第1話:王女の旅立ち
これは魔法の世界、タルナの物語。
昔々、この国に魔王と名乗る異世界から来た邪悪な力を持った魔物が現れました。
「この国は魔王、ビヨン様が頂いた!我に歯向かう愚か者は殺してやるからな!」
こう言うと、ビヨンは邪悪な力で生み出した魔物を世界中に散らばせ、タルナの主要の国々を襲いました。
ビヨン襲来から数年後、一人の若者がビヨンに戦いを挑みました。それを聞いたビヨンは不敵な笑みを浮かべながら若者の所に現れました。その時までは余裕の表情のビヨンでしたが、若者の周りに散らばった魔物達の亡骸を見て、冷や汗をかきました。
「我の部下が……」
「俺はジャバ。お前を殺しに来た」
ジャバは高く飛び上がり、ビヨンを斬りつけました。
「グオオオオオオオオオオオオオ‼」
傷跡から流れる血を抑えながら、ビヨンはジャバを睨みました。
「おのれ……若造が……」
「次でお前を殺す」
ジャバは剣を構え、ビヨンに向かって走り始めました。ビヨンはよろめきながら立ち上がり、右手の掌に大きな火の玉を作り、ジャバに向かって投げました。火の玉はビヨンに当たり、大きな炎を発しました。
「ハーッハッハ‼所詮はただの人間、我の炎で塵となったか‼」
「塵になるのはお前の方だ」
ジャバの声が聞こえ、ビヨンは驚きました。なんと、ジャバは炎を切り裂き、走って来たのです。
「死ね‼魔王ビヨン‼」
ジャバは力強く剣を振り下ろしました。剣はビヨンの腹を切り裂きました。攻撃を受け、ビヨンは血を流しながら倒れました。
「我が……魔の王たる我が……こんな若造に……」
「独り言はあの世で呟きな」
その後、ジャバは魔王の首を斬り落としました。
魔王を討伐した後、ジャバはタルナの主要国の一つ、キノハラに行きました。魔王討伐をキノハラに伝え、彼は帰ろうとしました。その時、キノハラの王様は言いました。
「何故あの魔王を倒せたのだ?剣で切り付けても、槍で刺しても、弓矢で放っても、魔法で攻撃しても通じなかった。何故あなたの攻撃は魔王に通じたのだ?」
それに対し、ジャバはこう答えました。
「俺は光の魔法を使っただけ、あいつに対抗できるのは光の魔法だけだ」
「光の魔法?」
「そう。だけど、その魔法を使えるのは俺の一族だけ。そのことを知った俺は修行して、強くなった。ウザったい魔王を倒すためにな」
「そうか……」
話が終わった直後、ジャバのそばに王女が駆け寄ってきました。
「ジャバ様、ありがとうございます‼これで世界が平和になりました。魔王に殺された人たちも、これで浮かばれることでしょう」
「そーだな。じゃ、俺は帰って寝る」
「勇者ジャバ様、私と結婚してください‼」
突然のプロポーズを聞き、ジャバの目は点になった。話を聞いた王も娘の結婚に賛成し、ジャバの手を取ってこう言った。
「君なら娘とこの国を任せることができる!」
「いや、俺は名声や地位のためなんかじゃなくて自分の為に魔王を倒しただけなんだけど……」
「皆の衆、宴の準備だ!新たな王の誕生だ!」
ジャバの言うことを聞かず、話はどんどん進んでしまいました。ジャバは大きなため息を吐いたのですが、美人の王女を見て、まぁいいかと思いました。
その後、ジャバは王女と結婚し、キノハラ国の王となりました。それからは平和が続きました。しかし、魔王討伐から五十年後、年老いたジャバは何かの気配を察し、自分の子供達にこう言いました。
「魔王が復活する可能性があるかもしれない。それが今なのか、それとも数年後、あるいは何百年後かもしれない。今から俺の魔力をこの剣に捧げる。もし、魔王が復活したらこの剣で戦うんだ」
