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第5話:勇者の血筋

今回の話は前の話よりも、文字数が多いです。速読できる人はいいんだけど、ゆっくり読みたい人は時間が空いてる時に読んでください。では、前回の続きから話は始まります。

 戦いが終わった後、ナギは一人で空を眺めていた。ベイト達も部屋に入ったまま、何時間か出てこなかった。ナギと共に外にいるナボットは先程の戦いでいろいろと察していた。魔王と名乗った人物が、ナギ達が探していたハヤテであると。だが、ナボットはハヤテがモンスターに攫われたとしか聞かされていない。何故、さらわれたハヤテが魔王と名乗ってるのか?何故、自分達に剣を向けたのか?あれこれ考えたが結局分からずじまいだった。


「あ~!意味わかんね~!何で助けようとした奴が俺らを殺そうとするんだ~?」


「知るか」


 ぼそりとナギが呟いた。元気がないナギを見て、ナボットは肩を落とした。宿へ行って様子を見に行きたいのだが、モンスターである自分が町の中に入れば大騒ぎになるので、いけないのだ。


「はぁ……どうすっかなぁ……」


 ナボットはナギの横に座り、ため息とともに言葉を漏らした。


 宿の部屋にて、ベイトとヒナクは二人で話をしていた。


「どうする?今後の事?」


「ハヤテの事か。城に戻ってこの事を報告するか、ハヤテを追い続けるか……」


「報告か……そっちの方がいいな。このままハヤテを追って戦闘となったら、勝てる自信はない」


「そうか、分かった。じゃあ旅はここで終わりにして、一旦城に戻ろう」


「私、ナギ様にこの事を伝えてくる。ベイト、お前はもう少し休んでいろ」


 ヒナクは立ち上がった後、部屋から出て行った。


 ベイトは息を吐いてソファに座り、目をつぶった。


 どうしてだ!?どうして俺達に剣を向けたんだハヤテ!?


