ルート1
「どんなやつでも、俺は受け入れるよ。そんくらい俺の懐は深いからな!」
「ばっかみたい」
「んだよ!」
そんないがみ合いをしていた二人だった。
俺はあいつがすきだった。
私はあいつがすきだった。
でも、あいつがすきじゃなかったら。
そう思うと、話題を変える一言と、運命を変える一言が、口から喉の奥へ、どんどん下がっていった。
時は過ぎて十余年。
世の中ではVRが普及し、俺もようやく手に入れた。
初めて入る世界で、どうせならと少年のアバターにした。
いつもとは違う自分がほしかったが、性別を変えるのは気が引けたから。
フィールドに降りると、ちょうど正面に誰かが降りてきた。かわいい少女のアバターだ。
試しに話してみよう。
「あの」
「はい」
始まりはぎこちなかった。お互い初心者だったのだ。
「じゃあ、二人でいろいろ慣れていきませんか?」
「いいですね、それ」
俺たちは、二人でこの世界を堪能していった。いろんなフィールドを渡り歩いたり、ゲームをしたり、たまに、青春ごっこをしてみたり。
「はぁ、楽しいです」
「俺もです」
ふぅ、とひとつ息を吐く。なんだか、懐かしい感覚だ。
「昔好きだった人を、思い出しました」
俺が言うと、「私もです」と隣の彼女は同調してくれた。
「あのときちゃんと、気持ちを伝えてればなあ」
なんて言って、彼女は笑った。
お互いに似た経験を持っているようだ。
それからお互いに愚痴を言い合って、寝る時間になったため、別れることにした。
「それじゃあ、また」
「ええ、また」
お互い、手を振って、ポリゴンの粒となって消えた。
デバイスを脱いで、一息つく。
私は普通に生きて、普通に就職した。
俺は普通に生きて、普通に就職した。
あいつは、今ごろ何してるんだろう?
まぁ、普通に生きてるかな。
「「……寝よう」」
布団を深く被って、瞼を閉じる。
あぁ、明日も仕事か。