話を終えると、ジャバは持っている剣に自分の魔力を注ぎました。すると、ジャバが持っている剣は光輝きました。
「この剣は城の隠し部屋に置いておく。盗まれないように、光魔法でしか開けられない錠もしておく」
それから数年経ちましたが、魔王が復活する気配はしませんでした。誰もがジャバの見当違いだと思い、魔王復活の事を忘れてしまいました。ですが、ジャバは死の間際まで、魔王の事を考えていたそうです。
ジャバの死から三百年後、キノハラ王国はまだ栄えており、平和も続いていた。
ある日、城の兵士が慌てながら廊下を走っていた。
「ナギ様ー!どこにいるんですかー?」
「コロンボ王に叱られますよー‼」
兵士はキノハラ王国の王女、ナギを探すため、走り回っていたのだ。
「……ふぅ、行ったか」
ナギは柱の裏から顔を出し、兵士が走り去ったのを確認し、近くの部屋に入った。
「ふぃ~、こうでもしないと自由になれないって……王女って不便よね~」
ナギは小さく呟いた後、部屋の中を見渡した。中には兵士達が使う剣や槍、弓矢や鎧などが置いてあった。ここが武器庫と察し、ナギは部屋の中を調べ始めた。
「武器庫か……ここって散らかってるからかくれんぼの時に最適なのよね~」
床に散らばっている剣や槍をどかしながら調べていると、誰かが部屋に入って来た。まずいと思ったナギは近くの鎧の中に入り、身を隠した。
「……ナギ様、やっと見つけましたよ」
声の主はこう言うと、鎧の中のナギを取り出した。
「ハヤテ~」
「ムスッとしないで下さいよ。これもコロンボ様の命令ですから」
少年兵、ハヤテはナギを抱いたまま外に出て、周りの兵士達にナギを見つけたことを知らせた。
その後、ハヤテはナギを連れ、コロンボがいる部屋に向かった。向かう途中、ナギは手足をばたつかせてハヤテから離れようとした。
「はーなーせー‼いいから離せよー!」
「ダメです。今度こそはパーティーに出席してもらいますよ。そのために、パーティーの時にやるダンスの練習や、食事のマナーのお勉強をやってもらいます」
「それが嫌なんだよ!何でパーティーでダンスなんてやるんだよ!?何で食事にマナーがあるんだよ!?」
「僕に言われても……」
そんな中、ハヤテの目の前にたくさんの本を抱えた少女を見つけた。
「ミーナさん、またそんなに本を抱えて……」
「あ、ハヤテさん」
「この前本を散らかして大変だったでしょう。今ナギ様と一緒に手伝いますので」
「は?私も!?」
「でも、コロンボ王の用事が……」
「理由を伝えれば大丈夫です」
「そうですか、ありがとうございます」
ミーナの本の移動を手伝った後、ハヤテとナギはコロンボ王の所に向かった。
「やっとナギを捕まえたか。ハヤテ、ご苦労であった。少し休んで来い」
「ありがとうございます」
返事をし、ハヤテは去ろうとしたのだが、ナギもその後を追うように去ろうとした。入口の近くにいた兵士がそれに気付き、ナギを抱き上げた。
「ナギ様、どさくさに紛れて去ろうとしないでください」
「チッ、ばれたか」
「バレバレです」
「すまんなベイト、面倒をかけてしまって」
「いえ、これも仕事のうちなので」
ベイトはナギを戻した後、扉の前に移動した。
「では、楽しい楽しいダンスの練習の時間じゃ‼」
「イィィィィィィィィィィイィヤァァァァァァァァァァァァ‼」
ナギの悲鳴が、場内に響いた。
その頃、ミーナは師匠であるヒナクと共に研究をしていた。
「ナギ様の悲鳴が聞こえましたね」
「そうね。今頃ダンスの練習が始まる頃ね」