 心の中で、ベイトは叫んだ。ハヤテの事を考えると、城で一緒に働いていた時の映像が脳内で浮かぶ。しかし、それはすぐに今さっきの光景に塗り潰された。


「畜生!」


 苛立ちを見せながら、ベイトはソファを殴った。その衝撃でミーナが驚いた。


「ベ……ベイトさん……」


「……ハァ……ハァ……すまないミーナ、驚かせてしまったな」


 ベイトはもう一度息を吐き、気を落ち着かせた。


「ミーナ、お前もしっかり休めよ。城に戻るとなれば、また長い間歩くからな」


「はい」


 ミーナはベイトが眠ったのを確認した後、ナギとヒナクが来るのを待った。


 その頃、ナギはまだボーっとしていた。ナボットは考えるのに疲れ、その場で横になっていた。


「はーっ……もう夜か」


 ナボットは夜空に浮かぶ月を見て、小さく呟いた。


「ナギ、もう遅いんだから宿に戻れよ。ここで座ってたって考えなんてまとまんねーよ」


「……」


「……気持ちは分かるんだけどよ……まぁ……えーっと……とにかく自分の信じる道に突き進んでいけばいい……と……思うんだけどよ」


「信じる道?今の私にはそんなのはない」


「おいおい……はぁ……」


 完全に元気を失ったナギを見て、ナボットは両手を上げた。その時、ナボットの目に一人の老人の姿が映った。ナボットはまずいと思い、姿を隠そうとした。だが。


「フォフォフォ、隠れなくてもいいぞ、狼の若造」


 あの老人がすぐ近くにいた。いきなり現れたため、ナボットは後ろに転倒し、こう聞いた。


「な……何者だじーさん?遠くにいたはずなのに、すぐ近くにいるし‼」


「う~む、若造にわしの名前を言っても伝わるかのう?」


「ま……まさか敵か?魔王とか名乗る奴のあれか?あれなのか!?」


「安心せい。わしは魔王の手下じゃない」


「ナボット、あまり騒ぐんじゃないぞ」


 町の方からヒナクがやって来た。老人はヒナクを見て、にやりと笑った。


「お主、凄腕の魔法使いじゃのう」


「そうですが……ナボット、このご老人は誰だ?」


「知らん?聞いても教えてくれない」


「魔王の手下じゃないと教えただろ」


「いや、名前は聞いてないって‼あ、もしかしたら先に俺らから言うルール?」


「先に仕掛けたのはわしじゃ。わしの方から名乗ろう」


 老人は咳払いをした後、自己紹介を始めた。


「わしはイスタリ・バランティーア。光の民の血を継ぐ者じゃ」


 名前を聞き、ヒナクは目を開いた。この様子を見て、ナボットはヒナクにこう聞いた。


「え?このじーさん有名人?」


「有名人どころじゃない……超有名人だ。数々の魔法に関する書物を世に生み出した魔法使いだ。確かに光の民とは書いてあったが……いや、それ以前に本はもう六十年も前の物なのに……」


