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九十二話 情報

 豪腕トルクの宿に到着すると、店の外観は変わっていないのに、雰囲気が以前と違っていた。


「美味しかったわー。並んで良かったわね」


「ええ、美味しかったわ。お昼から時間をズラして来たのに並んでたから驚いたけど、納得の味だったわ」


「そうよね。でも迷宮通りじゃなくて、もっと中心地にお店があれば良かったのにね。ここら辺は冒険者ばかりだからちょっと怖いもの」


「「そうよねー」」


 そう言ってキャピキャピと宿から出て行く女性達。豪腕トルクの宿は、そのちょっと怖い冒険者がメインターゲットなはずなんだけどね。……もしかして俺が渡したレシピが原因だったりするのか?


 いや、ナポリタン。ミートソース。ピザトーストだったよな。トマト料理でそこまで女性が集まるか? 甘い物じゃないんだぞ。シルフィ達やサラ達にも確かに好評ではあったが、どうなっているんだ? なんか違和感があるな。マーサさんに聞いてみるか。あと問題は部屋が取れるかどうかだな。


 このまま宿に入ると、並んでいる人達にキレられそうなので、先頭の女性に声を掛けて宿をとる為に中に入る事を伝えておく。こういう時に女性を敵にまわすと怖いからな。用心は必要だ。


「まだ満席だよ。もう少し待っとくれ」


 中に入るとご機嫌なマーサさんの声が聞こえた。奥の食堂を見ると確かに満席だ。マーサさんは元気に働いているが。カルク君は疲れからかまるでゾンビのようだ。溌溂はつらつとした少年だったのに、俺のせいだとしたら心が痛む。


「こんにちは。マーサさん。部屋を取りたいんですが、満室ですか?」


「おや、あんたたちかい。部屋は空いてるよちょっと待っとくれ」


 おお、これだけ人がいるのに部屋は空いているのか。マーサさんが料理を運んで戻って来た。


「見とくれよ。裕太だったね。あんたから貰ったレシピで大繁盛だいはんじょうさ。感謝してるよ」


「あはは、いえ、俺が食べたかっただけなので、気にしないでください。でもこんなに繁盛しているのに部屋が空いてるんですか?」


 本当に俺が渡したレシピが原因らしい。なかなか驚きの結果だ。


「それが辛い所なのさ。夜も沢山お客さんが来てくれるからね。のんびり酒を飲みたい冒険者達は宿を移っちまったよ。まあ、商人なんかが泊ってくれるようになったけど、部屋は空いてるよ」


 夜もお客さんが沢山来るんなら、のんびり酒を飲むのは気まずいよな。料理にきられたらこの宿がヤバいんじゃないのか? 似たような料理を他店も開発するだろうし、ちょっと心配になってきた。


「そうだったんですか。では二部屋を十日間お願いします」


 もうだいぶ慣れたから四人部屋で一部屋でも良い気がするけど、俺の場合は精霊がガッツリ見えるから別々の部屋の方が落ち着くだろう。


「あいよ。あんた達なら大サービスだ。二部屋で十日、十万エルトで良いよ」


 ん? 前回一泊一万二千エルトを一万エルトにして貰ったのに、二部屋で一万エルトって、値引きし過ぎだろ。


「いやいや。安くしすぎですよ。泊まり辛いので前回と同じ位でお願いします」


「何言ってんだい。あんたのレシピの御蔭で大儲けさ。本来ならタダで泊まりなって言いたいところだけど、それだとあんたもこまるだろ。これからずっとあんたは一部屋五千エルトさ。つべこべ言わずに泊っておいき」


 あっさりと押し切られた。取り敢えず十万エルトを支払い、部屋に案内してもらう。朝食後は結構時間があるそうなので、その時に宿が盛況な理由を教えて貰う事になった。


「よし、取り合えずベル達を召喚するから、サラ達もフクちゃん達を召喚すると良いよ」


「分かりました」「うん」「よぶ」


 サラ達がフクちゃん達を呼んでいる間に、俺もベル達を呼ぶ。相変わらず呼んだら直ぐにしがみ付いて来るベル達。なんかとても嬉しい。


 思う存分ベル達とたわむれ、まったりする。ソニアさんとの話ですさんだ心がいやされていくな。


「じゃあ、俺は雑貨屋に行ってくるから、サラ達はお留守番しといて。ベル達もサラ達と一緒に居て何かあったら守ってあげてね」


 宿の中で問題が起こるとは思わないけど、マリーさんとの話は、お金の話と冒険者ギルドの話になるからな。子供達にはなるべく見せたくない光景だ。元気に返事をしてくれるサラ達とベル達をおいて宿を出る。



 ***



 雑貨屋に入るとスッっとソニアさんが現れた。明らかに目を付けられているな。


「裕太様。いらっしゃいませ。ご案内致します」


「あっ、はい、お願いします」


 一礼したソニアさんに先導されて応接室に通され、ソニアさんがマリーさんを呼びに行った。


(シルフィ。マリーさんとソニアさんの会話で、変なたくらみがあったら教えてね)


「ええ。今のところ、制服をワンサイズ小さくした以外は問題無いと思うわ」


 ……マニアックな攻め方をしてくるな。ちょっとピチピチで体のラインが目立つ感じか。しかし、俺が色仕掛けをされるようになるとは、人生って分からないものだよな。遠い故郷を思って軽く現実逃避していると、マリーさんがソニアさんを連れて入って来た。


 うん、確かに、セクシーな感じになってる。シルフィに教えてもらってなかったら、ちょっとドギマギしちゃったかもな。


「裕太さん。お待たせして申し訳ありません」


 マリーさんがお詫びを言った後に、髪を軽くかきあげながら胸を張る。露骨な流し目つきだ。ワンサイズ小さめの服から胸がこぼれそうだな。


 ……なんだろう? マリーさんってスリーサイズネタも、この仕草しぐさも微妙に古いんだよな。残念と言うか何と言うか……とても露骨ろこつだ。こう、もう少しなんとかならなかったんだろうか?