ヒナクはそう言うと、持っていた薬草を煮えたぎった鍋の中に入れた。鍋の中を見て、ミーナはこう聞いた。
「師匠、今何を作ってるんですか?」
「王に頼まれた腰痛に効果がある薬だ」
「お薬ですか。だから私に薬草関連の本を頼んだんですね」
「そうだ。だが、ほんの一部でよかったのに、まさか図書室からほとんどの本を持ってくるとは思いもしなかったぞ」
ヒナクは笑いながら鍋の中をかき混ぜた。
数時間後、ハヤテは剣の訓練を終えた後、ナギの様子を見に王の間へ向かった。丁度その時、扉が開き、中から汗まみれのナギとナギを支えているベイトが現れた。
「あ、今練習が終わったんですね」
「ああ。お前も訓練が終わったようだな」
「はい。もう汗まみれですよ」
「わ……私も……汗まみれだ……は……早く風呂に……」
「そうですね。ではナギ様、ハヤテと一緒に風呂場へ向かってください」
ベイトの言葉を聞き、ナギとハヤテは吹き出してしまった。
「何を言ってるんだお前!?」
「ベイト先輩!これはまずいですよ!」
「冗談だ冗談。早く行ってこい」
ナギとハヤテが浴場へ行った後、王の間に薬を持ったヒナクとミーナがやって来た。
「ヒナクさん、ミーナ。あの薬ができたのか?」
「察しがいいな。その通り。これが腰痛に効く薬だ」
ヒナクがベイトに薬を渡し、王に届けろと告げて去って行った。去り際、ミーナがベイトの方を振り向き、軽く会釈して戻って行った。
ベイトはコロンボ王に薬を渡した後、ナギとハヤテの様子を見に浴場へ行こうとした。その時、外から兵士達が入って来た。
「どうした?そんなに慌てて」
「大変ですベイトさん!今ロベルトがモンスターと戦って大怪我を!」
ベイトはうめき声をあげるロベルトに近付き、傷の様子を見た。胸の真ん中に大きな切り傷が出来ており、骨らしき白い物体もうっすらと見えていた。
「ど……どうしましょう……治療魔法を使ったのですが……血が止まりません、皮膚も再生しません‼」
「とりあえずロベルトはここで寝かせておけ、動かすと余計に傷が開く!この辺にヒナクがいるはずだ!すぐに呼んで来い‼」
数分後、ヒナクはすぐにロベルトのもとに駆け付け、治療魔法を使い始めた。しかし、ロベルトは弱弱しく息を吐いた後、動かなくなった。ヒナクは腕を下ろし、こう言った。
「すまない……ロベルト。もう少し私が早く来たら助かったのに……」
「ロベルト……」
兵士達がロベルトの死体を運ぶのを見届けた後、ベイトはロベルトと共にいた兵士にこう告げた。
「今回の事はお前のせいではない。モンスターのせいだ」
「ベイトさん……」
「さぁ、皆と共にロベルトを見送ってこい」
「分かりました」
その兵士は返事をした後、去って行った。
「クソ!今月に入って6人目か……ズアリー、メルッザ、シャップ、チャーズン、ピエズ……皆優秀だった」
「最近は強いモンスターが周りをうろちょろしているな。班編成を考えた方がいいんじゃないか?」
「そうかもしれないな……」
会話の途中、風呂から上がったハヤテとナギがやって来た。
「何かあったのか?」
「ロベルトが死んだ。モンスターのせいでな」
「ロベルトさんが!?この前もチャーズンさんが亡くなったばかりなのに」
「またモンスターのせいだ。お前も気を付けろよ、最近強いモンスターが周囲にいるからな」
「分かりました」
「ナギ様も、外には出ないように」
「はいはい」
ナギはそう返事して、部屋に戻って行った。
