第7話:幹部との戦い
ナギ達を乗せた馬車はドヴォン山近くの川岸で止まった。ナギは、川の先を見つめ、兵士にこう言った。
「お前は休んだ後、城に戻れ」
「でもナギ様が……」
「私達はハヤテと一緒に帰る」
「そうですか。どうかご無事で」
ナギはヒナク、ミーナ、ナボットの顔を見て、口を開いた。
「皆、行くぞ」
「最後まで守ってやるからな」
「絶対に魔王を倒しましょう」
「私も頑張ります!」
その後、ナギ達は川を渡り、ドヴォン山へ向かった。ナギは道中、魔王が作ったモンスターが襲ってくると予想していたが、予想に反し、モンスターは襲ってこず、何事もなく山の近くまで歩いて行けた。
「何も来なかったな」
「罠かもしれません、気を付けていきましょう」
気を取り直し、ナギ達は山道を登り始めた。歩き始めて数時間後、何事もなく山頂に着いた。
「なんか不気味ですね。本拠地に敵が乗り込んで来たのに、雑魚一匹出ないなんて」
「私も不気味と思ってる」
ナギとヒナクはこう言った。何かあるかもしれないと察したミーナは、恐怖で体が震え始めた。
「あわわわわ……本当に大丈夫なんですか?」
「何かあっても俺がいるさ。気を楽にしろよ」
ナボットはミーナの頭をなで、緊張をほぐした。ナギは深呼吸し、前へ進んだ。扉の前に立つと、ヒナク達の方を向き、こう言った。
「開けるぞ」
「はい」
「覚悟しました」
「いつでもいいぜ」
返事を聞いたナギは、小さく頷くと、扉を開いた。中には、銀で作られた鎧を装備しているモンスター達が並んでいた。
「お出ましか」
ナボットが腕を鳴らし、中に入ろうとした。だが、そのうちのモンスターがこう言った。
「俺らが相手するまでもないさ。どうせ、お前らは魔王様に殺される」
「いや、幹部様に殺される」
モンスター達は小さく笑いながら、ナギ達を睨んだ。
「どうやら先に進んでもよさそうだ」
ナギはモンスターの言葉を無視し、先に歩いて行った。モンスターはナギが目の前にいるのに、攻撃をしようとはしなかった。
「私達も行こう。さっさと終わらせて帰ろう」
「あ……ああ」
「不意打ちとかしないですよね……」
「あの態度じゃあしないだろうな。若干プライドが傷ついたが」
ヒナクがイラッとしながらこう言った。前へ進むと、大きな扉が現れた。その左右には、不気味な光を放つ扉があった。
「この奥にいるのか?」
ナギが扉を開こうとしたが、扉は動かなかった。
『よく来た、ジャバの子孫よ』
「ハヤテ……いや、魔王ビヨン‼姿を現せ‼」
『今姿を出すことはしたくない。それより、ゲームをしようじゃないか』
「ゲームだと?ふざけるな!」
『ふざけてはいない。ルールは横の扉の奥にいる私の部下、リックとボウチと戦ってもらう。この二人を倒したらお前の目の前にある扉を開けよう。この奥に、私はいる。君たちが生きてこの扉を開くのを楽しみにしているよ』
ビヨンは最後に高笑いをし、話を終えた。ナボットはストレッチした後、横の扉のドアノブに手をかけた。
「先に行くぜ。中にいる奴をぶっ飛ばしてくる」
「ナボット……生きて戻って来いよ」
「おう」
ナボットは返事をし、部屋の中に入って行った。
「ナギ様、私も中へ行きます。ミーナと一緒に待っていてください」
「師匠‼私も戦います!」
ミーナの口から、予想外の言葉が出てきた。驚いたヒナクは溜息を吐き、こう言った。
「分かった。ナギ様、そこで待っていてください」
「必ず戻って来いよ」
「はい」
「ミーナもな。死ぬんじゃないぞ」
「分かりました。生きて帰ってこれるよう祈ってください」
その後、ヒナクとミーナも扉を開き、中に入って行った。ナギはその場に座り、仲間が帰ってくるのを待った。
「不気味な部屋だな~」
ナボットは周囲を見ながら移動していた。歩いていると、人影が見えた。
「おーい、お前がリックかボウチのどっちかの奴か?」
