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異世界の腹ペコ姉妹を拾いました。  作者: スカイダイビングしたら、地上300メートル付近で、パラシュートを付け忘れた事に気付いたなう。
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たこ焼き。



ショッピングモール入り口のドアが開く。華々しい店々のレイアウトと、どこからともなく聞こえてくる大衆向けの軽快なサウンド。商品の値引きを知らせるための、女性店員が張り上げた声や、洋菓子販売テナントからの喉が焼けてしまいそうな甘ったるい匂いも漂ってくる。



「建物の中に、また建物があるわ⁉︎ どういう事なの⁉︎」


「ショッピングモールってのは、往々にしてそういうもんだ」


「子供達が宙に浮く何かを引き連れてますね。従者でしょうか……しもべ……ペット?」



宙に浮く何か。そして従者。しもべ、ペット。

それらが意味するものは、眼前に広がる光景を見ればすぐに理解できた。

子供達が手にしている風船である。

赤、黄、青、緑、白。様々な色をあちこちで見かける。



「クロ、あれは従者でもなければ、しもべでもペットでもない。そもそも生物ですらないぞ、子供達のおもちゃみたいなものだ」


「そうなんですね。すいません草原クラゲに似ていたものですから……」


「あー! 言われてみれば似てるわね!」



風船は草原クラゲに似ているのか。そうか、そうか。 …………草原クラゲがすんげぇ気になる。



「光さん、あれは何ですか?」



クロアーノトはその細い指先で、飲食テナントの『たこ焼き屋』を指差した。


たこ焼き。小麦粉、山芋粉などを水に溶き、干しえび、紅しょうが、ネギも加え、細かく切ったたこの小片を入れる。

それを鉄板の型に流し込んで焼き、お好みでソース、マヨネーズ、鰹節、青海苔をかける料理だ。



「たこ焼き屋だな。この国のポピュラーな食べ物だ。他の国では嫌われていたりするけどな。食べるか?」


「食べるわ!」


「食べてみたいです!」



エプニャンデとクロアーノトは即答する。こと食べ物に関して、彼女達の反応は、驚くくらいの食いつきだ。


たこ焼きの注意点が一つあるとすれば、『ふわっふわのとろっとろ』なんて、店舗側が掲げているように、表面を破れば出てくる超高温の『とろっとろ』部分である。

知らずに一口で頬張れば、お気軽に口内灼熱体験ツアーへご案内。というわけだ。


そして当然、食い意地の張ったこの姉妹にも、それは例外ではない。



「いっただっきます! ……ふぐっ⁉︎」


「いただきます。 ……ーー⁉︎」



二人同時に超高温のたこ焼きを、思いっきり頬張った。そして、口の中で溢れ出す、とろっとろ。

ハフハフしても冷却が追いつかないたこ焼きもあるのだ。充分に注意すべきである。



「あっふ……あふ……‼︎ ほへあふぃ……‼︎」


「あふひへふ……あふひへふぅ…………‼︎」



すごい。何言ってるか全然わからない。ジタバタと暴れる様が面白い。



「はい、お水」



無料給水所から取ってきた水をエプニャンデとクロアーノトに手渡す。彼女達は、すぐさまそれを奪うと、急いで口元まで持って行った。



「はぁ……はぁ……」


「光さん、笑顔で見てませんでした……?」


「いやー? 見てないよぉー?」


「恐ろしく棒読みじゃないの……」


「まあまあ、美味しかっただろ? たこ焼き」



二人はあらためてたこ焼きを口に運ぶ。今度は少しずつ、垂れる銀髪を手で押さえながら。

それでもハフハフとする彼女達の息遣いがとても艶めかしい。



「美味しいです! ふわふわでとろりとしていますね!甘さのある黒いタレと白いタレが旨味とコクを引き立てていますね……」


「中に入っているシコシコした食感のものも、いいアクセントになっているわね! 旨味もすごいわ……。とっても美味しい!」


「光さんもどうぞ!」



クロアーノトがたこ焼きを一つ、俺の口元に近づける。よく考えてみれば、美少女からの『あーん』ではないか。

胸キュンイベントで好感度アップ的なやつだと確信する。



「あー…………ーーぐっ⁉︎」



熱い‼︎ 熱い‼︎ 熱い‼︎ 熱い‼︎ 熱い‼︎ 熱い‼︎


すっかり忘れていた。この店のたこ焼きが熱々仕様だという事を。



「熱い……」


「光、いい反応だったわよ! 目が飛び出そうになってたわ!」


「ふふふ。光さん、面白かったです!」


二人はクスクスと笑い、たこ焼きを頬張る俺を見ていた。こんな日常の一コマが、これからも増えていけばきっと楽しいのだろう。

エプニャンデとクロアーノトの笑顔を見ながらそんな事を考えていた。



「たこ焼きはどうだった?」


「すっごく美味しかったです! この国の食文化は素晴らしいですね」


「ええ、完璧に近い至高の料理だったわ……。材料は何なのかしら?」


「知りたいか?」



携帯電話を取り出し『蛸 画像』で、ネット検索をかける。

表示された画像を彼女達に見せると、目を丸くして画面を見ていた。



「これは……敵?」


「モンスターですよね……」



エプニャンデとクロアーノトは蛸を敵と認識したようである。

蛸の事を、怪物、悪魔と称す国もあるほどだ。不思議な事ではない。



「これは俺達が今食べたものだ。美味しかっただろう?」


「………………」


「………………本当に?」



彼女達の動きがぴたりと止まり、物凄い速さでたこ焼き屋を見る。よく見ると『たこ焼き』のロゴ文字の上部にデフォルメされた蛸の絵が存在していた。

しばらくの沈黙が俺達を包む。



「美味しかっただろ?」





「…………ええ、とっても」


「……美味しかった…………ですね……」



世の中には、知らない方がいい事もある。

エプニャンデとクロアーノトは、しばらくの間「たこ焼き……モンスター」などと呟いていた。


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