その日の夜、ベイトは自室で日記を書いていた。日記の執筆中、ベイトは兵士達の集合写真を見て、少しうつむいた。その写真の中には、死んでしまった兵士達も写っていた。
「仇は俺がとってやるからな……」
ベイトは呟いた後、日記をしまい、ランタンの灯を消そうとした。その時だった。怪しい影が城壁を乗り越え、場内に入って来たのだ。
「侵入者だと!?」
このすぐ、侵入者を知らせる鐘の音が響き渡った。ベイトは兵士達を起こし、侵入者を討伐しろと命令した。その後、侵入者の事を知らせるためにナギの部屋へ向かった。
「ナギ様!今すぐお隠れしてください!」
「ふぁ……どうしたの?」
寝ぼけたナギが欠伸をしながらこう言った。ベイトはナギを抱え、すぐに近くにある隠し部屋に向かった。
「おい!どうしたんだ、教えてくれ‼」
「侵入者です。ナギ様はこの部屋で隠れてください。私が来るまで決して扉を開けないでください」
「分かった。無理をするなよ」
ナギを隠した後、ベイトは剣を構え、王の間に向かった。王の間に入り、ベイトは周囲を見回した。何もないと確信し、ベイトはコロンボの部屋を調べた。そこにも、誰もいなかった。
「ベイトさん、コロンボ王は僕が助けました」
後ろからハヤテの声がした。ベイトはハヤテに近付き、話しかけた。
「よかった。近くにお前がいたのか」
「コロンボ王に水汲みを頼まれたので、近くにいたんです」
「それで、侵入者の姿は見たか?」
「いえ。まだです」
「そうか」
この直後、兵士の悲鳴が聞こえた。二人は剣を抜き、悲鳴が聞こえた方へ走って行った。しばらく走っていると、二人の目の前に傷だらけの兵士が歩いてきた。
「べ……ベイトさん……ハヤテ君……し……侵入者が……すぐそこ」
その時、後ろにいた侵入者の爪が、喋っている兵士の首を斬り落とした。
「ケッケッケッケ……」
侵入者は不気味な笑い声をあげながら、兵士の首を踏み潰した。ベイトは剣を強く握りしめ、侵入者に向かって権を振り下ろした。ベイトの殺気を察した侵入者は、爪で攻撃を防御し、ベイトの脇腹に強い蹴りを放った。蹴りを食らったベイトは壁に向かって吹き飛び、壁に叩きつけられた。侵入者はベイトに近付き、もう一度壁に向かって蹴り飛ばした。壁にめり込んだベイトは血を吐きながら侵入者を睨み、呟いた。
「クソ野郎が……」
「ケーッケッケッケ‼死ネ‼」
ベイトにとどめを刺そうと爪を向けたが、ハヤテの攻撃が侵入者の爪を切り落とした。
「キーッ‼」
自慢の爪を切り落とされ、侵入者は怒り狂った仕草を見せた。しかし、ハヤテの顔を見て、すぐに笑みを見せた。
「ケーッケッケッケ‼見ツケタゾ‼」
侵入者はハヤテを殴り、気絶させた。
「ハヤテ‼」
「オ前ハ黙ッテロ‼」
侵入者はベイトの顔面を殴った。ベイトは壁を突き抜け、外に出てしまった。
「ジャーナ雑魚共‼」
侵入者はそう言うと、気絶したハヤテを抱えて去ってしまった。
一方、隠れ部屋にいるナギは、怯えながら隠れていた。
「全く……こんな時間に来るなよも~」
近くにあった箱の裏に身を隠し、ナギは周囲を見回した。しかし、部屋は暗いため、どこに何があるのかさえ分からない。壁も分厚いせいか、外の状況が分からない。
「ふぇぇぇ……ハヤテェ……ベイトォ……もうヒナクでも誰でもいいから来てくれよ~」
何もわからない恐怖で、ナギは泣き出してしまった。その時、扉の開く音がした。
「ハヤテ!」
ナギはハヤテだと思い、入口の方を見た。だがそこにいたのはミーナだった。
「すみません、ミーナです」
「何だ、ミーナか」
「それより大変です‼すぐに王の間に来てください‼」
