ルート2
「どんなやつでも、俺は受け入れるよ。そんくらい俺の懐は深いからな!」
「ばっかみたい」
「んだよ!」
そんないがみ合いをしていた二人だった。
俺はあいつがすきだった。
私はあいつがすきだった。
でも、あいつがすきじゃなかったら。
そう思うと、話題を変える一言と、運命を変える一言が、口から喉の奥へ、どんどん下がっていった。
時は過ぎて十余年。
世の中ではVRが普及し、俺もようやく手に入れた。
初めて入る世界で、どうせならと少年のアバターにした。
いつもとは違う自分がほしかったが、性別を変えるのは気が引けたから。
フィールドに降りると、ちょうど正面に誰かが降りてきた。かわいい少女のアバターだ。
試しに話してみよう。
「あの」
「はい」
始まりはぎこちなかった。お互い初心者だったのだ。
「じゃあ、二人でいろいろ慣れていきませんか?」
「いいですね、それ」
俺たちは、二人でこの世界を堪能していった。いろんなフィールドを渡り歩いたり、ゲームをしたり、たまに、青春ごっこをしてみたり。
「はぁ、楽しいです」
「俺もです」
ふぅ、とひとつ息を吐く。なんだか、懐かしい感覚だ。
「昔好きだった人を、思い出しました」
俺が言うと、「私もです」と隣の彼女は同調してくれた。
「あのときちゃんと、気持ちを伝えてればなあ」
なんて言って、彼女は笑った。
お互いに似た経験を持っているようだ。
「でも、今のこんな姿を見られたら、彼は幻滅するかな」
彼女は、少し悲しそう目を細めた。
「俺は気にしませんけどね。あいつがどんなやつになっても、俺は受け入れますよ」
「え……」
彼女は唖然とした。
「俺の懐は深いですから」
冗談めかして、その頃の記憶の言葉を引き出した。
彼女は、顔を下に向けた。
「もしかして……」
「へ?」
くぐもっていて、よく聞こえなかった。
「いいえ、なんでも。そろそろ時間です」
「あ、俺もだ」
彼女は立ち上がって、俺から少し距離をとった。
「それでは」
「ええ、それでは」
最後に、彼女は何かを言い淀んでいた。
決心したように頷くと、彼女は口を開いた。
「あなた、ば……」
しかし、時が遅く、彼女と俺はポリゴンの群れとなってしまった。
次に会ったとき、「あのとき、何て言おうとしてたんですか?」と聞いても、彼女は「なんでもないですよ」と朗らかに笑ってごまかすばかりだった。
その笑顔が、なぜか彼女に重なったのは、俺の錯覚だろうか。