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あいつは天才シリーズ

あいつは天才・萌芽編

二作目です。これも前に見た夢が元ネタです。読んでいただけると嬉しいです。
戦闘シーン増量しました。大昔のお伽噺ネタも増量しました。
「やっぱり君って天才だよ!」

それがあいつの口癖だ。

********

俺はアダム・アンダーセン、人類連邦軍の技術開発部門で働く研究員だ。といっても特別に頭がいいわけじゃなく、肩書は便宜上みたいなもんだけどな。

俺は少し前に軍の恒星系内格闘機パイロット学校での研修を終えて前線に配属され、2、3回の実戦に出て生き残って中尉に昇進したばかりだ。つまりは卵のカラが取れたばかりのヒヨッコ、新米に毛が生えた程度のパイロットってことだ。いや、だった。

「アンダーセン中尉、本日より別命あるまで、技術開発本部付を命ずる」

人類連邦軍技術開発本部に呼び出された俺は、俺の新しい上司になるおっさんからそう通告された。

「はあ?」

「連絡艇が待っている。詳細は隣の部屋にいる儂の秘書に聞け」

だから俺は慌てて話を切り上げ、回れ右して部屋を出た。そうするしかないだろう? 新しい上司は技術開発本部長だそうだ。そんなお偉いさんに睨まれたら、新米パイロットなんてぺしゃんこだ。

その日から、俺の肩書は中尉から研究員に替わった。

********

新米の格闘機パイロットが技術開発本部に転属ってことは、新型格闘機の開発に携わるって話に違いない。そう思った俺は意気込んだ。しかし指示された連絡艇で向かったのは巨大な工作艦で、出迎えてくれたのは、幼馴染で長い付き合いのあいつだった。

「久しぶりだね!」

どうやら、俺はあいつの雑用係として転属させられたらしい。

********

あいつは天才理論物理学者だ。大学卒業後、人類連邦軍の技術開発本部に半ば強制的に引っ張られて就職していた。俺も同じ道に進むつもりだったんだがな、適性検査で宇宙格闘機操縦の方にいい点が出たとかで、パイロット学校に入校させられていた。ここ1年ぐらい会ってなかった計算になるか。あいつが1人でやれてるか心配だったが、見た目は思ったほどひどい有様ではなかったので安心した。部屋の散らかり具合はひどいもんだったが。俺がまずやったことは居住エリアの掃除だ。

工作艦に落ち着いてから数日、俺たちは別れてからのいろんな話をした。いや正確に言うと、俺があいつのとりとめのない話を聞いていたといった方が正しいが。

「ねえ、戦闘で大事な要素って何だろう?」

いつものことだが、唐突にわけのわからない話になるんだ、あいつは。

「そりゃあいろいろあるが、単純に言えば火力、防御力、機動力だろ」

「兵器開発を考えるなら、どれを最優先とするべきだろうか?」

「どれが最優先でもない、すべてを高いレベルで達成したバランスのいい兵器が理想なんだよ。どれか一つだけが突出しても兵器としては歪になっちまう。っておふくろの受け売りだけどな」

「そうか! やっぱり君って天才だよ!」

それからしばらくあいつは工作室に籠りきりになった。1日に2、3度飯を食いに出てくるだけだ。あまり根を詰めるのも身体に悪い、俺はきちんと食事をさせて、風呂にも入れて、寝かせることに専念した。俺たちは、まあ長い付き合いの幼馴染なわけで、そのあたりはいまさら恥ずかしがることもない仲ではある。あいつの雑用係なら長年やってきた、いつもと同じだ。

あいつが仕事を始めてから3週間で、それが姿を現した。

********

「じゃーん」

それは、一言でいうなら胸をぐっとそらし、捕脚を構えた巨大なシャコのような姿をしていた。シャコって知ってるか? 大昔の地球に住んでいた海生動物で、節が連なった細長い胴体をしていて、カラに覆われ、節には節ひとつに1対の脚がついている。シャコが海にいたころは、人間の食糧だったらしいぞ。

ただ、俺の目のまえにあるシャコのようなものは、胴体それぞれの節から1対の脚の代わりに1対の腕が伸びていて、各々ビームガンやレールガンといった、人類連邦軍格闘機用の制式兵器を握っていた。胴体は長い。数えてみたら36対あった。そしてシャコならば頭部と胸部にあたる部分はやはり武装したISB-22の腰から上が据えてあり、腰の付け根、長い胴体の先端からは砲身らしき筒が突き出ていた。