その後、ナギはミーナと共に王の間に向かった。その道中、大怪我を負って倒れている兵士の姿を見つけた。
「おい、大丈夫か?」
「な……ナギ様……ご無事で何より……」
「喋るな、傷が開く!」
兵士を安静にさせた後、ナギは周囲を見回した。そこにあったのは体の一部分を切断され、倒れている兵士や、真っ二つにされて死んでいる兵士、首のない兵士、血を流して倒れている兵士達の姿だった。吐き気がしたため、ナギは外に出て吐いてしまった。
「ナギ様……大丈夫ですか?」
後ろから来たヒナクがナギの背中をさすり、気分の回復を図った。
「いや……まだ……」
「そうですか……そうですよね。私も気分が悪いです。長年共にした兵士達の死体なんて、見てて気分のいいもんじゃないですし」
「誰がこんなことをしたんだ?」
「まだ情報が私にも伝わっていません。あの場にいた兵士はまだ怯えて話せないですし」
「そうだ……ハヤテは?ベイトは?あいつらは生きているのか?」
ナギにこう聞かれ、ヒナクはうつむいて答えた。
「ベイトは侵入者と戦い負傷。ハヤテは……行方不明だ」
翌日。ヒナクは生き残った兵士達から情報を集め、整理していた。
「ふむ、こんな所か」
「師匠。入ります」
ミーナが部屋の中に入り、ヒナクの手元にある報告書を見てこう言った。
「これは?」
「報告書だ。今ペンを持てる兵士がいないから、私が書けと」
「情報、まとまったんですか?」
「ああ。見るか?」
ヒナクは報告書をミーナに渡した。その報告書には、こう書かれていた。
昨日の侵入者襲撃の件について。大体の事がまとまったので記します。
死亡者:30名以上
負傷者:50名以上
行方不明者:1名
「うわ……被害が大きいです」
「それで、まだ侵入者がどこの馬鹿だか分からない。それに、ハヤテもさらわれた」
「えええええええええええええええ!?じゃあこの行方不明者って……」
「ハヤテの事だ」
ヒナクはそう言うと、立ち上がって外に出た。
「あ、その報告書そこに置いておいて、後でコロンボ王の所に持っていくから」
「はぁ……」
気のない返事をし、ミーナは部屋から出て行った。ナギの耳にハヤテが行方不明になったと知れば、きっと自分が助けに行くというだろうと、ミーナは考えていた。その前に、ハヤテが見つかればいいなと、ミーナは願った。
その頃、ベイトは数名の兵士を呼び、話をしていた。
「これからお前達にハヤテ・エルタの捜索を命じる。ハヤテ・エルタをさらったモンスターの特徴は、爪と舌が長く、我々と同じような言葉をしゃべるモンスターだ。相手はなり凶暴であり、長い爪は人間の肉を切り裂くほどの鋭さだ。その爪のせいで、何人の兵士達が命を落とした。いいか?今回の目的の最優先はハヤテ・エルタの捜索、及び救出、もし昨日の襲撃者と遭遇した場合は逃げろ!絶対に逃げろ!いいな?」
「はっ‼」
兵士達の威勢のいい返事を聞き、ベイトは行けと命令した。兵士達が馬に乗り、去った後、ベイトはコロンボの所に向かった。その時、王の間からナギの怒鳴り声が響いた。
「どうしたのですか?」
王の間に入ると、突然目の前に花瓶が飛んできた。ベイトは花瓶を取った後、暴れまわっているナギを羽交い絞めにして動きを止めた。
「すまんベイト……あいちちち……」
コロンボは赤くなった額を抑えながら、ベイトに近付いた。
「大丈夫ですか?赤くなっていますが」
「ナギが投げたグラスが当たっただけだ。それよりベイト、ハヤテの事なんだが……」
「今第一班が行きました。翌日に第二班が捜索する予定です」
「そうか……もう捜索隊が出動したのか」
