第2話:ハヤテの行方を求めて
旅立ちから数時間後、ナギ達は宿にいた。ナギとミーナは急いで案内された部屋へ行き、ベッドの上で横になった。やれやれと呟きながら、ヒナクは二人の後を追った。ベイトは外に出て、待機しているナボットの所に向かった。
「すまないな、肌寒い中外で待機させて」
「いいんだよ、俺が中に入れば混乱するだろうし。それに、外で寝ることは慣れてるからな。気にしなくていいぜ」
「そうか」
ベイトはそう言うと、宿の主人から伝書鳩を借り、足に手紙を付けて鳩を飛ばした。
「これで城への報告は終了だ。じゃ、おやすみ」
「ああ、いい夢見ろよ~」
ベイトが宿の中に戻った後、ナボットは人目が付かない場所を見つけ、そこで横になった。
翌朝、準備を整えナギ達は再び旅を始めた。ナギは大きな欠伸をした後、ベイトにこう聞いた。
「なぁ、ウーノの町って後どれ位で着くんだ?」
「二十分も歩けば着きます」
「まだ歩くのか~?」
ナギは大きなため息を吐いた。ナボットは二人の会話を聞き、近くにいるミーナにこう聞いた。
「なぁ、ハヤテってどんな奴なんだ?」
「そうですね……ハヤテさんは真面目で優しい人です。それなりに顔も整っています。ナギ様の片思いの相手なんですよね~」
話を耳にしたナギは、急いでミーナの口をふさいだ。
「バカバカバカバカバカ!この大バカ者が‼なんてことを口にするんだ!?」
「で……でも皆さん知ってますよ」
「だけど喋るな!恥ずかしいだろうが‼」
ナギとミーナの会話を聞き、ナボットは一人納得していた。
「言い争いは後でお願いします。さ、ナギ様の愛しのハヤテを助けに行きましょう」
「ヒナク‼お前クビにしてやろうか‼」
ナギは大きな怒声をあげた。ナボットはこの光景を見て、笑い始めた。
二十分後、ナギ達はウーノの町に着いた。門に入る前に、ナボットがこう言った。
「俺は外で待ってる。騒動になるからな」
「度々すまないな」
会話後、ナギ達は町の中へ入って行った。
「さて、どこで話を聞こうか」
「酒場か警備兵に聞きましょう。何か知っている人がいるかもしれません」
「よし、手分けして聞きに行こう」
「では私とナギ様、ヒナクとミーナで分けよう」
「了解した。待ち合わせは宿屋で。夕方まで話を聞いて回ろう」
その後、ナギ達は二手に分かれて情報収集を始めた。ナギとベイトは酒場へ行き、話を聞こうとした。
「よーし、行くぞー!」
「その前にナギ様、あなたの服を整えましょう」
ベイトにこう言われ、ナギは自分の衣装とベイトの衣装を見比べた。自分の服は綺麗で見ただけでいいとこのお嬢さんと分かってしまう。逆にベイトは城で来ている上級兵士の服ではなく、動きやすい皮の服とマントを装備している。他の人が自分達二人を見て、何あの二人、どんな関係なのだろうと怪しまれてしまう。そう察したナギはすぐに服屋へ向かった。
服屋に着き、ベイトはナギのサイズに合わせた服とズボン、マントを手にし、ナギの元へ向かった。
「ナギ様、服を持ってきました」
「私これがいい!」
と、ナギは目を輝かせながら派手な色合いの服を手にしていた。その服には宝石などの装飾品が至る所についており、服の生地もかなり分厚く、旅に適した格好じゃないとベイトは思った。
「ナギ様、この服はおしゃれ用です。私達が買いに来たのは旅用の服です」
「えー、別にいいじゃーん」
「よくありません。私が用意したものを着てくださいね」
「ちぇ~」
ナギは渋々持っていた服を戻し、ベイトが用意した服を持って更衣室へ向かった。ベイトがその服の代金を払った後、着替えを終えたナギと共に酒場へ向かった。その途中、ベイトはナギにこう言った。
「ナギ様、酒場は情報収集の場でもありますが、荒くれ共が集う場でもあります。過激な発言や行動などは控えてください」
「何で?」