「私はボウチだ。貴様が私に殺される相手か」
「へっ、殺される前提か。偉そうに」
ボウチの言動に呆れたナボットは、戦いの構えを取った。
「すぐに始めようぜ。ナギが待ってるからな」
「下種な狼男が……」
ボウチは両手に雷を発し、ナボットに向けて放った。
「おわっ‼」
飛んでくる雷を横によけ、ナボットは呼吸を整えた。その隙に、ボウチは雷の刃を作り、ナボットに向かって飛んできた。
「死ねッ‼」
「お前がなッ‼」
ボウチが刃を振る前に、ナボットはボウチの下腹に拳を沈めた。宙にいたボウチは攻撃を喰らい、後ろの壁に吹き飛んで行った。
「ぐぐ……」
「どうした?終わりか?」
「黙れ、下等のモンスターが‼人間なんぞに肩入れしやがって‼」
「俺が誰の味方になろうと、俺の勝手だろうが‼」
倒れたボウチに近付き、ナボットは蹴りで追撃を行った。ボウチは追撃を防御し、雷を飛ばしてナボットに攻撃した。
「グアッ‼」
ナボットの左腕に電撃が走った。ボウチから離れ、ナボットは左腕を調べた。
「動きが不安だけど、何とか動くな。うし‼」
起き上がったボウチは、ナボットの顔を見て、こう呟いた。
「人が作ってやったのに……恩を仇で返すつもりかよ」
「あん?」
「何も知らないか……ククククク」
「変な声で笑ってんじゃねーぞ‼」
ナボットはボウチを蹴り飛ばした。吹き飛んだボウチは後ろの壁を壊し、隣の部屋に入った。起き上がったボウチは、そのまま部屋の奥へ行ってしまった。
「逃げるんじゃねーぞ」
ナボットはボウチの後を追い、部屋の中に入った。部屋の中は大きな試験管と、本が乱雑に置かれていた。試験管の中に青白い水が入っており、肉片のような物が浮いていた。
「なんだこれ?肉の塊か?」
「生まれる前のモンスターだ」
近付いていたボウチが、答えながらナボットを襲った。ナボットは攻撃をかわし、ボウチの首を掴んでこう聞いた。
「お前、モンスターを作ってるのか?」
「そうだ。魔王様のために、忠実な僕を作っているんだ」
「へー。じゃあお前と一緒にこの部屋を潰せば、一石二鳥ってわけだな」
ナボットが近くの試験管を壊そうとしたが、ボウチが電撃で作った鎌を装備し、ボウチの右腕に突き刺した。
「グッ‼」
「お前をこの部屋に入れたのは失敗だった」
「懺悔はあの世でしてな‼」
ナボットはボウチのあご目がけ、右足を蹴り上げた。ボウチは攻撃をかわし、両腕に電撃を纏わせた。
「さて……戦いを始めよう……と思ったが、少し昔話を聞かせてやろう」
「昔話?ざけんじゃねーぞ‼」
ナボットは麻痺が治った左腕でボウチを殴りかかったが、ボウチは攻撃を受け止め、口を開いた。
「今から数年前の話だ。私はいつものようにモンスターを作っていた。だが、そのモンスターは私の言うことを聞こうとはしなかった。失敗作だ。私は自分が作り出してしまった失敗作は、遠くの地へ向かい、捨てているんだ。確かその時の失敗作は狼だった。そして、捨てた場所はキノハラ王国の近くの山」
「……それが俺だと言いたいのか?」
「ああ。お前は他のモンスターとは考え方が違う。普通のモンスターは人を襲い、人を食い、人から恐れられる存在だ‼お前はその逆だ」
「あっそ。俺が失敗作とかそんなのはどうでもいいわ。あーあと、お前あの世で考えた方がいいぜ、失敗作にやられた言い訳をな‼」
「死ぬのは貴様だ‼失敗作がァァァァァァァァァァァ‼」
ボウチは両手にまとっていた電撃を剣の形にし、ナボットに襲い掛かった。ナボットは斬撃をかわしながら、ボウチに近付き、右腕を掴んだ。
「おーらーよっと‼」
ナボットはボウチを近くのテーブルに向かって投げ飛ばした。テーブルの上の試験管や本などが、衝撃で次々と地面に落ちた。
「ああっ……貴様‼」
怒りを見せたボウチは、右腕の剣をナボットの腹に突き刺した。ナボットは血を吐き、その場にうずくまった。