「そんなんじゃハヤテは見つからない!私が自分で探しに行く!」
ナギが大声で叫んだ。ベイトはナギが自分でハヤテを助けに行くわがままを言って、王と喧嘩をしたんだなと察した。
「大丈夫ですよナギ様。捜索隊がハヤテを探し出します。信じてください」
「むぅ……」
ナギは動きを止め、静かになった。ベイトがナギを離した後、コロンボと話を続けた。
「王、捜索隊を見送った後、私もハヤテを探してきます」
「すまない」
「いいえ、後輩のためですから。私の留守の間、信頼できる兵士達に私の仕事を引き継ぎさせます。王の護衛も私が帰ってくるまで、増やそうと思います」
「そうだな。またあのモンスターが襲ってくるか分からないからな」
「はい。ですが、次会った時は必ず仕留めます」
「頼もしいな。頼んだぞ、ベイト」
「はっ」
話を終えた後、ベイトは兵士達の所に戻って行った。
その日の夜、ナギは自分のバックに道具を入れていた。傷薬や飲み水が入った瓶、ランタンと干し肉、それらを入れた後、机の上に置いてある剣を腰に携え、窓を開けた。外に誰もいないかを確認した後、ナギはロープを外に垂らした。
「よし、旅立ちの準備は完了!待ってろよハヤテ!」
ナギはロープを使い、外へ出た。地面に着地した後、もう一度誰もいないかを確認した。
「誰もいないと……じゃあ行くか」
「どこ行くんですか?」
ナギの後ろから声が聞こえた。後ろを見ると、ランタンを持ったミーナが立っていた。
「ミーナ……お前こそどうしてここに?」
「トイレに行ってたんですけど……まさか、ハヤテさんを助けに」
ナギはすぐにミーナの口を押え、近くの茂みに隠れた。そして、そのまま見張り兵に悟られないように、城の外へ出て行った。
「ふぅ……危なかった~。ばれると思った」
「ばれると思ったじゃないですよ‼外に出ちゃったじゃないですかぁ‼」
ミーナが泣きながら叫んだ。ナギはミーナを落ち着かせ、こう言った。
「仕方ないじゃないか、ハヤテを探す旅に出ようとしたら、お前が来たんだから。こうなったら、お前も付いてこい。これは王女ナギの命令だ、お前に拒否権はない」
「酷い‼」
「とりあえず近くの町に行くぞ、そこまで歩けば太陽も出てくるだろう」
「その前にモンスターが出ますよ!私……モンスター相手に魔法使ったことないのに」
「私だってモンスター相手に剣を振り回したことはない。というか、剣を持ったこともない」
「よくそれで旅に出ようと考えましたね」
「私だってジャバの血を受け継ぐ者だ!何とかなる‼」
「そんなんで行けるんですかね……」
その時だった。突如オオカミの鳴き声が響き渡った。しばらくし、ナギとミーナの周りに人が現れた。
「ただの人じゃないか、庶民はこんな夜中に出歩くもんだな」
「ナギ様、あれは庶民ではありません。ましては人間でもありません‼あの人達は……狼男です!」
「は?」
この直後、狼男達が牙をむいて、ナギとミーナに襲い掛かった。
「う……うわああああああああああああああ‼」
ナギの目の前に一匹の狼男が現れ、襲い掛かろうとした。だが、ミーナの右手から発した火の玉が狼男に当たった。
「ミーナ!」
「お城に戻りましょう!兵士達にこの事を伝え……」
「グガァァァァァァァァァァァァ‼」
ミーナの後ろにいた狼男が、大きな口を開けてミーナの頭を飲み込もうとした。後ろに狼男がいることに、ミーナは気付いていない。ミーナが危ない、死んでしまう‼そう思ったナギは剣を抜き、ミーナの後ろの狼男の口めがけて剣を突き刺した。剣は狼男の口の中に入り、そのまま喉を突き刺した。