それはデカいとしか言いようがなかった。人類連邦軍の中型艦を凌ぐ大きさじゃないか? ざっと全長600メートル程度か。通常の格闘機が18メートルぐらいだ。そして、どうしようもなく禍々しかった。

素人でもわかる、このシャコの化け物にはとんでもない資源が投入されている。ちなみに人類連邦軍の宇宙格闘機大隊の定数は格闘機37機に支援艦1隻だ。つまり、それこそ大隊が作れるレベルだ。

俺は無意味に胸を張ったままのあいつに向き直った。ちなみに、俺たちは宇宙服を着て工作艦の甲板に立っている。目の前のそれはとても艦内には収容できる大きさではなく、ワイヤーで係留されている。

「人類連邦軍が劣勢の今、こんなゲテモノ作るなんてどういうつもりだ、資源の無駄遣いじゃねえか」

「ほとんど廃物の再利用だから、無駄使いはしてないよ?」

そうか、戦場から回収された、敵味方兵器の残骸を大量に抱え込んでいるって話をあいつから聞かされたな。技術開発本部長のお声がかりで敵味方双方の兵器の長所短所を分析する、それがあいつの現在の主な仕事だって話だ。そして俺たちが今立っている戦艦クラスの巨大工作艦、あいつの専用研究所は大小様々な工作施設を備えた優れものだ。廃物を分解して再構成して、自前で建造したってのか・・・。

「それにしたって、工作艦1隻でここまでのデカブツを作れるエネルギーが出せるもんなのかよ」

「ふふ、すごいだろう!」

そんなことができるなら、人類連邦は劣勢に立っていないはずだと思う。しかし…あいつならこの工作艦の奥深くにエネルギーが湧き出る魔法の壺の一つぐらいもっていておかしくないな。そして壺の中には、よからぬ感じしかしない、真っ黒な点があったりするのかもしれない。なにせあいつは、多次元宇宙理論を専門にする大理論物理学者様なんだからな…。俺は絶対近づかないぞ。

********

「で、何なんだこれは」

「前にアダムが教えてくれた、火力、防御力、機動力の三要素をすべて高いレベルで達成したバランスのいい兵器を作ってみたんだ」

瞬時に思い出した。あの話か! いや待て、俺はこんなゲテモノみたいな兵器が理想と言ったつもりはないぞ。こんなものを1機作るなら同じ資源を投入して、普通の宇宙格闘機を37機と支援艦を1隻作って1個大隊を編制した方がいい。数の優越は個の優越に勝る。人類の長い歴史の中でそれは証明されてきた。たとえば大昔、技術的には当時他国のどの戦艦にも優越した2隻の巨大戦艦を建造したある国は、戦艦個艦の能力では劣後したものの数で優越した敵国に敗れ、滅んだという実例がある。戦史科の授業で習った。

「本部長から言われたんだ、1機で格闘機1個大隊に相当する兵器を作って、役に立つか評価してほしいって」

なるほど、気まぐれで作ったおもちゃって訳じゃなく、軍の仕事ではあるのか。

「だが、1機だけに突出した能力を持たせても他の機と連携が取れないぞ。それに補給はどうするつもりだ、これ1機だけのために特別な予備部品を作らせるのか?」

「といっても、それがお題だからねえ。機体の95%は他と共用できるように作ってある。胴体と副腕はISB-22だし、節の中身も実はISB-22の胴体なんだ。装甲は現地で中型工作艦がいれば現地で予備部品から形状変更できるんだ。主エンジンと推進系はISB-22と、小型艦のものを流用している。武装は見ての通りISB-22のものならすべて使える。主砲は小型艦のものを流用だよ。」

胴体から突き出した筒は小型艦の艦首軸線砲だったか。するとなにか、これは正確にISB-22装備の1個大隊に使われているのと同等の資源で建造できて、補給に必要な資源も同じぐらいで、見てくれこそ違うがまさに1個大隊相当の戦力ってわけか。考えどころはそれを1機に集中した長所と短所ってことか。

「話はわかった。パッと見ほどトンデモって訳でもないんだな」

あいつは小首を傾げた。

「ちょっと意外だな」

「何がだ?」

「男の子って、みんなこういうの大好きだと思ってた」

「それは誤解だ。確かに俺個人としてはこういうの、嫌いじゃない。それは認めよう。嫌いじゃないが、パイロットは格闘機に命を預けて戦場に出ていくんだ。命がかかってるんだ、いくら見た目は派手でも明確に短所のある歪な機体に乗りたいとは思わねえよ」

