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異世界の腹ペコ姉妹を拾いました。  作者: スカイダイビングしたら、地上300メートル付近で、パラシュートを付け忘れた事に気付いたなう。
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『ちくわでごり押し魔神』と『疾風怒濤☆歯茎アタック』


「あとは、髪を乾かして……そうか。当然ドライヤーも知らないわけだ」


「ドライヤー?」


「こっちの世界には魔法がない。だから文明の力で不便さに抗っている。これはドライヤーといって髪を乾かす道具だ」



ドライヤーのスイッチを入れると、送風口から温風が送られてくる。それを見たエプニャンデとクロアーノトは驚き、目を輝かせていた。



「どういう仕組みなのかしら……? 何故、風が……。しかも温かいわ‼︎」


「不思議ですね……」


「髪から少し離して使うんだぞ。火傷するからな。エプとクロとで互いに乾かしてやれ」



クロアーノトがエプニャンデの髪を乾かす。サラサラと舞い遊ぶ髪と、シャンプーの香りが部屋中に広がる。

エプニャンデは気持ちよさそうに口を開き、ぽけーっとしていた。

こうして見るとこの二人はただ、仲の良い姉妹にしか見えない。異世界から来たとは夢にも思わないだろう。

少しでも彼女達がここでの暮らしに慣れるように、俺も頑張らなくてはいけない。



「ねぇ! 光! この四角いのは何〜⁉︎」



エプニャンデが液晶テレビを指差し、ドライヤーの稼動音にも負けないくらいの声量で俺に尋ねた。

百聞は一見にしかず、という事で、俺はリモコンを手に取るとテレビのスイッチを入れる。

液晶画面に光が灯り、毎年繰り返し放送する、見た事があるようなアクション映画が映し出された。

それを見たエプニャンデとクロアーノトはというと、予想通り、驚愕の沙汰である。



「すごい! 何これ! 何これ‼︎」


「不思議ですねー! どうなっているのでしょうか?」



お決まりの定型文のように「人が中に入っているわ⁉︎」などと言わなかったのは少し残念だったが、それでも興味を示し、ぷにぷにと液晶画面を指でなぞる。

クロアーノトもドライヤーをかける事などすっかり忘れ、液晶テレビをかじりつくように見ていた。



「あっ、建物が爆発しちゃいましたね。炎属性魔法の大爆炎イクスプロージョンでしょうか?」



異世界ジョークだろうか?