「あまり難しく考えなさんな、わしの年齢は百以上じゃ。正式な歳はもう忘れたがの」


 笑いながらイスタリはこう言った。その後、イスタリはナギを見てにやりと笑った。


「あの少女、光の民の血を引いてるな」


「はい。彼女はナギ、勇者ジャバの血筋の者です」


「何と!?ジャバの子孫か‼」


 イスタリはナギを見たが、ナギは視線を感じ、少し引いた。


「まさかの……ジャバの子孫がここにいたとは。邪なる気配を感じ、こっちへ来たのだが……まさかな」


「邪なる気配?まさかハヤテの事を言うんじゃないだろうな?」


 ナギがこう言うと、イスタリはヒナクに話しかけた。


「ハヤテとは?」


「攫われた私達の仲間です。ですが、先ほど私達の前に現れたのですが、自らの事を魔王ビヨンと名乗っていました」


「……そうか。魔王が復活したか」


 イスタリはナギに近付き、ナギの肩に触れた。


「何をする?」


「魔力を調べるのじゃ……少しじっとしておれ」


 イスタリが目をつぶったと同時に、ナギは体全体に何かが走るような感覚になった。イスタリが目を開けたと同時に、その感覚は消えた。


「まだまだじゃな。その程度の魔力では魔王は倒せん」


「魔王を倒す?私はハヤテを倒さない、助けたいんだ‼」


「……訂正しよう。その程度では魔王を倒せないし、ハヤテとかいう少年も救えない」


「くっ……」


 ナギは苦虫を噛み潰したような表情をし、イスタリを睨んだ。


「じゃあなんだ?お前ならハヤテを助けられるのか?」


「それは無理じゃ。こんな老いぼれに大層なことができると思うのか?」


「無理だな」


 ナボットが苦笑いをしてこう言った。


「ナギといったな。お主が本当に魔王を倒し、ハヤテとかいう少年を助けたいのであれば、強くなるしか道はない」


「……どうすればいいんだ?」


「修行じゃ。光魔法の全てをお主に叩きこむ」


 修行と聞き、ヒナクとナボットは驚いた。


「ちょっと、いきなりそんなこと」


「そうだぜ!俺達は急いでいるんだ!」


「では、今のお主達で魔王を倒せるというのか?」


 イスタリにこう言われ、ヒナクとナボットは黙ってしまった。


「よいか?ナギの修行こそ、最善の手だ。先走って魔王に挑んでも、待っているのは死だ」


「……ですが」


「反発するなヒナク。修行すれば、ハヤテを助けられる力が手に入るんだな」


 立ち上がったナギがイスタリにこう聞いた。イスタリは笑いながら、


「それはお主次第じゃ」


 と、返した。


「私、修行に行く。絶対にハヤテを助ける力を手に入れる‼」


「決心したか。では早速行くとしよう」


「少し待ってくれないか?」


 ヒナクが声を出した。イスタリはどうかしたと思いながら、ヒナクの方を振り返った。


「町の中に仲間が二人いる。その二人をここに連れてきて、事情を話す」


「まだ仲間がいたのか。なら連れてこい。しばしの別れになるからのぉ」


 その後、ヒナクは町へ戻り、ベイトとミーナを連れてきた。ベイトは話を聞き、イスタリに頭を下げた。


「こんな所であなたに会えるなんて思いもしませんでした。光栄です」


「硬くならなくてもいい。特にその嬢ちゃん」


 ミーナは緊張のあまり、体全体が石のように固まっていた。何か喋っているが、皆聞き取れなかった。


「では、挨拶も済んだことだし、行くとしよう」


「ちょっと待ってくれ!」


 ナボットがイスタリを呼び止めた。イスタリはめんどくさそうな目をしていたが、ナボットの目を見て態度が変わった。


「俺も連れて行ってくれ!」


「お主も強くなりたいのか。その理由は?」


「次に戦う奴は俺より強い。これからの戦い、そんな奴らと戦わなくちゃいけない。だけど、今の俺じゃあ太刀打ちなんてできっこない」


「……魔物ながら、魔王と戦おうとする勇気と度胸。気に入った。お前も来い」


「分かった‼」


 ナボットはイスタリの後を追おうとしたが、ベイト達の方を振り返り、手を振って去って行った。


「行ってしまったか」


 去りゆくナギとナボットの姿を見て、ベイトは呟いた。そのすぐに、ベイトはヒナクとミーナにこう言った。


「戻るとするか。明日から城へ戻りの旅だ」


「ああ」


「分かりました」


 会話を終え、ベイト達は宿へ戻って行った。




 翌日。ナギとナボットはイスタリの元で修行を始めた。


「ふぅっ……くっ!ふんっ!」


 ナギは何度も何度も腕立てを行っていた。だが、十回あたりから、腕がピクピクと震えていた。ゆっくりだが動かすことは出来る。しかし、そのすぐにナギは倒れてしまった。


「おやおや、まだ十回じゃないか。わしが言った目標の数は確か千じゃあ……」


「そんなにできるか‼」


 ナギは立ち上がって叫んだ。その横にいるナボットは声を出しながら腕立てをしていた。


「390、391、392、391、あれ?いくつだっけ?290、291、まーどうでもいいか」


 この光景を見て、イスタリは小さく呟いた。


「体力は大丈夫のようだが、頭はちょっとあれだな」


 その後、イスタリはナギに体力をつけるため、周辺を走らせることにし、ナボットには言語や数学、戦闘で役に立つ技術を教えていた。ナボットにいろいろ教えているが、ナボットはすぐにその知識を吸収していった。


「ほう。意外と学習能力があるな」


「そうか?そうやって褒められるの初めてだな」


 笑いながらナボットがこう言った。数分後、息を切らせながらナギが戻ってきた。


「戻ったかナギ」


「も……戻ったか……じゃ……ないぞ……殺す気か……ハヤテと……戦う前に……死んで……しま……」


 ナギは言いかけたまま、その場で倒れてしまった。イスタリはあごをかきながら、ナボットにこう聞いた。


「ナギの体力はどのぐらいだ?」


「う~ん……あまりないと思うな。この前、光魔法使ったとたんに倒れたからな」


「体力に問題ありか……よくそれで旅に出ようと考えたもんじゃ」


 イスタリは溜息を吐き、ナギにこう言った。


「ナギよ。魔王と戦いたかったらそれなりに力を付けい。光魔法を伝授する前に、体力をつける。そうでもしないと、魔王と戦えん」


「ぐっ……」


 ナギは歯を食いしばりながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ほーっ、意外と根性はあるんだな」


「感心する暇があったら……次は何をするか教えろ」


「……そうじゃのう。もう一度は知ってこい。今度は制限時間付きじゃ。三十分までにこの辺りを一周しろ。三十分経っても一周しなかったら、もう一周走れ」


「分かった」


 ナギは呼吸を整え、ゆっくりと走り始めた。ナボットは周囲を見回し、簡単に時間の予想をした。


「今のナギのスピードじゃあ、一周走ってギリギリ三十分じゃねーの?」


「鋭い勘をしておるの。わしもその位を計算して時間を出したんじゃ」


「まー今のスピードでな。後後疲れたら遅くなるかもしれねーぞ」


 走るナギを見て、ナボットはこう言った。




 その頃、コロンボ王は玉座に座り、業務に励んでいた。何かすればあの時の事を忘れられるかもしれないと思っていたが、業務を行っていても、あの占いの事が頭から離れなかった。もしかしたら、自分の予想をしているよりもはるかに恐ろしいことが起こるんじゃないかと、コロンボは心配していた。その時。