嫌いじゃないけどな。大事なことなので二度言っておいた。

「恐竜兵器に漢のロマンを感じるやつは一定数いる。だけど飾って眺めるのと実際使うのとじゃ違うってことぐらい、ほとんどのやつはわかってるさ」

しかし、この機はありきたりな恐竜兵器ってわけでもなさそうだ。

「だけどお前がお前なりによーく考えてこれを作ったことは理解した。実際にうまく働くかは実戦で検証だな」

トンデモで思いだした。小さい頃に読んだ大昔のお伽噺の、トンデモ兵器のスチャラカ戦記と酷評されたエピソード集。あれは試作兵器の物語じゃなかったか? ふとなぜか、何か嫌な予感がしてきた。

「やっぱり君って天才だよ! じゃ、行こうか」

「はあ?」

「実戦で検証するんだ!」

だから俺は慌てて話を切り上げ、必要な準備を始めるため物品のリストアップを始めた。そうするしかないだろう? あいつが行くと決めたらそれで決まりなんだ。それがたった今決まったことであってもだ。

********

俺たちは宇宙人との激戦が行われている主戦宙域から外れた、太陽系外縁近くにやってきていた。それは現状あくまで試作機だ、模擬戦を繰り返して機体性能の大雑把な評価点をつけることが目的だ。基本的な動作試験は後方で済ませてきている。

俺たちは護衛を兼ねて模擬戦の相手役を務める小艦隊と一緒に演習宙域に到着した。近くには小惑星帯もあり、本来の目的である正面からの突破訓練、あるいは防衛訓練だけでなく伏撃訓練も行う予定になっている。

俺の仕事はいつもの通り、あいつの世話係兼護衛だ。それのテストパイロットには、前線から休養に戻ってくる連中を何人かあてがうことになっているらしいが、まだ到着していない。

「ひまだなー」

「機体のチェックが終わって暇なのはわかるが、ここも戦場だぞ。しゃきっとしろしゃきっと」

「そんなこと言われたって、僕は研究員だしー」

あいつは仮想モニターを部屋いっぱいに広げて、わけのわからない数式をいくつも宙に書いている。多次元宇宙理論のナニからしいことは俺にもわかるが、そこまでだ。

数式と遊ぶのにも飽きてきたらしい。部屋を埋め尽くしていた仮想モニターは一瞬で消え、あいつは俺の方を振り向くと言った。

「ねえ、あの子で少し演習場を見て回ろうよ、演習の準備だよ」

「それは散歩って言わないか?」

だが当面やることがないのも確かだ。俺たちは護衛隊に一言断って、下見名目で演習宙域に向かうことにした。

********

巨大な機体らしくこの機のコックピットは大きく作ってあり、予備のシートが2つもあった。俺たちはメインシートと予備シートにそれぞれ座った。そう言えば俺がここに座るのは初めてだ、出発準備に忙しくてその機会がなかった。

「さあ、しゅっぱーつ!」

「まて、その前に確認したいことがある」

「なに?」

俺は後方の予備シートに座ったあいつの方に顔をねじ曲げた。

「お前は男の好みってやつを少し勘違いしてる気がしてならない。まさか自爆ボタンなんて付けてないよな?」

あいつはくすっと笑って何も言わなかった。もしあからさまな赤いボタンを見つけても、決して押すまい。

********

そんな与太話をしつつ演習場をぶらぶらしていたら、護衛隊旗艦から通信が入った。なんでも小惑星帯から突然敵の小艦隊が出現したそうだ。悪い予感ってのは当たるものだ。伏撃訓練をやろうと思ってたら攻守逆にした実戦になったってことだ。敵の艦隊規模はこちらの3倍はある。