「剣でも食ってろ!」
ナギに刺された狼男は血を吐き、その場に倒れた。
「にゃ……にゃぎしゃまぁ……」
恐ろしくなったミーナは泣き始め、その場に座り込んでしまった。
「馬鹿、泣くな!」
「うええええええええええええん!怖いよぉ、助けて師匠!」
泣き始めたミーナはもう戦力にならない、周りの狼男達はナギの方を注目している。泣きたいのはこっちの方だ。ナギはそう思った。次に狙われるのは確実に自分だ。だとしても、今さっきのように剣を突き刺して狼男を倒せることができるのか?今のはまぐれだ。ただ、運が良かっただけなのだ。この状況をどう打破しようか?ナギは冷静になって考え始めたが。
「今だ!動きが止まっているうちに始末して食っちまおうぜ!」
「その通りだな!」
「覚悟しろよクソガキ!」
狼男達は待ってくれなかった。やるしかないか。ナギは剣を構え、狼男達と戦おうと決心した。その時だった。
「全く、あなたはいつも無茶ばかりする」
ベイトの声が聞こえた。その瞬間、目の前の狼男達は血を流し、倒れて行った。
「私の弟子に無茶をさせないでくださいね。あなたみたいな性格じゃないから」
続いてヒナクの声が聞こえた。しばらくし、ナギの近くにいる狼男達が燃え始めた。
「ベイト……ヒナク……」
ナギは目の前に現れたベイトとヒナクを見て、安堵の息を吐いた。ベイトとヒナクの強さを見て、狼男達は恐れをなして逃げて行った。
「ふぅ……私達が来なければどうなっていたことか……見張りの兵士が言ってましたよ、あなたがミーナと共に門の外へ出るあなたの姿を見たと‼」
ベイトはナギに近付き、拳骨を入れた。
「イギャッ‼」
「お仕置きです。少しは反省してください」
「いつつつ……」
「無事だったからよかったものの、今度は死んでしまうかもしれませんよ」
泣いているミーナを抱きしめながら、ヒナクがこう言った。それに対し、ナギは大声でこう言った。
「それは分かってる、危険なことだって、死ぬかもしれないって分かってるんだ‼だけど、自分の手でハヤテを探したいんだ‼」
「はぁ……」
ベイトは溜息を吐き、しばらく考え始めた。
「分かりました。ハヤテを見つけるまで、あなたの我儘に答えましょう」
返事を聞き、ナギの顔が明るくなった。
「本気なのベイト?」
「当たり前だ。私自身ハヤテをすぐに見つけたいしな。ヒナク、お前はどうするんだ?」
「……仕方ないわね。私も付いていくわ」
「そうか。それなら安心だ」
フッとベイトが笑った後、彼は目の前にいる狼男を睨んだ。
「話は終わったか?」
その狼男は笑いながらベイトにこう聞いた。
「律儀な狼男だな。話が終わるのを待つなんてな」
「話し込んでいたらまともに戦えないだろ」
「変わった狼男だ」
ベイトがヒナク達に下がるように伝えた。それを見た狼男はゲッと声を漏らし、慌てながらこう言った。
「待てよ!待て待て!俺は一対一の戦いがしたいんだ!」
「一対一だと?」
「俺は他の狼男と違って、強い奴と戦いたいんだよ。弱い奴を襲うのはあまり好きじゃないんでな」
「本当に変わった奴だな」
「仲間内でも呼ばれるよ、変人ってな。さ、話はこれで終わりにして、戦いを始めようぜ」
狼男はそう言うと、爪を出し、ベイトの方を睨んだ。ベイトも剣を抜き、狼男の方を睨んだ。
「じゃあ、行くぜ」
狼男は素早く地面を蹴り、ベイトに向かって飛んで行った。
「上からか!」
ベイトは剣を下から振り上げ、上からの攻撃に対処した。狼男は攻撃を爪で防御し、ベイトの目の前に着地した。
「オラッ!」
