姉妹達に洋服を。
洋服屋、洋服屋、一つ飛ばして洋服屋。
ファッション専門階層には、所狭しと店々が連なる。
20%オフはもちろん30%オフ、夏物クリアランスセールという、なんとも胸踊る響きで賑わっていた。
テナントには、少女向けの可愛らしい衣服から、大人の女性向け、シックでエレガンスな衣服まで、幅広く取り揃えられている。
「エプ、クロ。この店で好きな服を買ってくれ」
「この世界の洋服……」
「騎士である私には可愛いすぎるわ……」
やって来たのは、今や大手のブランド会社、安さを重視したコンセプトで、世界進出も果たしている、ファッション業界でも名の知れたテナントである。
一着千円〜三千円で購入できるお手軽さゆえ、若年層から高齢層まで、世代を問わず親しまれている。
自由に服を選んでよいとエプニャンデとクロアーノトには告げたが、この世界のファッション事情にはあまり詳しくないため、なかなか苦戦しているようだ。
そして正直なところ、俺自身も女性服には詳しくない。
とりあえずフリルのヒラヒラを付けておけばいいんじゃないか。その程度のレベルと認識である。
「エプ、クロ。どうだ? 決められるか?」
「何を選んだらいいのかわからないわ……」
「そうですね……こんなにたくさんの種類があると……」
「まあ、落ち着け。我に秘策あり、だ」
「……?」
クエスチョンマークを頭上に浮かべて、目を丸くする姉妹。
そう、こんな時のために俺には秘策がある。
『店員召喚』によって、予算さえ伝えれば、コーディネートを選んでくれる店員を召喚するのだ。
目には目を、ファッションにはその道のプロを。という事である。
「店員さん、少し、いいですか? この二人に上から下まで、下着まで。全てをコーディネートしてもらいたいんです。予算は3万円ほどで。お釣りは彼女達に渡してください。」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
お金を受け取った店員は了承の意を伝えると、エプニャンデとクロアーノトの背格好、骨格を見定め、衣服の選定に取り掛かった。
「エプ、クロ。俺は外のベンチに座って待ってるから。あの店員さんの指示に従ってくれ」
「わかったわ。あの人の指示に従うのね?」
「ドキドキしますね。エプ」
彼女達の服選びを店員に任し、テナント外にあるベンチへと腰掛けた。
休日という事もあり、ショッピングモール内には子供を連れた親子や、家族で来ている人達も多数見かける。
楽しそうに母親の手を握る子供や、父親に肩車をしてもらい、嬉々とした表情をする子供。まるで、目の前の光景に『幸せ』という言葉が凝縮されているかのように思える。
「光、どうかしら?」
「光さん、着替えて来ました」
目の前に現れたのは、店員に服を見繕ってもらい、その場で着替え、会計を済ませて来たエプニャンデとクロアーノトだった。
エプニャンデは黒いワンピースに夏物のサンダル、白い肌を露出していた。
騎士という事もあり、腕や足には切り傷や、すり傷が存在している。その細身な身体で今日までモンスターと戦いながら生き抜いてきたのだろう。
着慣れぬ格好なのか、少しだけ頬を紅潮させて気恥ずかしそうにしていた。
白いワンピースに身を包んだのはクロアーノト。
エプニャンデとは違い、後衛職という事もあり、身体のラインは極めて細い。
しかしその細さが、白いワンピースをより強調し、華奢で儚げな妖精を思わせる。
「驚いた。どこからどう見てもただの美人姉妹じゃないか」
「……私は少し、恥ずかしいわ」
「ありがとうございます。光さん、洋服のお釣りです」
クロアーノトから洋服のお釣りを受け取ると、確認する。
お釣りは半分も使われずに残っていた。女性の洋服の値段は思ったよりも高くないようである。
違うテナントに移動すると、今度は安いTシャツとパンツをそれぞれ二つ買い、彼女達の部屋着用とした。
色々な物に目移りの絶えないエプニャンデとクロアーノトだったが、目的を果たす事が出来たので帰路につくため車へと戻る。
「光、今日はいろいろありがとう」
「光さん、ありがとうございました」
「ああ、あまり気にするな。思ったよりも安くあがったからな。今日は奮発して外食だ。アパートの近くにある店のラーメンにする」
「……ラーメン?」
「ああ、人によって好みはあるが、好物としているやつも多いはずだ。この国で独自の進化を遂げた、いや、進化し続ける料理だな」
「また美味しいものが食べられるのね! 楽しみにしているわ」
「とっても楽しみです!」
日が暮れて着た街を眺め、今夜の夕食の予定を立てる。茜色が街に降り注ぎ、少し哀愁のようなものを感じた。
俺達は車へと戻り、エンジンをかける。
「…………車酔いして、またもどすなよ……」
「善処します……」
「頑張ってみるわ……」
彼女達の乗り物耐性はまだつかないようである。
ゆっくりと発進すると、なるべく酔わせないように、落ち着いた運転を心がけた。




