ルート2・アフター
いま彼女がどうしているのか。気になった俺は、実家の近くに住んでいる彼女の両親のもとを訪れた。
「やぁ、よくきたね。あまり出せるものもないが、さぁ、上がってくれ」
二人はとても喜んでくれた。お茶をもらい、ひとしきり思い出話に花を咲かせ終わると、場が一瞬しんとした。
「……今日は、何か用事があってきたんだろう?」
「はい、実は……」
俺はことの経緯を説明した。そして、彼女の現状を、尋ねた。
「……」
二人の口は、途端に重くなった。
フォローを入れた方がいいだろうか?
しかし、ここで邪魔をしてもあとが悪いか。
色々と考えを巡らせているうちに、彼女の父が口を開いた。
「今から、時間あるかい?」
「え?」
「来てほしい場所があるんだ」
この流れで、来てほしい場所。
俺には、ひとつしか思い浮かばなかった。
墓地。
灰色の石がいくつも建てられた、慰霊の場所。
「……はい」
連れてこられたのは、しかし想像と違う場所だった。
中央病院。地元で最大最高を誇る病院。
その新規増設棟に彼女はいると言う。
他の病棟と変わらない、個室のドアの連続。
9909号室。ここが彼女の部屋らしい。
スライドドアを開けて、中に入る。
すると、そこには。
「……」
彼女がいた。数多の管を体に差し込み、頭部に機械のヘルメットのようなものを被った彼女が。
「一年前に、交通事故にあってね。それからずっとあの状態さ。でも、あの子はなにもしてない訳じゃない。ちゃんと『ここじゃない世界』で生きてるよ」
「……それって」
両親は、そっと頷いた。
「ほら、あれを見てごらん」
彼女の父が指差す先。ベッドの脇のディスプレイには、見覚えのあるアバターが、桜舞い散るフィールドで元気に走り回っている姿が見えた。
「最初は病院の特設フィールドとやらで遊んでいたんだが、操作になれてからは手狭だと言い出して。最近外に出したら、ちょうど君と会ったらしい」
厳密には、会った相手が俺だと気づいたのはごく最近だと言う。しかし、そうじゃないか、とは前から言っていたらしい。
「君と遊ぶようになってから、あの子はとても元気になった。一度自分を失ってから暗かった顔が、いまではあんなに晴れやかだ。親として、あれ以上に嬉しいことはない」
話してくれる彼女の父と、横で聞く彼女の母は、心底嬉しそうだった。
「よければ今後も、あの子と仲良くしてくれるかね?」
それは、もちろん。
二つ返事で肯定すると、また両親はにんまりと笑った。
「あ、遅いですよ!」
「ごめんなさい、今日はちょっと用事があって」
「用事? ガールフレンドとデートとかですか?」
「俺にガールフレンドはいませんよ」
「どうでしょうねぇ。まぁいいです。さ、いきましょう」
「はい」
彼女に手を引かれながら、春の草原を走り抜けた。
俺はこれからも、彼女とここで戯れる。
この関係を壊す理由もない。
それに俺は、どんなやつでも受け入れるって決めてるから。