「グッ……」
「ククククククク……痛いか?苦しいか?だが、部屋を荒らされた私の心はもっと痛い、もっと苦しいんだぞォォォォォォ‼」
「知るかよ、そんなことォォォォォォォォォ‼」
ナボットはボウチの顔面を殴り、ボウチをひるませた。ナボットから離れたボウチは電撃の槍を作り、ナボットを攻撃しようとした。しかし、ナボットは電撃の槍を攻撃して消し去り、ボウチに近付いた。
「覚悟しろ‼」
「覚悟しろ……それは私のセリフだ」
ボウチは近くのテーブルに置いてあった試験管を手にし、地面に投げて叩き割った。
「運が悪かったな。今私が割ったのは、最近出来てしまった失敗作だ。貴様と同じだ」
「俺と同じ?悪いな、そいつもお前と同じように倒してやるよ」
「絶対に無理だな。こいつは生き物なら何でも食ってしまうんだ。狼の肉は美味いだろうな……」
その直後、地面に落ちた肉片がうねうねと動き出し、徐々に大きくなっていった。
「な……なんだこりゃ‼」
「アーッハッハ!食われて死んでしまえ‼」
ボウチは大声で笑いながらこう言ったが、ナボットがボウチに近付き、蹴り飛ばした。
「ガッハッ‼」
蹴り飛ばされたボウチは、大きな口を開けたモンスターの、口の中に入ってしまった。
「そんな……」
「大丈夫だよ。その失敗作と一緒にお前をあの世へ送ってやる」
モンスターが口を閉じ、中のボウチを噛み始めた。その隙を狙い、ナボットは高く飛び上がった。そして、両手の爪を突き立て、モンスター目がけて回転しながら落下した。
「終わりだ」
ナボットはモンスターを貫き、地面に着地した。モンスターは大量に血を流しながら、その場に倒れた。その時、入口の部屋から、ドアが開く音がした。ナボットはモンスターの口を開き、無残な姿となったボウチの死体を確認した。
「まさか、自分の作った失敗作に殺されるなんて思ってもなかったんだろうな……」
そう呟いた後、ナボットは部屋の中にある試験管を全て壊し、部屋から出て行った。
ヒナクは大きな欠伸をし、周囲を調べていた。
「なんですかね、この部屋。何もありませんよ」
「油断するな。敵はどこから出るか、分からないぞ」
ミーナは震えながら、ヒナクの後ろについていた。しばらく歩くと、ミーナの後ろで水が落ちる音がした。
「ひゃあああああああああああああ‼」
「ただの水滴だろ。驚くな」
「はい……」
この時、ヒナクの目つきが変わった。ミーナに後ろに下がれと合図した後、右手を前に出し、炎の渦を放った。
「そこにいるんだろ?かくれんぼはおしまいだ」
「ほう。人間のくせに私の気配を察するとは、見事なものだ」
部屋の奥から声が聞こえた。その直後、黒い渦が発生し、その中から赤と黒の色が混じったコートを纏った男性が現れた。
「ふむ、どうやらこの部屋の主のようだな」
「魔王様の為に、貴様らを殺す」
男性はコートを脱ぎ、左右の手から魔力を発生させた。
「死ぬ前に覚えておくがいい。我が名はリック。貴様らをあの世へ送る」
「余裕があったら覚えておくよ」
ヒナクは杖を取り出し、リックに向けて氷柱の槍を放った。リックは左手を振り払い、槍を破壊したが、槍の欠片が宙に浮き、リックに向かって飛んで行った。
「ちっ、やるようだな」
リックは体を震わして、体に刺さった氷柱を落とし、両手の魔力を合わし、大きな鎌を作り出した。
「本気を出そう」
鎌を握り、ヒナクに向かって走り、鎌でヒナクを切り裂こうとした。それに対し、ヒナクは風を生み出し、魔力で作られた鎌を消した。その次に、ヒナクは雷を作り出し、リックの首元目がけて手を置いた。手を置いた瞬間、リックの全身に雷が走った。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「普通の攻撃は効果あり。よし、攻めるか」
ヒナクは雷を止め、右手で炎、左手で風を生み出した。
