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異世界の腹ペコ姉妹を拾いました。  作者: スカイダイビングしたら、地上300メートル付近で、パラシュートを付け忘れた事に気付いたなう。
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魔法の存在。



「マジか……。米4合炊いといたのに……よく食べるな……」


「光の作った牛丼が本当に美味しくてね。一口食べたら止まらなくなってしまったのよ……」


「本当に美味しかったですー!この国には、こんなに美味しい料理があるんですね……」



牛丼を平らげ、満足感にどっぷり浸かるエプニャンデとクロアーノト。今なら彼女達に聞いてもいいだろう。



「エプ、クロ。その格好は誰のコスプレなんだ?それとも自分達で考えたキャラクターなのか?」


「…………?」


「…………?」



目をパチクリさせながら俺の顔を見るエプニャンデとクロアーノト。

やはりコスプレイヤーに元ネタとか聞くのは禁句なのだろうか? もしそうなら、彼女達には悪いことをしてしまった。

すぐさま謝罪を述べるために口を開こうとしたが、それよりも先に彼女達が口を開いた。



「クロ、コスプレとかキャラクターというのは何?」


「わ、わかりません……。この国の言葉ですかね……?」



そうか。コスプレとか、キャラクターという言葉もわからないという設定なのか。しかし、こうも話が進まないとはな……。

よく作り込まれた衣装だったので、元ネタを知りたかったのだが、今度オタク友達に依頼をかけるしかないだろう。


兎にも角にも食後の一杯、という事で、彼女達にアイスティーでも淹れてあげようと立ち上がる。グラスを二つ取り出し、冷凍庫を開けた時に、ある重大な事に気が付いた。

氷がない。作り忘れていた。

まあ、氷が無くても、紅茶自体は冷蔵庫で冷やされていたわけだし、問題は無いだろう。

俺はたっぷりとグラスに紅茶を注ぐと、エプニャンデとクロアーノトの元へと持っていった。



「悪いな。氷が無くて、少しぬるいかもしれないが、食後のアイスティーだ」


「……氷が欲しいのか?」


「あ、ああ。氷を切らしちゃってな。あれば冷たくなって、もっとよかったんだが……」


「……光さん。氷でしたら出せますよ」


「…………え?」


「光、まあ見てなさい。これでもクロはエルトネイト魔術学校を首席で卒業した天才なのよ」



何だろう。氷の入っていないアイスティーを出してしまっただけなのだが、よくわからない展開へと発展してしまった。

エプニャンデに言われた通り、クロアーノトを見ることにするが、何をするのだろうか? あまり痛々しい事をされると噴き出してしまうからやめて欲しい。



「ーー氷の精霊よ。凍てつく氷柱の槍を、かの者に突き立てん。その名はアイススパイク!」


「ブフォッ……!」



毎回毎回、クロアーノトには不意打ちをくらわせられるが、今回もまさにそれだった。

氷の精霊呼んじゃいますかー。氷の精霊呼んじゃうんですかー。『かの者』って誰ですか。堪えきれずに噴き出してしまったではないか。

今時、アイススパイクって!アイススパイクって!


ーーごとっ……。


フローリングの床に、何かが当たり、鈍い音が部屋に響く。

それは冷んやりと冷気を放つ。

水の純度も高いのか、気泡などが一切見えない氷の塊だった。

目の前に出現した氷に対して、俺の思考は一切の活動を止め、しばらく呆然としていた。


コスプレイヤーを牛丼屋で拾った。

コスプレイヤーに飯を作った。

コスプレイヤーがなんか唱えて氷出した。←イマココ


まさにそんな感じである。



「この氷……何?」


「……何って初級の氷属性魔法じゃない」


「アイススパイクです。魔法をあまり知らないという事は、光さんは近接職ですね?」



理解が追いつかない……。魔法だって? しかし、こんなに巨大な氷柱を出現させたのだ。これは本当に魔法なのかもしれない。

そして、近接職とは何だろうか。騎士とか戦士だろうか? 近接職どころか工場勤務で、業務内容は、家具作ってますとか正直に言うべきだろうか。



「あのさクロ、魔法って、他にも何かあるのか?」


「ありますよ。簡単なものでよければーー」



クロアーノトは瞳を閉じて集中する。ステッキを俺に向けると何やら唱え出した。



「ーー風の精霊よ。我らを捕らえし重力の枷を解き放て、その名は落下衝撃解除フロート!」


「……うあ⁉︎」



クロアーノトが詠唱を終えると、俺の身体はふわふわと宙に浮いた。

いや、宙に浮いたというよりは、磁石のS極とS極、N極とN極、同極同士が反発しあうように床に反発されているようだ。

いざ自分の身体で体感すると、悔しいが信じざるを得ない。これは魔法と呼ばれるものであると。

だとすれば彼女達はこの世界の住人ではない。地球上、何処を探しても魔法など使っている人は見ないし、文献を見る限り、それは、おとぎ話や、空想上の存在として捉えられているからだ。



「これは落下衝撃解除と言って、高い所から飛び降りても傷を負わず、無傷になります」


「わかった。ありがとうクロ……。二人に聞きたいんだが、どうやってこの国に来たんだ?」



エプニャンデとクロアーノトは困ったような表情を浮かべ、少しだけ気恥ずかしそうに言葉を作った。



「魔王ウルスダキアに挑んだのよ……」


「返り討ちにあいましたけどね……」



二人は俺に対して「わかるだろ? 言わせんなよ、恥ずかしい」みたいな目で見ている。

いや、誰だ。魔王ウルスダキアさんって……。知らないし、魔王とか本当にいるのか。


気は進まないが、ここは彼女達のためにもきちんと言ってあげるべきだろう……。



「エプ、クロ。一つ言っておく……気を落とさないでほしいんだが……」


「何かしら? 私達は前向きさが取り柄なの。ちょっとの事じゃ落ち込まないわよ」


「お腹もいっぱいですし、今なら何を聞いても大丈夫な自信があります!」


「…………じゃあ、言うぞ」



フフンと鼻息を荒げ、ドヤ顔で意気込むエプニャンデとクロアーノト。この分ならば何も心配はいらないのかもしれない。



「…………この世界は、二人のいた世界じゃない」



沈黙。そして暫くの静寂が部屋を包み込む。

よく見ると彼女達はドヤ顔のままダラダラと顔から汗を噴き出して、硬直していた。



「…………え?」


「…………え?」



前向きさが取り柄で、ちょっとやそっとでは落ち込まない姉妹が、やっとの思いで声を絞り出す。

彼女達の瞳には薄っすら涙が浮かべられていた。




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