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異世界の腹ペコ姉妹を拾いました。  作者: スカイダイビングしたら、地上300メートル付近で、パラシュートを付け忘れた事に気付いたなう。
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乗り物酔い。


「さて、朝食も食べた事だし、本日の予定を発表する」


「何かしら?」


「何をするのですか?」


「服だ。まずは下着と服を買いに行く」



貯金をおろせば、エプニャンデとクロアーノトの洋服くらいは購入する事が出来る。

甲冑姿や魔法使い姿が目立つからといって、いつまでも痛T姿でいるわけにはいかない。ここは早急に彼女達の衣服を用意するべきだと判断したのだ。



「でも、私達お金がないわ……」


「金はいつか返してくれればそれでいい。この世界に慣れてきたら、働いて返してくれ」


「……光さん、何から何まで、本当にありがとうございます……」


「まぁ、困った時はお互い様だ。支度をしたら出発するか」



まだ慣れない歯を磨き、痛Tを着るとエプニャンデとクロアーノトは外に出ていった。周りの人達にはこの二人がどう見えているのだろうか。

異国から変なTシャツを着てオタク文化を学びに来た外人さん。普通ならばそんな印象しか受けないであろう。

車の施錠を解除し、彼女達を後部座席に座らせる。三回目の乗車ともなれば慣れたもので、おとなしく窓の外を眺めていた。



「この車という乗り物は凄いわね。こちらの世界の竜車より、ずっと静かで揺れないもの……」


「竜車は早いですけど、お尻が痛くなっちゃいますね。 ……あ、光さん、竜車というのは私達の世界で、馬車の上位互換にあたるものです」


「まあ、車も車で、欠点はあるさ。さあ、発車するぞ」



ギアをドライブに入れて、アクセルに足をかけた。夜とは違い、辺りは明るく、窓を走る景色は色を変えて移りゆく。

目的地は中規模のショッピングモールで、近くにはスーパー銭湯や飲食店などもある。平たく言えば商業地域だ。アパートから車で、三十分ほど走った所にある。



「凄いです! カラフルな建物がたくさんありますね!」


「この世界の文明は、私達のいた世界より、遥かに進んでいるのね……。驚かされてばかりだわ!」



エプニャンデとクロアーノトは、食い入るように窓の外を眺めている。山の上に見える鉄塔や、小規模なビルを眺めて「あれは何?」と、嬉しそうに尋ねる様子は、親しい友達と遊ぶ子供のようだ。

少し車で外出をしただけでも、彼女達は大はしゃぎで、色々なものに興味を示していた。しかし談笑も程なくして打ち切られる。目的のショッピングモールへ到着したのだ。彼女達が黙っていられる理由がない。



「これは……王城……? この世界の王城も巨大ね……」


「派手好きな王様がおられるのですね。この辺りを統治しているのでしょうか?」



俺は彼女達の言動に、一々笑いを堪えなければならない。本人達はいたって真面目に発言しているのだが、俺にはジョークを言っているようにしか聞こえない。今にも噴き出してしまいそうだ。

ナチュラルに異世界ジョークをはさんでくるから困る。



「王城じゃない。買い物をする場所だ」


「こんなに広くて大きい商店があるの⁉︎ この世界の事だから、最新鋭の武器や防具があるのね……。興味があるわ」


「私も新しいステッキを見てみたいです!」



それは、モンスターが出る前提の話ではないだろうか。武器防具などもちろんこの世界に存在しないし、「ここで装備していくかい?」的なやりとりも発生さない。



「武器防具の類は無い。ステッキも無い。あきらめたまえ」


「そうなのね……薬草とか強身薬かしら……?」


「木の実や山菜などをたくさん売ってるのかもしれませんよ!」



あくまでそちらの世界観推しは変わらない訳ですね? わかります。

薬草はわかるとして、強身薬とは何だろうか。気になるが、少し怖い気もする。

木の実も山菜も売っていない。いや、売ってるかもしれないが、ショッピングモールに木の実や山菜目当てで訪れる人は少ないはずだ。


併設された立体駐車場を車で駆け上る。

目的は最上階の屋上である。

『バカと煙は高いところが好き』というわけではない、エプニャンデとクロアーノトにこの街を見せてあげたかったのだ。

国鉄の駅を中心に、高層ビルやデザイナーズマンションがちらほらとそびえ立ち、商業施設が軒を連ねている。

この街を彼女達はどのように見るのであろうか。


最上階に到着し、車を停めて外へ出る。



「これが都会の街だ。どうだ? エプやクロの世界とは全然違うだろう?」


「…………はい、まったく。何もかもが違うのですね……」


「緑が少ないのね……」



てっきり、我を忘れてはしゃぎ、落下防止の金網を掴んでガシャガシャとするところまで予想していた。

しかし彼女達は、意外にも寂しそうな表情を浮かべると、遠くを見つめて佇むのだった。



「ただ、ちょっと……ぅ」


「気分が……ですね……」



故郷を思い、悲しんでいるのだろうか。

無理もない。

異世界に来て間もないのだ。自分達の世界に残してきた大切な人もいるのだろう。



「ぅぉぼぇっ……おぇぇ……けほっ……」


「おうぇろろろ…………おぇぇぇぇ……」


「ーーーー⁉︎」



エプニャンデとクロアーノトが目を離した瞬間に吐瀉物をコンクリートの地面に撒き散らした。



「どうした⁉︎ エプ、クロ! 大丈夫か⁉︎」


「……大丈夫です……吐いたらスッキリしました……。ですが……ホットケーキ……」


「けほっ……けほっ……。う……せっかくのホットケーキが……‼︎」



吐いてなお、胃液混じりで泥状のそれをホットケーキと呼ぶとは……。

エプニャンデとクロアーノトが吐いた理由、よく考えれば簡単な事だった。

単純に乗り物酔いだろう。



「また……空腹感が……」


「出すもの出したらお腹が減ったわね」



俺の心配をよそに、ケロリとグロッキー状態から復帰を遂げるエプニャンデとクロアーノト。



「何か食べさせてやるから……。いくぞ……」



食費のかかる異世界姉妹を拾ってしまったようである。

俺は二人を連れてショッピングモールへの連絡橋を歩き出した。


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