「合体魔法だと!?」
「あら、見るのは初めてのようだな。よかったじゃないか、これを喰らって逝けるなんて」
ヒナクは両手を合わせると、発生した炎と風が交わり、強力な炎が部屋中を包んだ。炎の中に、激しい風の音が響いていた。
「喰らえ‼」
炎と風はリックを包み込んだ。激しい炎の熱さが体を焦がし、風で生まれた見えない刃が体を切り刻んだ。
「ぐううううう……人間ごときがああああああ‼ふざけるなァァァァァァァァァァ‼」
リックの雄たけびが部屋中に轟いた。それと同時に、炎と風は消え去った。
「なっ!?」
合体魔法が破られ、ヒナクは驚いた。リックはその隙を狙い、ヒナクの顔を掴んだ。
その頃、ミーナは戦いの巻き添えにならないように、遠く離れていた。床に落ちていた樽の中に隠れており、うずくまって戦いが早く終わることを祈っていた。しかし、ミーナの意思に反し、戦いは続いた。
「師匠ォ……」
不安に思い、ミーナは樽から顔を出し、外の様子を見た。それと同時に、激しい爆発音が鳴り響いた。
「ひゃあああああああああああ‼」
爆発音におどろ置き、ミーナは後ろへ下がった。もし、この爆発音でヒナクが死んだとしたら、次は自分の番だ。こんなことなら、もっと魔法の練習をして強くなればよかった。と、ミーナは後悔していた。自分の力がないことを悟り、後悔し、自分自身が情けないと思い、ミーナは泣き始めた。その時だった。ミーナの近くで何かが倒れる音がした。
「ふぇっ!?」
倒れた音に驚き、ミーナは震えたが、勇気を出してその物を調べた。それは、真っ黒に焦げたヒナクだった。片手片足を失い、脇腹も貫かれたのか、一部分が欠けていた。
「し……ししょ……」
「……いる……のか……ミー……ナ……」
ヒナクの小さい声が、ミーナの耳に入った。ミーナは急いでヒナクの元へ寄った。
「よかった……お前の……いる場所……に……ぶっ飛んで……来れて……」
「ししょ」
この時、ヒナクは震える指で、ミーナの口を触った。喋るなと合図だと思い、ミーナは黙った。
「私……もう……死ぬ……だけ……ど……あの……野郎を……倒さないと……先へは……行けない。だか……ら……お前が……奴を……倒せ」
「でも」
「私の……魔力を……全魔力を……お前に……託す。大丈夫……お前は……私の……弟子だ……お前の……力は……私より上だ……自信を持て……勇気を持て……それさえ持てば……お前は……強い」
ヒナクはミーナに手を出せと合図した。ミーナは自分の手をヒナクの手に合わせた。
「任せたぞ……ミーナ……私の……弟子よ……」
その時、ヒナクの手が光りだし、それがミーナを包んだ。そして、光は徐々にミーナの体の中に入って行った。
「これが……師匠の魔力……」
ミーナは自分の体に何か強く、暖かい物が流れ込んでくるのを感じていた。それが、ヒナクの魔力だと、すぐに察した。しばらくして、ミーナは身震いをした。さっきよりも、体が熱く感じ、体全体に力が入った。
「師匠……」
我に戻り、ミーナはヒナクの顔を見た。ヒナクの口は開いたままになっており、ミーナの手に乗っているヒナクの手は、ピクリとも動かなかった。別の手でヒナクの左肩を触ったが、その瞬間にヒナクの左肩は崩れ、地面に落ちた。その後、ヒナクの体は一瞬にして地面に崩れ落ち砂のようになった。
「何だ、あのガキはここにいたのか」
近くでリックの声がした。ミーナは立ち上がり、リックを睨んだ。
「そんな顔で睨むなよ。怖くないぞ」
「……」
「返事はなしか。じゃあ、あの女のいるところに送るとしよう」
リックが魔法を使おうとしたその前に、ミーナは右手に炎の剣を作り、それをリックに向けた。
「死ぬのはあなたです……あなたを許しません」
ミーナは持っていた剣をリックに向けて投げた。リックは剣をかわし、ミーナにこう言った。