クロアーノトはアクション映画の、建物が爆発し、主人公の男性が窓を割って脱出を試みるシーンを見ていた。

彼女に「それはCGといって、この爆発は本物じゃない」なんて伝えたかったが『CG』を説明しても、理解されずに終わるのが予想出来たため、口を閉じて傍観にまわる。



「エプ、クロの髪の毛も乾かしてやれ」


「わかったわ」



クロアーノトの髪を丁寧に乾かすエプニャンデ。エプニャンデもクロアーノトも髪の毛は肩までの長さで、然程時間もかからずに乾かせる。

互いの髪を乾かすのに、それほどの時間はかからなかった。



「それじゃあ、歯を磨いて寝るかね……」



口に出して気付く。歯ブラシが無い。いや、俺の分はある。だが、来客用の歯ブラシは流石に用意していなかった。

どうする。俺の歯ブラシをエプニャンデとクロアーノトに使ってもらってもいい。名刺交換のように唾液でも交換しようではないか。

いや、そんな事を言えば十中八九、警察のご厄介になるか、その場で首をはねられる……。

だからここは安全策をとる。


時刻は午後10時半。俺のアパート付近にあるドラッグストアは深夜0時まで営業しているので、買いに行く事を決意する。

しかし、この二人に留守番を任せることは危険だ。何をするかわからない。

となれば連れて行くしかないだろう。エプニャンデとクロアーノトをドラッグストアへと……。


……そうなると問題が一つある。


この甲冑姿の少女と、魔法使い姿の少女と行動をともにするのは少々厳しいものがある。

何が厳しいって、少女二人にコスプレさせて、街を練り歩く、白鷺 光 26歳が社会的に抹殺されるからだ。

俺の身を守るためには、彼女達に、俺の服を着てもらうしかないだろう。


幸いにも黒のロングパンツは二枚ある。丈はピンで止めれば何とかなる。問題は上だが…………。


『ちくわでごり押し魔神』『疾風怒濤☆歯茎アタック』という謎の文字が入ったTシャツが二枚ある。痛いTシャツ、略称『痛T』というやつだ。

言葉は通じても、文字が読めないならば問題は無いはず……。

完全に部屋着用のTシャツだが致し方あるまい。



「就寝前の儀式に使う道具を買いに行く。エプとクロにもついて来てほしい。 ……ただ、この世界でその格好は少し目立つので、これを着てくれ」



エプニャンデとクロアーノトにロングパンツと痛Tシャツを渡す。

小さく頷き、彼女達は衣服を受け取ると、脱衣所で着替えを済ませた。



「光、この上着の文字は、この世界の文字よね? なんて書いてあるのかしら?」



『ちくわでごり押し魔神』と書かれた痛Tを着るエプニャンデが俺に問う。



「それは闘いの神、貫き通す者って意味だな」


「そうなの……? なんか照れちゃうわね……」



エプニャンデが視線を落として、モジモジしながら恥ずかしがっている。

俺は嘘などついていない。繰り返す。俺は嘘などついていないのだ。

神という存在がちくわでごり押したかもしれない。確かめる事が出来ないなら、嘘であると立証出来ないなら、嘘は総じて裏返り、嘘の裏とは真実と言えよう。



「光さん、私の方は、どういう意味なのですか?」



『疾風怒濤☆歯茎アタック』という文字の意味を、クロアーノトも知りたがる。

正直、これは購入者の俺も意味がわからない。



「それは、意表を突く攻撃、猛攻を意味する。クロの魔法攻撃にぴったりだな」


「おぉぉぉ……。なんかかっこいいですね! 私にぴったりな気がします!」



とても良い笑顔で、Tシャツの文字を見て喜ぶクロアーノト。『疾風怒濤☆歯茎アタック』の意味を知ったら、彼女は怒りそうだ。


喜ぶ彼女達を強引に説得し、車に乗り込むと、ゆっくりと発進した。

俺の住む街は、都会でもなければ、田舎と呼ばれるほどでもない。近くには飲食店やコンビニエンスストアなどもあり、生活する上での不便や不満は無い。

強いて言うなら、街灯が少なく、夜になると暗闇が広がり、少し不気味というところか。


しばらく車を走らせると、闇の中に、ひと際光を放つドラッグストアが現れた。虫達は殺虫灯に群がり感電音が周囲を切り裂く。



「着いたぞ」


「ここは……?」


「みんな大好きドラッグストア様だ。この世界の薬屋だな」


「とても綺麗ね……! 大きくて、色々なものがあるわ‼︎」


今やドラッグストアは薬を売るだけではなく、お菓子や酒類、冷凍食品まで取り揃えられている。このドラッグストアにいたっては、野菜や精肉まで商品棚に置いてあるのだ。



「これを買いに来たんだ」


「それは何ですか……?」


「これは歯ブラシと言って、歯を磨くための物だ。そっちの世界では歯を磨かなかったか?」


「私達の世界では『ユドの木の枝』を噛むわ。ユドの木には、殺菌作用があるのよ」



世界が変われば、文化も変わる。歯磨き一つとってもここまで違うのだ。

そういった発見があるのはとても面白い。


歯ブラシを二本手に取ると、そのままレジへと進む。ふと冷凍食品のコーナーに立ち寄ると、氷菓が四割引になっている。

エプニャンデとクロアーノト用に、バニラアイスを二つ手に取ると、歯ブラシと合わせて会計を済ませた。


レジのお姉さんが、エプニャンデとクロアーノトのTシャツを見て、クスッと噴き出していたのは言うまでもない。


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