「ベイト様達が戻ったぞー‼」


 兵士の声がこだました。ベイト達が戻って来たのを知り、コロンボは大急ぎでベイトの元へ向かった。入口に来ると、馬から降りているベイトとヒナク、ミーナの姿があった。


「ご苦労であった……が、ナギはどうした?一緒じゃないのか?」


「王。この事についてですが、話が長くなります。着替えが済み次第王の間へ向かいますので、それまでお待ちしてもらえないでしょうか?」


「あ……ああ。分かった」


 ベイト達が部屋へ戻り、コロンボは王の間へ戻ってベイトが来るのを待った。


 数分後、着替えを済ませたベイトが王の間に入って来た。コロンボに近付き、頭を下げ、こう言った。


「王。ハヤテ捜索の件なのですが」


「見つかったのか?」


「はい。しかし、予想にもしていなかったことが起こりました」


「なんだそれは?」


「魔王ビヨンがハヤテの体を乗っ取り、復活しました」


 それを聞き、コロンボの目が点となった。


「嘘でも冗談でもありません。先日、私達は情報を求め、テンシェ町へ向かいました。そこでモンスターとの戦いがありました。問題はそこではなく、この後です。戦いが終わった後、騒動の八端となったモンスターを作ったという男が現れました。その男の正体は分かりませんが、そいつと一緒にいたのが……ハヤテ……いや、魔王ビヨンです。その後、ナギ様と途中で仲間にした狼男のナボットはは光の民の生き残り、イスタリ様に修行を付けてもらうため、別行動を取ることになりました」


「それは本当か?」


「はい。テンシェ町以外にも、ダニーロの町でもあいつらはモンスターを作り、町の人を困らせていました」


 コロンボは話を聞き、深く考え込んだ。


「もしかしてだが……その時のハヤテの格好はマントを羽織っていなかったか?」


「マント?ええ、確か羽織ってました」


 コロンボは心の中で確信した。あの占いは当たっていたと。


「王、どうかしましたか?」


「緊急事態じゃ。今すぐ会議を始める。ベイト、ヒナク、お主らも参加してくれ」


「分かりました」


 その後、コロンボは大臣達を王の間に呼んだ。すぐに大臣達は集まり、会議が始まった。


「これより緊急会議を行う。その前にベイト、旅の報告を大臣達に」


「はい」


 ベイトは立ち上がり、大臣達の方を見回した。


「今回の旅であった事についてお話します。まずダニーロの町で汚染水騒動がありました。原因はモンスターが吐き出す毒性の水によるものでした。道中仲間にした狼男のナボットとミーナの話によると、魔王と呼ばれる人物とその部下らしき人物がモンスターを製造したとみられる会話を聞いたと話しています。その後、テンシェの町へ向かいました。そこでは大型のモンスターによる被害があり、町の人々が苦しんでいました。私がモンスターを討伐した直後、魔王らしき人物が現れ、戦いました。その時、魔王と名乗る人物の正体がハヤテであることを知りました」


 話を聞いた大臣達はざわつき始めた。魔王がハヤテの体を奪い、復活したのか?あるいはハヤテが革命を起こすため、わざわざこんな大掛かりな準備をしたのか?そんな話をしていたが、ヒナクの咳払いで皆静まった。


