表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

ルート2

「どんなやつでも、俺は受け入れるよ。そんくらい俺の懐は深いからな!」

「ばっかみたい」

「んだよ!」


 そんないがみ合いをしていた二人だった。

 俺はあいつがすきだった。

 私はあいつがすきだった。

 でも、あいつがすきじゃなかったら。

 そう思うと、話題を変える一言と、運命を変える一言が、口から喉の奥へ、どんどん下がっていった。



 時は過ぎて十余年。

 世の中ではVRが普及し、俺もようやく手に入れた。

 初めて入る世界で、どうせならと少年のアバターにした。

 いつもとは違う自分がほしかったが、性別を変えるのは気が引けたから。

 フィールドに降りると、ちょうど正面に誰かが降りてきた。かわいい少女のアバターだ。

 試しに話してみよう。


「あの」

「はい」


 始まりはぎこちなかった。お互い初心者だったのだ。


「じゃあ、二人でいろいろ慣れていきませんか?」

「いいですね、それ」


 俺たちは、二人でこの世界を堪能していった。いろんなフィールドを渡り歩いたり、ゲームをしたり、たまに、青春ごっこをしてみたり。


「はぁ、楽しいです」

「俺もです」


 ふぅ、とひとつ息を吐く。なんだか、懐かしい感覚だ。


「昔好きだった人を、思い出しました」


 俺が言うと、「私もです」と隣の彼女は同調してくれた。


「あのときちゃんと、気持ちを伝えてればなあ」


 なんて言って、彼女は笑った。

 お互いに似た経験を持っているようだ。


「でも、今のこんな姿を見られたら、彼は幻滅するかな」


 彼女は、少し悲しそう目を細めた。


「俺は気にしませんけどね。あいつがどんなやつになっても、俺は受け入れますよ」

「え……」


 彼女は唖然とした。


「俺の懐は深いですから」


 冗談めかして、その頃の記憶の言葉を引き出した。

 彼女は、顔を下に向けた。


「もしかして……」

「へ?」


 くぐもっていて、よく聞こえなかった。


「いいえ、なんでも。そろそろ時間です」

「あ、俺もだ」


 彼女は立ち上がって、俺から少し距離をとった。


「それでは」

「ええ、それでは」


 最後に、彼女は何かを言い淀んでいた。

 決心したように頷くと、彼女は口を開いた。


「あなた、ば……」


 しかし、時が遅く、彼女と俺はポリゴンの群れとなってしまった。

 次に会ったとき、「あのとき、何て言おうとしてたんですか?」と聞いても、彼女は「なんでもないですよ」と朗らかに笑ってごまかすばかりだった。


 その笑顔が、なぜか彼女に重なったのは、俺の錯覚だろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