「騒動の元です。そのせいでこの町にいられなくなったら情報収集どころじゃありません。それに、一国の王女が酒場で大暴れしたとなれば、我が国の信頼関係になります」
「分かった」
ナギの返事を聞き、ベイトはならよしと呟いた。酒場に着き、扉を開けた。ナギは酒の匂いのせいで、嗚咽してしまった。
「大丈夫ですか?」
「何とか。鼻を押えれば我慢できる」
「無理だと思ったら私に告げてください。すぐに戻りますので」
ナギにそう言うと、ベイトは酒場へ入って行った。そのすぐ、近くにいた顎髭を生やした男性が話しかけてきた。
「おう兄ちゃん!この辺じゃ見ない顔だな、旅を始めてまだそんな日が経ってないだろ」
「はい。実は私達、モンスターにさらわれた仲間を探して旅をしているんです」
「へー、そりゃ大変だな。じゃあそのモンスターの情報を集めてるのか」
「そうです。この酒場で十六歳位の少年を連れたモンスターを見た人はいるのでしょうか?」
「さぁ、どうだろうな?俺はモンスター退治専門じゃないけど……まぁ知ってる奴もいるだろ、話聞いてみなよ」
「分かりました」
「がんばれよ‼お若いの‼」
会話後、ナギとベイトはハヤテをさらったモンスターについて話を聞き始めた。数分後、二人は白髪の男性と話を始めた。
「すみません、この数日間で少年を連れたモンスターを見かけませんでしたか?」
「ん~……俺は知らないけど、確かターヴァって酒好きの警備員がそんなこと話してたな」
「彼はどこに?」
「あそこのカウンターさ。ほら、今マスターに酒をねだった奴」
「彼ですね。ありがとうございます」
ベイトは礼を言って、ターヴァの元へ向かった。だが、白髪の男性は大声でこう言った。
「待ちなあんちゃん!あいつは酒癖が悪いんだ!話しかけてもろくなことはない‼」
「大丈夫です」
ベイトはそう言うと、ターヴァに話しかけた。
「失礼。ターヴァさんですね」
「あぁ!?何だこの野郎‼」
ターヴァは立ち上がった瞬間、ベイトの頬を殴った。ベイトはターヴァの腕を掴み、こう言った。
「やれやれ、荒っぽい人ですね」
「うるせー‼若造が俺の苦労を知ってたまるか……ヒック」
「……荒い事はしたくないのですが」
ベイトはターヴァの首を掴み、ゆっくりと力を入れ始めた。
「何をするんだよ……う……な……い……息が……」
「私達の話を聞きますか?」
「す……する……」
「では離しましょう」
ベイトはターヴァの首を離した。ターヴァは涙を流しながら呼吸をして落ち着き、椅子に座りなおしてこう言った。
「で、何の用だ?」
「あなたが見た少年を連れたモンスターの事です。私達、そのモンスターを追っているんです」
「そうか、あのモンスターか……二日前の夜、町の北門を守っていたら、小僧を連れたモンスターが現れたんだよ。襲ってくるのかと思ったんだけど、そいつは俺の方を見ずにそのままバイケンの洞窟の方角に向かって行ったぜ」
「バイケンの洞窟ですか……」
「でもあそこの洞窟は山を越えた所にあるダニーロの町につながってるからな。そこへ向かったとも考えられるな」
「貴重な情報ありがとうございます」
そう言うと、ベイトはターヴァに金貨を一枚渡し、こう言った。
「これでもう一杯酒が頼めるはずです。情報のお礼です」
「おお!ありがてぇ‼旅の幸運祈ってるよ‼」
「ありがとうございます。ではナギ様、行きましょう」
「あ……ああ」
酒場での会話を終え、二人は去って行った。二人の背中を見て、マスターはフッと笑ってこう言った。
「まるで嵐のような二人だったな」
「カッコつけなくていいから。マスター、もう一杯」
ターヴァは金貨をマスターに渡し、こう言った。
一方、警備兵から話を聞いているヒナクとミーナは町の入口近くにいた。そこには警備兵の待機所があり、そこでなら話を聞くことができると考えたのだ。待機所の入口にいる兵士に事情を話し、そこで待っていてくれと言われたので、二人は入口の近くで立っていた。