「話は終わっていません。ハヤテと戦った後、ナギ様とナボットは光の民の生き残りであるイスタリ様の元で修行を始めました」


「そうか、だからナギ王女はいないのか」


「セイル様が会いたかったって言ってたのにな」


「それより、光の民の生き残りが動くのであれば、魔王復活は本当らしいな」


 話が終わった後、大臣達は皆黙った。ヒナクはもう一度咳ばらいをし、口を開いた。


「魔王はまだハヤテの体には慣れていません。その前に奴らの居場所を探し、魔王どもを蹴散らす。今現在考えられる私の策です」


「しかし、我が兵の力では魔王とは戦えんぞ」


「無駄死にするだけだ」


「兵士には行かせません。私達だけで行きます」


 ヒナクの言葉の直後、扉が開いた。


「居場所を探すなら、私の力をお使いください」


「セイル王女‼」


 ベイトはセイルに近付き、頭を下げた。


「あなたがここにいるとは思いもしませんでした」


「いや、さっきわしがセイル王女が会いたがったっていたって言ってたじゃん……」


 一部の大臣がポツリとつぶやいた。その呟きを無視し、セイルは話を続けた。


「あなた達が旅に出ている間、私はハヤテの居場所を探っていました。しかし、私の魔力では確実な場所までは分かりません」


「それで、私の魔力が必要だと?」


 ヒナクがこう言った。それに対し、セイルは頷いて返事した。


「分かりました。その為であれば喜んで魔力を使いましょう」


「ありがとうございます。新しい水晶玉を持ってきますので、少々お待ちください」


 セイルが去った後、大臣の一人がこう聞いた。


「なぁ、ナギ王女の修行はいつ終わるんだ?」


「分かりません。ですが、私一人でも魔王の軍団からこの城を守ります」


 力強く、ベイトはこう答えた。




 修行開始から3週間が経過した。ナギと組み手をしていたナボットはナギの成長を体感していた。ナギの剣技は最初に会った頃よりも上達していた。守りに関しても相手の様子を伺い、次の手を予測して動くようになった。さらに体力がついたためか、激しい動きをしても息切れすら起こらないようになっていた。


「まいった‼降参‼」


「これで31戦中私が16勝か。私の方が上回ったな」


「たった1勝じゃねーか。次は俺が勝つ!」


 呼吸を整えながらナボットは立ち上がり、軽く準備体操をして戦闘の構えを取った。しかし。


「模擬戦はこれまでじゃ」


 小屋からイスタリが現れた。ナボットは構えを止め、ナギも剣をしまった。


「ナギよ、今から最後の仕上げをやるぞ」


「最後の仕上げ……」


「うむ。この3週間、お主は強くなった。しかし、力は強くなっても心はどうじゃ?」


「心?」


 ナボットが考え込む中、ナギはうつむいてこう言った。


「まさか……最後の仕上げは心の……」


「心、もしくはお主の意思の強さを図るテストじゃ。お主は確実に魔王と戦うこととなる。今の魔王はお主の想い人の体を乗っ取っておる。今のお主に、想い人を斬ることができるか?」


「できる!ハヤテを助けるためなら……」


「では、実際にやってみろ」


 イスタリは魔力を練り始め、ハヤテそっくりの人形をナギの前に出した。ナギが戸惑う中、イスタリが早くしろと目で合図をした。ナギは剣を取り、人形に斬りかかった。しかし。


「王女様」


 ハヤテの優しい声がナギの耳に入った。声を聞いた途端、ナギは振り上げていた剣を下ろしてしまった。


「ナギ‼前を見ろ‼」


 ナボットの叫びが響いた。前を見る前に、ナギはハヤテ人形に蹴り飛ばされた。壁に叩きつけられ、ナギは小さな悲鳴を上げ、その場にうずくまった。


「おい‼いくらなんでもこの修行は残酷すぎるだろ‼ナギの気持ちを考えろよ‼」


 修行を見たナボットがイスタリの襟元を掴み、怒声をあげた。


「全く、お主もまだまだ頭が良く無いのう。お主がナギの立場になって考えてみろ。魔王が仲間の体を乗っ取り、戦うことになったとしても、お主は魔王と戦えるか?」


 この質問にナボットは答えられなかった。ナボットはその場で座り、ナギの修行の様子を見ることにした。


 ナギは心の中で苦しんでいた。目の前にいるハヤテは偽物であり、本物ではない。それは分かっている。分かっているのだが、声を聞くと動揺してしまう。


 これじゃあダメだ。何のために私は修行をしてきたんだ?ナギは考えた。全てはハヤテを助けるため。何度もイスタリから言われてる通り、確実に魔王と戦うことになる。だが、それはハヤテの体を傷つけることになる。ナギはそれが嫌なのだ。剣でハヤテの体に斬りかかるなんて、できないのである。どうしようもできない自分が情けなく、ナギは泣き始めた。