「いえ、全然待っていませんから大丈夫です。こちらこそお食事をお誘いいただいたのに、予定がありまして申し訳ありません」


 食事を誘ったのはマリーさんの方だと上手く伝えられたか? ちょっと無理矢理かもしれないけど、効果はどうだ?


 ……マリーさんが、少し驚いたようにソニアさんをチラッと見る。ソニアさんはコテンと首を傾げてそのままスルー。図太い神経をしてらっしゃるのですね。


「い、いえ。お食事はまたの機会にお付き合い頂ければ幸いです」


 気を取り直したのかマリーさんが微笑みながら返事をしてきた。立ち直りが早いな。でも体のしなを作るのはやめて欲しい。


「機会がありましたらよろしくお願いします。それで、急かすようで申し訳ありませんが、冒険者ギルドがどうなっているのか教えて頂けませんか?」


「あら、素材の代金ではなく、冒険者ギルドの情報ですか?」


 キョトンとした表情でマリーさんが尋ねて来た。そう言えばそうだった。普通は代金の話だよな。冒険者ギルドの事ばっかり気にしていたから忘れてた。


「もちろんお金の事も気になるんですが、迷宮都市に着いたばかりですから、からまれる前に情報が欲しいんですよ」


「なるほど、そうでしたか。冒険者ギルドの情報ですね。確かにファイアードラゴンと五十六層以降の素材が流れた事で騒ぎになりましたが、裕太様の存在までは辿り着いていません」


「えっ? まだバレて無いんですか?」


 予定と違うんですが。冒険者ギルドって情弱じょうじゃくなのか?


「はい。苦労して辿り付いて欲しいとの事でしたので、裕太さんの事を知っているのはごくわずかです。それに裕太さんはこの店に素材を卸されました。父のポルリウス商会の素材部門から内密に商業ギルドに流したので、商業ギルドに探りを入れている冒険者ギルドや貴族や商会が、裕太さんに辿り着くのは時間が掛かると思います。何より精霊術師ですから、この店に辿り着いても、裕太さんに辿り着くかは……」


 少しあわれみの混じった表情でマリーさんが言う。……ここに素材を卸した事が迷彩になったのか。たしかに雑貨屋に迷宮素材を卸すのはある意味盲点なのかも。


 商業ギルドからポルリウス商会、雑貨屋の順番で辿らないと俺には到達しないようになっているのか。でもこの店に辿り着いても、精霊術師だから俺には……って、どこまで人気がないんだろうね精霊術師。


 しかし、だいたいの予想は付いていたんだが、やっぱり貴族や他の商会も興味を持っているのか。本来なら庇護ひごしてもらう予定だった、冒険者ギルドと揉めてるからな。まあ、あんまり気にしなくても良いか。


 問題は、予定がくずれた事だ。俺の予想では冒険者ギルドなら俺の事を突き止めていて、俺が冒険者ギルドに入るとハハーって出迎えられるって感じが理想だったんだけどな。


 最低でも俺の事をどう扱ったら良いのか分からない、みたいな感じでギルマスがくやしがる状況でも楽しめたんだけど……。


 うーん。自分でバラすか? ……いや、それは無いな。苦労して素材を卸した人物に辿り着いたら、正体は大嫌いな精霊術師。ギルマス大ショックの方が絶対にスッキリする。


 でもずっと辿り着いてくれなかったらどうしよう? ……気が付いて貰えるまでずっと冷遇されるのはさすがに嫌だよな。……期限を決めるか。ずっと気付いてもらえるのを待っているのも虚しいもんね。


「分かりました。お手数ですがしばらくはこのままでお願いします」


 少しの間はのんびりと冒険者ランクを上げていよう。鬱陶うっとうしい視線も無視すれば大丈夫だ。でも冒険者ギルドにはサラ達やベル達は出来るだけ連れて行かないようにしよう。子供達にわざわざ嫌な気分を味わわせる必要はないよね。


「特に手間が掛かる事もありませんので大丈夫です。それで裕太さんは今回も迷宮にもぐられますか? 前回卸して頂いた薬草各種を薬師ギルドが欲しがっていますので、採取された場合は卸して頂けると助かりますが」


 ふむ。薬草各種は前回卸したのが五分の一程度だから、同量ならあと四回卸せる。アサルトドラゴンやワイバーンもストックはあるし……大丈夫だな。でも今すぐ卸すのは駄目だよな。魔法の鞄の時間停止機能がモロバレだ。


「迷宮には入る予定ですから、素材を卸すのは問題無いと思います。採取出来たら持って来ますね」


「ありがとうございます」


 儲けを想像しているのか、マリーさんの笑顔が輝いている。古い感じの色仕掛けよりこの表情の方が魅力的だよね。あっ、輝いた笑顔が欲望にまみれた表情に変化した。貴重な薬草だって言ってたからな。量を確保出来るならかなり有利に商談を進められるんだろう。


「こちらこそ。情報ありがとうございます。次は代金をお願い出来ますか?」


 いよいよだな。十八億前後って言ってたし、いまいち実感が湧き辛いけど楽しみだ!

読んでくださってありがとうございます。

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