「情報が手に入ればいいんですけど」
「なーに、私達が手に入らなくてもベイト達がいる。そっちに賭けよう」
「お待たせしました」
入口から一人の兵士がやって来た。二人は挨拶をし、兵士から話を聞き始めた。
「あれは二日前でしたね。同僚のターヴァと一緒に北門を守っていました。しばらくすると、少年を連れたモンスターが現れました。襲ってくると思いましけど、自分達を無視してどっか行ってしまいましたね。その後、自分はターヴァに見張りを任せてモンスターの後を追いました。ですが、真夜中だったせいで、途中で見失い、戻りました」
「方向は?」
「バイケンの洞窟の方向です。洞窟の先はダニーロの町になっていますので、そこに向かったんでと思います」
「ありがとうございます。いい情報です」
「いえいえ。では、自分は戻ります」
「ああ。分かった」
兵士は会釈すると、待機所へ戻って行った。ミーナは明るい笑顔でこう言った。
「簡単に情報が手に入りましたね!」
「いや、確かに次の目的地は決まったが、バイケンの洞窟、そしてダニーロの町にハヤテがいるとは思わない」
「簡単に見つからないんですね……」
「そうだな。それに、あのモンスターは何でハヤテをさらったんだろうな」
「もしかして……ハヤテさんを食べようと」
「それだったら殺した兵士達を食べてるだろ。明らかに別の目的がある。まぁ早くあのモンスターを見つけて話を聞かないとな」
ヒナクはそう話すと、市場の方へ向かって行った。ミーナは慌ててヒナクの後を追った。
宿屋の前、ナギとベイトはヒナクとミーナの到着を待っていた。
「遅いなあの二人」
「兵士達全員に話を聞いてるのでしょう。そうであればかなり時間が」
「待たせたな」
二人の耳にヒナクの声が聞こえた。ヒナクの手にはたくさんの買い物袋が握られていた。それを見て、呆れたベイトはこう聞いた。
「おい。話は聞けたのか?」
「ああ。どうやらバイケンの洞窟の方へ向かったようだ」
「その情報なら私達も手にした」
「何だ。同じ情報を手にしていたのか。でも、これで次に行く場所が分かったな」
「バイケンの洞窟。そしてダニーロの町だな」
「明日出発しよう。皆は先に宿に行ってくれ。俺はナボットに明日の事を伝える」
ベイトは町の外へ行き、近くにいたナボットに話しかけた。
「ん?あれ、あんただけ?他の皆は?」
「宿にいる。それと、明日の事を伝えに来た」
「どこに行くんだい?」
「バイケンの洞窟だ」
話を聞いたナボットは驚いた声を上げた。それが気になったベイトは、ナボットにこう聞いた。
「その洞窟について何か知っているのか?」
「待機してる時、動物達と話してたんだよ」
「え、お前動物の言葉が分かるのか?」
「一応狼だからな。動物達の話だと、最近その洞窟に変な猪が住み着いたって」
「変な猪?そこは話は聞いてなかったな……」
「どうやらその猪は、魔力に反応するらしいんだよ。確か俺以外の皆は魔力が使えるんだろ?」
「そうだな……ナギ様はいいとしても、ヒナクとミーナ……そして私は魔力が使えるからな……」
「行くとしたら、そいつには気を付けないとな」
「この事は皆にも話しておこう。お前もしっかり休んで明日に備えろよ」
「おう!」
ナボットとの会話を終え、ベイトは宿に戻った。そして魔力に反応する猪の事をナギ達に話した。
「ふーん。変な猪だな」
「でもヒナクの魔法で灰にすれば大丈夫だな」
「そうですね~」
と、呑気な声を出しながらミーナはこう言った。ベイトは大きなため息を吐き、こう言った。
「いいですか?猪の事は兵士達は何も言わなかった。何も知らなかったんでしょう。とにかく、明日洞窟へ行ったら猪には気を付けること」
「心配するなベイト。深く考えすぎだ」
ヒナクにそう言われ、ベイトは黙った。