狼男はベイトの腹にめがけて拳を沈めた。
「グハッ!」
「もう一撃!」
続いて、狼男はベイトを蹴り飛ばし、距離を広げた。
「まだまだ行くぜ!」
蹴り飛ばしたベイトに向かって、狼男は走り出した。
「……詰めが甘いな」
ベイトは立ち上がり、剣を構えなおして狼男の攻撃を待った。
「突っ立てるだけじゃ何もできねーぞ!」
叫びながら狼男は鋭い爪で攻撃を放った。だが、ベイトはその攻撃をかわし、狼男の脇腹を斬りつけた。
「動きが分かりやすい」
「……流石だ、お見事」
狼男は脇腹を手で覆い、その場に崩れた。苦しそうな狼男の顔を見て、ベイトは剣をしまった。
「おい、止めは刺さないのか?」
「勝負は終わった、私の勝ちでな。敗者を殺すのも生かすのは、勝者が決めることだ。敗者はそれに従えばいい」
「……そうだな」
狼男はその場で横になった。ナギはヒナクから離れ、狼男の近くに寄った。それを見て、ベイトが慌てながらナギに駆け寄った。
「な……ナギ様?」
「大丈夫だ、こいつと話をするだけだ」
「いや、こいつは狼男で……」
「大丈夫だよ。俺は人間の肉が大っ嫌いだ。あんなもん食えたもんじゃない」
狼男は笑いながらこう言った。ナギは狼男の横に座り、話しかけた。
「本当にお前は変だな。仲間と共に私とミーナに襲い掛かると思ったら、隅っこの方で大きな欠伸をしてたもんな」
「見てたのか」
「ああ。だけどお前は一体何を考えているんだ?人間の肉が嫌いとか、一対一の戦いを求むとか、弱いものを襲わないとか」
ナギの質問に対し、狼男は考えながらこう答えた。
「何だろな、俺でも分からねーや。ただ、人とか動物の苦しい顔を見るのが……とても嫌なんだよ。見てると、なんか嫌な気分になる」
ふーんと、ナギは言った後、ヒナクの元に戻りこう言った。
「ヒナク、あいつを治療してくれ」
「はぁ?いいんですか?」
「あいつは人を襲わないだろ。それに、ほかの狼男と違ってあいつはいい奴だ。私には分かる気がするんだ」
「ヒナク、私からも頼む」
ベイトもヒナクにこう言った。やれやれとヒナクは呟いた後、狼男の治療を始めた。
数分後、傷が治った狼男は立ち上がり、ヒナクに礼を言った。
「悪いな、傷を治してもらって」
「命令だからな。それより、最近人間の少年を担いだモンスターを見なかったか?私達はそいつを探しているんだ」
ヒナクの質問を聞き、狼男は考え始めた。
「人間の少年を連れたモンスター……いや~見てないな」
「そうか……」
何も情報は得られなかった。そう思ったナギはその場に座り込んでしまった。
「じゃあ……ハヤテはどこに行ったんだ?」
「町で聞き込みをしましょう。何かしら知ってる人がいるかもしれません」
地図を見ながらベイトがこう言った。それを聞き、ナギは立ち上がった。
「さぁ行くぞ!ハヤテが待ってる!」
そう言うと、町の方へ走って行った。
「あ!またモンスターに襲われますよー‼」
「急ごう、厄介なことに巻き込まれる前にな」
ミーナとヒナクは走りながらナギの後を追った。ベイトは溜息を吐いた後、狼男にこう言った。
「お前も来い」
「え?いいのか?」
「敗者を殺すのも生かすのも、仲間にするのも、勝者が決めることだ」
そう言うと、ベイトはにやりと笑った。それに対し、狼男も笑いながらこう言った。
「そうだな!俺はナボット、よろしくな!」
次回の更新は来週を予定しています。感想をお待ちしています。誤字脱字等ございましたら、連絡の方をお願いします。まだ初心者なので、慣れないこともあると思いますが、よろしくお願いします。