「ナギ……」


 泣き始めたナギを見て、ナボットはなぜか熱くなった。じっとしていられず、ナボットは立ち上がって叫んだ。


「ナギ‼お前がハヤテを救うんだろ?こんな所で泣いてちゃ何も変わんねーぞ‼」


「分かるけど……私……ハヤテを斬ることができない‼ハヤテに……傷を付けることなんて出来ない」


「バッカヤロォォォォォォォォ‼今ハヤテを苦しめてるのは魔王だろうが‼傷を付ける?お前、ハヤテと戦うって言っただろうが!その決心は嘘なのか!?傷なんて治るだろうが‼ヒナクやミーナの治療魔法で治るだろうが‼」


 ナボットの声を聞き、ナギは泣くのを止め、立ち上がった。深く深呼吸をし、左手に魔力を練り始めた。


「ナギ……」


「ありがとうナボット。お前の声で目が覚めた。傷つけることを恐れてたらハヤテを助けられない。そうでもしないと……ハヤテを助けられない!魔王を倒せない‼」


 ナギは左手に集めた魔力を拡散させた。魔力は雷のようにバチバチと音を立てながら荒く動き回っていた。


「師匠……これが私の決心だ‼光魔法、アイナ・トゥオーノ‼」


 左手から発した雷がハヤテ人形に向かって真っすぐ飛んで行った。雷は人形に当たり、踊り狂うような動きで人形を襲い、大きな轟音と共に四散した。その場に残ったのは、真っ黒になり、バラバラになった人形だけだった。


