囲に激しい強い風が発生した。後ろにいたナボットとミーナは風に耐え切れず、後ろに吹き飛んでしまった。
「きゃあああああああああああ‼」
「うわっとと‼」
ナボットは飛んできたミーナを受け止め、後ろの壁まで飛んでった。
「大丈夫ですか?」
「ああ……」
ナボットは部屋の中央で戦っているナギとビヨンを見て、こう言った。
「この戦い、俺らは参加できないようだな……」
ナギはビヨンの服の襟を掴み、頭突きを浴びせた。少し後ろに下がったビヨンに剣の突きを放った。ビヨンは後ろに下がった際、態勢を立て直し、ナギと同じ突きで対抗した。互いの剣先がぶつかり合い、再び衝撃波が舞った。その後、二人は剣を構えなおし、上空へ飛んだ。ナギは剣を両手で持ち直し、横に振り下ろす構えを取り、ビヨンは剣を縦に振り下ろすため、頭の上で剣を構えた。二人の距離が近くなったと同時に、二人は剣を振った。ナギは左肩に傷を負い、ビヨンは左わきに傷を負った。地面に着地し、二人は振り返った。流れる血を片手で抑え、ナギは剣に魔力を込め始めた。
「魔法攻撃か、させるか‼」
ビヨンは両手で魔力の塊を生み出し、ナギに向かって解き放った。ビームのように飛んでくる魔力をかわすと同時に、ナギは剣を振った。降ったと同時に、剣から光の刃がビヨンに向かって飛んできた。ビヨンは上空へ飛んで攻撃をかわしたが、かわしきれずに左ももに傷を負った。
「足がッ……」
足に傷を負い、ビヨンはうずくまった。その隙にナギはビヨンに近付き、攻撃をしようとした。その時、ビヨンは笑いながらこう言った。
「攻撃できるか?この体、お前の仲間の物だろ?」
「……できるさ」
そう言うと、ナギはビヨンの腹を蹴り飛ばした。
「すまないハヤテ、今はこうすることしかできないんだ。だけど、必ず助ける」
「がはっ……け……ケケケ……無駄だ。この体は俺の物だ‼」
「ふざけるな……ふざけるな‼その体はハヤテの物だ‼」
ナギは雄たけびを上げながら、魔法を放った。魔法はビヨンを包み込み、そのまま壁に激突した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
壁に激突したビヨンに向かって、ナギは剣を構えて走り出した。ナギの剣はビヨンの脇腹に命中した。ビヨンは脇腹に刺さった剣の刃を触り、笑い始めた。
「ハハハ……予想以上だ」
「黙ってろ‼」
ナギは剣を抜き差し、ビヨンを殴ろうとした。だが、ビヨンはナギの腕を掴み、魔力を流した。ビヨンの腕を振り払おうとしたのだが、ビヨンの握力は強く、振り払えなかった。
「そのまま焼き尽くしてくれる‼」
その直後、ナギの腕が黒い炎に飲まれた。
「きゃあああああああ‼ナギ様ァァァァァ‼」
「ナギ‼」
ナボットはジャバに向かって走り出したが、後ろの扉から無数のモンスターが現れた。
「こんな時に……」
ミーナは目の前に無数の氷柱を作り出し、モンスターの群れに向けて放った。ナボットはモンスターの群れを見て立ち止まった。ナギを救うか、乱入してきたモンスター達を倒すか、悩んでしまったのだ。その時、ナボットは何かの気配を感じた後、耳に声が入った。
「ナギ様は大丈夫だ。安心しろ」
その声は、死んだベイトの声だった。
「ベイト!?」
ナボットは周囲を見回したが、ベイトの姿はなかった。それと同時に、ナギは魔力を爆発させ、腕の炎を弾き飛ばした。
「炎を飛ばしたか……」
ビヨンは動揺し、後ろに下がって距離を取ろうと考えたが、ナギの手がビヨンの首元を掴み、魔力を込め始めた。
「魔力を爆発させる気か!?正気か?この体はお前の仲間の物じゃないのか!?」
「加減はする」
ビヨンは攻撃を邪魔するため、ナギを蹴り飛ばした。そして首に付着した魔力を急いで地面に落とした。
「クソが‼魔王に対してふざけた真似をしやがって‼」
「ヘッ、魔王様でも小細工が怖いのか?」
「ふざけるな雑草がァァァァァァァァァァ‼」
ビヨンは両手に黒い剣を生み出し、ナギに向かって走り出した。ナギは後ろに下がりながら光の刃を作り出し、ビヨンに向けて放った。ビヨンは飛んでくる光の刃を叩き落としながらナギの元へ走っていた。しかし、地面に叩き落とされた刃は光の粒となり、ナギの手元へ戻って行き、再び刃となった。
「何度も攻撃できるわけか……面倒だ‼」
ビヨンは体中から魔力の波動を出し、向かってくる光の刃を消滅させた。
「フハハハハハハ‼これで小細工は無駄となった‼」
ナギはもう一度攻撃しようと構えたが、ビヨンはナギが身構えるよりも早く動いていた。ナギに近付き、ビヨンはもう一度剣を作った。そして、すぐに剣を二度振った。ナギの胴体部分に十字傷ができ、そこから血が滝のように流れた。
「あ……あああ……」
「苦しめ、もがけ、死ね」
ビヨンはナギの切り傷に指を詰め込め、ゆっくりと手を回した。
「あああああああああああああああああああああ……」