護衛隊は全力でこっちに走ってきていた。護衛隊指揮官が青い顔をして叫んでいる。

「博士、直ちにこちらと合流してください、合流後すぐに味方の勢力圏まで後退します」

あいつの専属護衛たる俺は、あいつに代わって答える。

「了解です! おい旗艦に接触するぞ、シートに着け」

「わかった、でも無理じゃないかな?」

「はあ?」

あいつがシートに着席してベルトを締めながら顔を向けたのと同じ方を見ると、護衛隊の最後尾を進んでいた旗艦が光の柱に貫かれる映像がモニターに映っていた。

********

幸い格闘機隊は緊急発艦しており無事だった。俺は格闘機隊の中隊長に連絡を取る。たまたま、中隊長は俺の同期で頭ひとつ抜けて昇進した大尉だった。ウデは信頼できる。

「こちら試作機、アンダーセンだ、どうするつもりだ?」

「どうするもなにも、逃げるしかないだろう!」

「待て、敵の方が脚が早い、このまま逃げても追いつかれてやられるだけだ、それにこっちに逃げても太陽系の外だ、味方の勢力圏には逃げられない」

「じゃあどうするんだ!」

俺には腹案があった。

「反転して突破するんだ、俺たちが先頭に立つ! 全般指揮を頼む!」

新型格闘機の開発に携わるって俺の推測は、最終的に的中したと言えるんじゃないか? あまり嬉しくはなかったけどな。

********

俺たちは護衛機を従えて敵艦隊に突進した。艦艇が大小13隻、格闘機がいっぱいだ。この機は速い、護衛機をはるか後ろに置き去りにして、あっという間に接敵した。

さすがに馬鹿正直に真ん中に突っ込みはしなかった。構造上この機の火力は腹側に集中している。敵艦隊の左側面をなぞるように飛び、腹を敵の方に向けて副腕の武装を撃ちまくった。敵は意表を突かれて反応が遅い。相対速度がすごいことになってるからこっちに追随できていない、だがあいつの作ったこの機には見えている。今のうちに照準を着けやすい艦艇を狙って撃沈していく。1回の交差で4、5隻は沈めたか。

敵の背後に出た、だがこのまま俺たちだけ逃げるわけにはいかない。味方の護衛隊が残っている。俺たちは敵艦隊の後ろに回り込み、背後から敵艦隊の中に突入した。

「あはははは、どこもかしこも敵だらけだよ! 撃てば当たるよ!」

後ろであいつが嬉しくてたまらないかのように叫んでやがる。さすがに動転してハイになってるな。そのセリフには覚えがあるぞ、大昔のお伽噺で読んだ。ただし、あんまり安全な場面じゃなかった覚えもあるけどな!

「墜としても墜としてもきりがないぜ!」

さすがに小回りの利く敵格闘機はこっちの動きに合わせてくる。装甲はこちらが上だ、背中側には小型艦の装甲が重ね張りしてあるんだからな。だが腹側は装甲の薄い多数の副腕が武装を握ってる分弱点といえば弱点だ、敵の格闘機を片端から落としちゃいるが、撃ち漏らした機にやられて今も一本の副腕が吹き飛んだ。

「くそ、しびれる状況だぜ」

不意に視界が回転した。この機にはオートで機体を回転させるオプションがあり、脅威度の高い方に勝手に背中側を向けてくれる。機体が振動した。さっき目の端にちらっと見えたのは敵艦の艦砲の発射光だったか。背中に食らったが危機一髪で装甲が弾いてくれたってわけだ。なかなかうまくできている。しかしいつまで持つのやら。

これもまた大昔のお伽噺に出てくるんだが、常人より異常に危険察知能力があるニューなんたらって人種がいてな。そいつらは瞬時に何機もの敵を察知して、また同時にたくさんの子機を操作して次から次へ射撃して敵を撃ち落とすんだ。こういう風に?

いや、いくらAIの支援を受けながらと言ったって、勝手に向きを変える機体に乗って、同時に37かける2の腕を操作して武装を扱いながら1個艦隊の中を駆け抜けるのは、さすがのニューなんたらだって…

「いろいろと無理すぎだろおああああああ!!!!」

敵が爆発する色とりどりの花火の中、俺はやけくそになって叫んだ。

********

「やった、完全に突破したよ! もう安心だよ!」

俺たちは敵艦隊の中で撃ちまくりながら後ろから前に突っ切り、すぐ近くまできていた護衛隊と合流してまた反転、敵艦隊に再突入して、今度は前から後ろに走り抜けた。いい加減弾切れしかかっていた副腕の武装をパージして、護衛隊を副腕に掴まらせてから脇目も振らず走った。弾薬を豊富に抱えている護衛隊は、今度は自分たちの出番だと派手にやってくれた。最後におまけとばかりに、敵艦の1番でかいやつに艦砲を転用した主砲もぶっ放してやって、敵艦隊はついに壊滅した。