「よくやったナギ。お前は心の未熟さを克服した」


 ナギの戦いを見終え、イスタリが立ち上がってこう言った。


「もうお前達に教えることは何もない」


「じゃあ修行は終わりか?」


「ああ」


 イスタリはナボットに返事をした後、空を見るように促した。空を見ると、灰色の雲が周囲に漂っていた。


「雨雲か?」


「いや、悪しき魔力の渦じゃ。魔王が動き出したのじゃろう」


「ハヤテが……」


 ナギは拳を強く握りしめた。


「早くベイト達の所に戻ろうぜ。ここからだと何日ぐらいかかるんだ?」


「早くても3日じゃな。しかし、魔王が動き出した今、そう簡単に戻れることは……」


 会話の途中だった。突然何かが降りる音がし、目の前にいるイスタリの腹から、鎌のような刃物が突き抜け、現れたのだ。


「あ……」


 その鎌はイスタリの腹を貫いた後、引き戻り、そのままイスタリを切り裂いた。


「師匠‼」


 ナボットがイスタリの体に近付き、何度も声をかけた。ナギはイスタリを攻撃した主を見て、剣を構えて睨んでいた。


「ナギ……そいつは俺が」


「私がやる。あのモンスターは私の国の兵士達を惨殺し、ハヤテを攫った奴だ」


 ナボットはナギの気迫に負け、後ろに引いた。


「キキキ……俺様ヲ殺すだと?バカゲタコトヲ言ウガキダナ…」


「黙ってろ。無駄なお喋りをする時間はこっちにはない。すぐにお前を斬る‼」


 ナギは走り出し、モンスターに近付いて斬りかかろうとした。しかし、モンスターは鎌で攻撃を防御し、ナギを蹴り飛ばした。


「バカガッ‼剣ノ扱イガナッチャイネーナ‼」


「それはどうかな?」


 ナギの生意気な返事を聞き、モンスターはイラッとし、鎌を構えてナギに向かって走り出した。


「偉ソウナコト言ッテンジャネェ!ブッ殺シテヤル‼」


「ボロボロの鎌でか?」


「アァン?」


 モンスターは鎌を見て、言葉を失った。鎌の刃はボロボロになっていたのだ。


「アレ?イツノ間ニ……」


「防御したときに、剣に魔力を込めてたんだよ。小さな魔力の粒が細かい爆発を起こして、お前の鎌の刃をボロボロにするようにな」


「コンナ魔力ノ使イ方……アリカヨ」


 ナギは戦意を喪失したモンスターに近付き、剣を突き付けてこう聞いた。


「お前、あの時のモンスターか?」


「アノ時?」


「キノハラ王国に攻め込んだ時だ」


「アア。魔王様ノ体ガアッタ城カ。アソコデ暴レタ時ハ実ニ愉快ダッタナ。弱ッチイ人間共ノ悲鳴ガ実ニ素晴ラシイ音ヲ奏デテイタ。周囲ニ飛ビ散ッタ血ノ臭イモ心地ヨカッタ……」


「……話を聞いた私がバカだった」


 ナギは剣を縦に振り下ろし、モンスターを真っ二つにした。


 戦闘後、ナギはナボットに近付き、イスタリの様子を聞いたが、ナボットは首を横に振った。


「師匠……」


「ナギ、魔王がお前の城に攻め込む前に戻ってベイト達と合流しよう。悲しいけど……ここで悲しむよりも前に進もう」


「……ああ。ナボットの言うとおりだな」


 ナギとナボットはイスタリの遺体を地面に埋め、墓を建てた後、キノハラ王国へ戻る旅を始めた。

 そろそろラストバトルが始まります。修行を終えたナギは、ハヤテを救うことは出来るのだろうか?では、キャラ説明をします。今回はミーナとナボットとセイル、イスタリの説明をします。


ミーナ・セムバード

12歳 女

キノハラ王国に仕える魔法使い。幼いながら、火、水、風、雷の魔法を全て扱え、治療魔法も使える。

まだ子供のためか、すぐに怯える。しかし、ナギと旅をしているうちに、成長していく。

裏設定としては、ミーナの両親は他界しています。ミーナが子供の頃に事故で無くなりました。それで、ミーナ母と仲が良かったヒナクがミーナを弟子として育てました。


ナボット

3歳 狼男

ナギ達を襲った狼男の一匹。他の仲間とは別で、弱い者には手を出さず、強い者と戦うことを望んでいる。そのため、他の狼男からは変人扱いされていた。

戦いの後、自分を破ったベイトに仕えるため、ナギ達の旅に加わる。

珍しい変わり者の狼男です。なんで彼が変わっているのかは、ラストバトルの中で明らかになります。ちなみに、レギュラーキャラの中で最年少です。

名前の由来は某声優大暴走アニマルロボットアニメの恐竜のキャラです。敵側から仲間になるのも、彼をイメージしました。理由は違うけど。性格も真逆だけど。


セイル・シェルファー

16歳 女

キノハラ王国の同盟国、キガヤ王国の王女。ナギの幼馴染。

ナギ達が旅に出たという知らせを受け、ナギ達を助けようとする。

魔力の扱いがうまく、占いのような魔法を使える。

キガヤ王国は名前だけで、舞台にはなりません。なので、どういう場所かここで説明します。キガヤ王国は自然と共に生きる国です。つまり、至る所に森が出来ています。


イスタリ・パランティーア

100歳以上 男

光の民の生き残り。

魔王復活を察し、光の力を持つ若者を探していた。ナギを覚醒するため、ナギに修行を付ける。

ナギの修行終了後、攻め込んできた魔王の部下の奇襲で殺される。

光の民ですが、何故滅亡状態になったかというと、年々光魔法の膨大な魔力に耐え切れず、命を落とす者が増えたからです。皆、イスタリや修行を受けたナギのようにうまく扱えるわけではなかったということです。


 今回はここまで。では、次回にお会いしましょう。感想質問お待ちしています。

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