ナギは苦しそうな声を上げ、地面に倒れた。ビヨンは手に付いた血を舐め、倒れたナギに向けて剣を突き刺した。ビヨンはナギの苦しそうな顔を見て、笑みを浮かべていた。このままナギにとどめを刺せば、この勝負は自分の勝ち。だが、ビヨンはただ勝つだけではつまらないと思い、わざと攻撃の手を緩め、じわりじわりとナギを弱らせて殺そうと考えた。
「あ……ああ……」
ナギの悲鳴が小さくなり、小さなうめき声となった。
「フフフ……痛いか?苦しいか?答えろよ……小娘」
ビヨンはナギの傷をえぐりながらこう聞いた。ビヨンの問いに答えられないナギを見て、ビヨンは笑った。
「さぁ、遊びを終えよう。死ね」
弱ったナギにとどめを刺すため、ビヨンは闇の剣を生み出し、ナギに突き刺そうとした。その時だった。
「クソ魔王、俺の子孫に何しやがる?」
少年らしき声が聞こえた。それと同時に、ビヨンが壁に吹き飛び、激突した。
「な……なんだ今の?」
「さぁ……とにかく、ナギ様の治療を‼」
ナボットとミーナは急いでナギの元へ近づき、怪我の治療を始めた。ビヨンは立ち上がり、目の前を見て叫んだ。
「おのれ‼魂になっても俺の邪魔をするか、ジャバァァァァァァァァァ‼」
ナボットはビヨンの目の前にいる少年を見て、驚いた。
「ジャバ!?確か前にビヨンを倒した奴だろ?なんで生きてんだ!?」
「狼男、俺は魂だ。簡単に言えば幽霊。クソ魔王が復活したらしいから、魂だけ下に降りた」
「そんなことできるんですか?」
「光の魔法に魂を操る魔法があるんだよ。それを使って一時的に戻って来た。それと、こいつらは連れか?一時的にお前らに会いたいと頼まれたんだが」
ナボットとミーナはジャバの後ろを見て、茫然とした。そこには、死んだはずのベイトとヒナクがいた。
「ベイト……お前も来たのか」
「ジャバ様に頼み込んでな」
「師匠、死んでも会えるとは思いませんでした……」
「丁度天に向かう途中でこいつらに出くわしたんだ。まー運がよかったな」
ジャバはナギに近付き、こう言った。
「一度、致命傷を外すように剣であいつを刺せ」
「は!?ハヤテにそんなこと……」
「血が一気に出なそうなところに刺せばいい。それに、深く刺さなくても剣先にちょっと当てるだけでもいい。剣が難しいなら、直接キスしろ」
「……それでどうする?」
「自分の精神をあいつに送れ」
「どういうことだ?」
「今、ハヤテって奴は精神内でビヨンに囚われている。だから、その中に入ってハヤテを助け、ビヨンを消す」
「だけどどうやって」
「光魔法を体内で発生させろ。そして、体内で出来た光魔法と一緒に魂をハヤテの中に入れるんだ。今言ったろ、光の魔法には魂を操る魔法があるって。それもその一つだ」
「とりあえず……やってみる」
「分かった。よし、行け‼」
ジャバの声と共に、ナギはビヨンに向かって走って行った。
「クソが‼」
ビヨンは闇で作った衝撃波を放ったが、ナギはそれを切り払った。
「魔王‼ナギ様には傷一つ付けない‼」
「あんたの部下に殺されたんだ。責任取ってね」
ベイトはナギの前に立ち、攻撃を防ぐ壁となった。ヒナクは後ろで援護のための魔法を放っていた。
「チッ、虫けら共がそろいにそろってェェェェェ‼お前ら、こいつらをぶっ殺せ‼」
ビヨンは後ろにいた魔物達を呼び、命令した。だが、ナボットが魔物達を蹴り飛ばし、ミーナが魔法で魔物達を焼き払った。
「雑魚は俺たちに任せろ‼」
「師匠、私頑張ります‼」
「ミーナ、ナボット……」
「成長したな、お前達」
ミーナとナボットの姿を見て、ベイトとヒナクは小さく呟いた。
「クソが‼クソがクソがクソがァァァァァァァァァ‼闇の渦に飲まれて消えちまえェェェェェェェェェ‼」
ビヨンは両手を前に突き出し、巨大な闇の渦を発生させた。だが、その時ナギ達の目の前に一人の老人が現れた。
「たくましくなったな、ナギ」
「し……師匠。イスタリ師匠」
現れたのはイスタリだった。イスタリはナギの方を向き、ニコッと笑ってこう言った。
「あれはわしに任せろ」
イスタリは目の前に巨大な光を発生させ、闇の渦に向けて放った。光は渦に飲まれてしまったが、しばらくして渦の真ん中が光出した。そして、巨大な光が周囲をまぶしく照らした。
「まさか……俺の闇の渦が……」
「今じゃ、ナギ」
「はい‼」
ナギは急いでハヤテの元へ近づいた。
「待ってろハヤテ、今助けるからな」
そう言うとは、ナギはひるんだビヨンの顔を持ち、自分の顔に近付けた。
「何をするつもりだ……」
「ハヤテにファーストキスをするだけだ。そのついでにお前を倒す」
ナギはビヨン……ハヤテの顔に一輝に近付き、キスをした。
「今だ、俺が教えた方法で奴の中に入れ」
ジャバはナギにそう言うと、後ろへ下がった。ナギはジャバの言われた通り、自身の中に光の魔法を生み出した。その時、自分の意識が光に吸われるような感覚に陥った。
(今、光になってる……このまま外に出てハヤテの中へ‼)
ナギは急いで外に出ようとした。光は自分の言うことを聞いてくれる。自由に動けると分かったナギは、光と共に外へ出て、ハヤテの中へ入って行った。
次回、最終回です。クライマックスです‼更新は明日か来週にする予定です。お楽しみに‼