俺たちは戦闘力を失い撤退していく敵の残存兵力をはるか後方に引き離していた。周囲に別の敵の反応もない。護衛隊も、この機にしがみついて逃げてきた連中はなんとか生きているようだ。エネルギーも危険なぐらい残り少ないが、進行方向には人類連邦軍の哨戒基地があるはずだ。最後にエンジン全力で噴かして付いた速度のまま、慣性運動で基地の近傍まで滑っていくのだ。減速するだけの推進剤が残ってるか怪しいが、なに、掴まってる連中のエンジンで逆噴射してもらうとか、やりようはあるだろう。計算はAIにやらせりゃいい。

もっと後方にはてんでバラバラに逃げて生き残った護衛隊の艦艇が3隻いるはずだが、この様子なら無事にこっちに戻ってこれるだろう。やっとひと息つけるってもんだ。

「ああ、死ぬかと思った…」

あいつはシートベルトを外すと、ケロッとした顔で俺の方にふわふわとやってきた。

「アダム、お疲れさま。すごかったよ!」

「そいつはどうもありがとう」

あいつは不意に真面目な顔になった。

「それで、この子をどう思う?」

「すごく…大きいです。じゃない、すごくいい。汎用性がないこと、欠点はそれだけだ。逆に突破力、破砕力という点だけ見ればこの機は有効だ。とんでもなく有効だ。敵艦隊をぶち抜く破砕力が必要な局面なら、指揮官は格闘機1個大隊と交換してでもこの機の配備を要求するだろう。だが、そんな局面が都合よく目の前に出てくるだろうかってのは、ちょいと疑問だけどな」

それは確かだ。だが、そのことと、あいつが作り上げたこの機の性能がとんでもないことは関係ない。

「だけど、それが本部長のお題だったんだろう? 本部長は1機で1個大隊に相当する兵器を作れって要求を出した。お前は愚直なぐらいストレートにそれを達成した。この機をいつ、どこで使うかは現場指揮官が考えることで、お前が考えることじゃない。お前は自分がやるべき仕事をきちんと完成させたんだ。お前の仕事のおかげで俺たちの命も、護衛隊のみんなも助かった。お前はよくやったと思うぞ。」

「ありがとう、褒めてくれて嬉しいよ」

くそ、あいつの笑顔もとんでもない破壊力だぜ。

********

「ところでお前、この機になんて名付けるつもりだったんだ?」

「試作単騎艦隊攻略用重宇宙格闘機、XHB-501なんてどうかな?」

そんな感じのネーミング、ニューなんたらが出てくるお伽噺シリーズのさらにまたマイナーなエピソードや、大昔の戦史授業で読んだ気がする。なんであいつも知ってるんだ? あいつの母親はやさしい、どこにでもいる主婦のおばちゃんで、父親はまた高名な理論物理学者だった。そんな話を読ませたことがあるなんて思えないが。

********

ひとつだけ、俺の頭の片隅に引っかかってたことがあった。

「そうだ、ひとつだけ難点がある」

「なんだい?」

「この機は操縦がむちゃくちゃ難しい。やってて鼻血が出るかと思った。それこそニューなんたらでもないと、普通に扱うのは無理じゃないか? 俺のさっきのは、火事場の馬鹿力に過ぎん」

あいつはくすっと笑いやがった。

「ねえアダム、僕はこの子をパイロット3人で操作する前提で作ったんだよ。この子が1人で操縦できるなんて考えもしなかった」

「はあ?」

そういえば、このコックピットにはシートが3つあるな。するとあれか、これは3人で操縦することで100%のポテンシャルを発揮するのか。それじゃさっき死ぬかと思ったのは、本来は3人でやる操作を俺1人でやったからで、この機の本当の能力はあんなものじゃなかったことか? とんでもないな、単騎艦隊攻略用ってのはあながち伊達じゃない。

あいつは俺に抱き着くと、上目遣いの目をキラキラさせて言った。

「やっぱり君って天才だよ、アダム・アンダーセン! 僕の彼氏」

何をいってやがるんだか。

「天才はお前だよ、クララ・キャンベル」

「ドキドキして汗かいちゃった。帰ったらお風呂一緒に入ろうね」

「それにはまず友軍の基地を探さないとな」
お読みいただきありがとうございました。

今回のテーマは要求仕様と成果物です。ご存じの方は木とブランコの絵を思い出してください。要求元が本当に必要としているものを理解するのは大切です。

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