「あなたを許しませんか……図に乗るなよクソガキ」
怒ったリックがミーナを襲おうとしたその時、先ほどミーナが投げた剣が、リックに向かって戻ってきた。
「何だと!?」
剣はリックの背中に刺さった。リックは急いで剣を抜こうとしたが、すでにミーナが近くまで移動していた。ミーナの右手には、鋭い氷柱が出ていた。あれで体を突き刺すつもりだろう。そう考えたリックは、わざと攻撃を喰らい、その時に接近して一撃でミーナを葬ろうと考えた。ミーナは右手の氷柱をリックに突き刺した。リックは考えた通りに事が運んだことを心の中で喜ぶと同時に、どうミーナを葬ろうか考えた。だが、ミーナは攻撃の後、すうに下がった。考えがばれたか?リックはそう思い、少し焦った。その直後、氷柱が赤く光出し、大爆発を起こした。
「ぐああああああああああああああああああ‼」
爆発に巻き込まれ、リックは後ろに吹き飛んだ。リックは考えもしなかった、氷柱の中に炎を入れ、爆発するように細工をすることを。水と火、反する属性を合わせて使うことは、経験を積んだ魔法使いでもできない者が多い。それを、まだ幼いミーナが簡単にこなしてしまった。とんでもない奴を相手にしてしまったと、リックは思った。
「まだ戦いは終わってませんよ」
ミーナの声が聞こえた。それと同時に、リックは恐怖心を感じた。その時、リックは自分がミーナを怖がっていることを察した。
「く……来るな‼私を殺さないでくれ‼」
「都合のいいことを……あなたは多分、たくさん人を殺した。そんな人の命乞い、聞きたくありません」
「頼む、罪の償いはする‼許してくれ‼」
「許しません。仮に許した場合、その隙を狙って私を殺すんですよね?」
「あ……」
考えがばれていた。下種な輩が使う手を使いたくなかったが、この手を使わなければ、自分は生き残れない。そう思ったリックの考えが、読まれていた。もうダメだ、リックはやけになり、両手に魔力を発し、ミーナに襲い掛かった。
「死ねェェェェェェェェェェェェ‼クソガキィィィィィィィィィ‼」
ミーナは向かってくるリックに両手を前に出し、炎の渦を放った。炎の渦はリックを飲み込んだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
炎の中で、リックは悲鳴を上げていた。炎の他に、雷と風と水がリックを襲っていた。電撃がリックの体を走り、風が体を切り刻み、水が氷柱と化して体を貫いた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼ビヨン様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
リックの断末魔の後、炎がうなりをあげて強くなり、リックの体を燃やし尽くした。
リックの魔力が消えたことを感じ、ミーナは攻撃を止めた。そして、その場に座り込んだ。目の前の床が真っ黒に焦げており、そこにはリックの体はなかった。リックを倒し、ミーナは安堵の息を漏らした。
「やりましたよ……ヒナク師匠……」
ミーナは小さく呟くと、下を向いて泣き始めた。その時、何かの気配を察した。後ろを見ても、そこには何もなかった。気のせいだろうとミーナは思った。すると、耳元で声が聞こえた。
「よくやったミーナ。今後は私の跡を継いで、ナギ様と共に歩んでくれ」
ミーナはすぐに周囲を見回した。今の声はヒナクの声だった。きっと、ヒナクが最後まで戦いを見守ってくれたんだろう。ミーナはそう思い、立ち上がってナギの元へ戻って行った。
残り二話で最終回です。本当はこの連休に終わらせる予定でしたが、仕事のため出来そうもありません。なので、今作品の最終回は来週に二話連続で上げるか、来週と再来週で更新して終わるかの選択となります。どっちかに決めたら連絡します。では、また次回。