翌日。町の外にいるナボットと合流し、ナギ達はバイケンの洞窟へ向かった。町から一時間ほど歩いたところに、洞窟の入口があった。ベイトはナギ達にランタンを渡し、先に洞窟の中へ入った。
「モンスターはいないようです」
「よし、行こう」
ベイトの後を追い、ナギ達は歩いて行った。
洞窟の中は暗かったが、道は整っていた。壁や天井にも支え木が打たれていた。たまに町の人が洞窟が崩れないように手入れをしていることが分かった。だが、今は人の気配どころか、モンスターの気配すらしなかった。いつ、どこで動物達から聞いた猪が襲ってくるか分からない。ベイトはいつでも戦闘に入れるように武器を構えていた。最後尾にいるナボットはナギとミーナがはぐれないように、目を光らせて移動していた。
数分後、ナボットは何かの気配を察した。
「気を付けろ、何かいる」
「で……ですよね。私も何かの足音が聞こえました……」
震えながらミーナがこう言った。フンとヒナクは笑い、肩を回した。
「ヒナク、私達もいるんだ。魔法を使う時は加減してくれよ」
「はいはい」
ヒナクは不気味な笑みと共に答えた。ナギはダメだこりゃと思った。その直後、大きな鳴き声が洞窟中に響いた。そして、地面をける音とともに、大きな猪が現れた。
「来やがった‼」
ナボットが叫んだ。それと同時にベイトが猪の額に向けて剣を刺そうとした。だが、猪は大きな角を振り回し、ベイトの剣を弾き飛ばした。
「下がれベイト!そいつは私が丸焦げにしてやる‼」
後ろにいたヒナクが叫んだ。ベイトは慌ててヒナクの後ろに下がった。
「ナボット!ナギ様とミーナを守れ!」
「あ……ああ‼」
ナボットは自分の近くにナギとミーナを呼び、自分が盾になるように立った。
「喰らえ!私が考えた火炎魔法、フエゴ・カミェータ‼」
ヒナクの両手から巨大な火の玉の連弾が猪を襲った。彗星のごとく飛んでくる火の玉をかわし切れず、猪は攻撃を受けてしまった。それと同時に、魔法が発した際の衝撃で周りの壁や天井が削れてしまい、天井が大きな音を立てながら崩れ始めた。
「ヒナク……久しぶりの戦いでテンションが上がったのはいいが、状況と場所を考えろ‼」
「すまん。でも、猪は倒す事ができたからいいじゃないか。ほら、丸焦げにはいかなかったが、落ちてきた天井につぶされてペッタンコだ」
猪の死体を指さし、ヒナクはこう言った。その後、ナギ達は別の道を使い、ダニーロの町へ向かった。数時間後、死んだ猪の近くで黒い渦が発生した。その渦から暗い赤のマントを羽織った男性が現れた。男性は舌打ちをすると、右手を前に出し、巨大な火の渦を出した。
「やはり……失敗作は失敗作か。魔力探知機能を付けていい感じだと思ったが……まぁいい。魔王様の所に戻ろう。復活してまだ日も浅いからな」
男性は呟くと、再び黒い渦を発生させ、どこかに戻って行った。
ナギ達は洞窟を抜け、ダニーロの町へ向かっていた。洞窟の出口の近くに町の看板があったため、それを頼りに町へ向かった。
「ふぅ……疲れたな」
歩いてる中、ヒナクが呟いた。呆れたベイトはヒナクにこう言った。
「当たり前だ。あれだけの魔力を発したんだ。魔力を使いすぎだ」
「仕方ないだろ……テンション上げすぎたんだ……おっとと」
「あぶね‼」
倒れそうになったヒナクを支え、ナボットはこう言った。
「なぁ、誰か栄養剤持ってねーの?」
「ない。次の町で買うとしよう」
ベイトは溜息を吐き、こう言った。
以上第2話でした。プリンセスクエストは過去に書いた作品なので、改めて見直してみると、ちょっと1話当たりの文字数が今書いている作品より多すぎるなと、思いました。プリンセスクエストと今後更新されていく物語の最初の方は、文字数が多いと思います。
無駄話はここで終わりにします。感想や質問等お待ちしています。次回もお楽しみに。