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九十一話 ソニア

 キッカがマメフクロウのマメちゃんと契約した二日後の早朝。今日は迷宮都市に出発する。迷宮都市がどんな状態になっているかちょっと楽しみだな。ベル達にはみにくい場面を見せないように注意だけはしておこう。


「じゃあ、行ってくるから、お留守番をよろしくね」


「分かったけど、お姉ちゃんもちゃんと呼んでね」


「分かってる。力を貸して欲しい時と、最低でも一日はディーネとドリーを迷宮都市に呼ぶよ。ノモスは本当に呼ばなくて良いのか?」


「うむ。儂はやる事があるからの。じゃから儂の力が必要な時以外は呼ばんでええぞ」


「分かった」


 大勢で迷宮都市をゾロゾロ移動してもしょうがないので、基本的に俺、シルフィ、ベル達、サラ達で行動する事にした。これでも結構な人数だけどね。


 ディーネとドリーは迷宮都市を散歩して、聖域に指定された場合に家に使う家具なども見てみたいと言っている。


 本当に聖域に指定されるかも分からないのに、先走り過ぎなんじゃなかろうか。結構楽しみにしているみたいだから、指定されなかったらダメージが大きそうだ。


「ゆーた。べるはすぐによんでー」「キュキュー」「ごえい」「クーー」


 ベル達がブンブンと手を振りながら言ってくる。迷宮都市が楽しみで仕方ないようだ。


「分かってるよ。この前みたいに宿を取ったら呼ぶから、良い子で待っててね」


「いいこでまってるー」「キュー」「まってる」「クー」


 ベル達が真剣な顔で頷いている。うーん、のんびり待っていてくれるだけで良いんだけど、まあ、やる気があるのは良い事だよね。


「お願いね」


 サラ、マルコ、キッカも、フクちゃんマメちゃんウリとお別れを済ませ準備が整っているので、シルフィにお願いして出発する。



***



「ようやくついた」


 前回迷宮都市に来た時におりた森に着地して、城門まで歩いてギルドカードを提示して入場した。


「裕太。これからどうするの?」


(まずは、豪腕トルクの宿に行くよ。いや、情報が欲しいから途中で雑貨屋に寄って、マリーさんの所に顔を出しておこうかな。たぶん俺がファイアードラゴンを卸した事も周囲にバレていると思うから、警戒を頼むね)


「分かったわ。裕太もサラ達もしっかり守るから、安心して良いわ」


(うん)


 シルフィが請け負ってくれたら安心だよね。サラ達をうながして歩き出す。前回来た時は買い物ばかりだったから、今回は色んな所を巡っているのも良いかもな。夜の街は冒険者ギルドの揉め事が終わらないと行き辛いのがとても残念だ。


「サラ、マルコ、キッカ、そんなにビクビクしないで良いよ。いくら俺が嫌われてるからって、そうそう襲われる訳じゃ無いんだから。それにシルフィもしっかりガードしてくれてるしね」


「お師匠様、違うんです。さっきスラムに居た時に、色々言って来た人がいたので、もしかしたら何かご迷惑を掛けてしまうかもしれません」


 そう言えばこの子達ってスラムでもちょっと浮いてたんだよな。そんな子達がスラムを脱出してたら、因縁いんねんをつけられる可能性があるかもな。でも、正直問題になるとも思えないんだけど。


「そんなの気にしなくても良いよ。何をされようがシルフィが守ってくれるよ」


 そもそも、サラ達だってフクちゃん達を召喚すれば、そこら辺の相手なんかに負けない。見えないんだからこの場で召喚しても問題は無いんだけど……フクちゃん達は街に慣れていない可能性もあるし、宿で落ち着いてからの方が良いか。


 一応、俺も周囲を警戒しながら歩いたが、特に何も起こらず雑貨屋に到着した。フラグじゃなかったのか?


 雑貨屋の中に入ると一人の女性店員さんが寄って来た。前にサラ達を案内してくれた人だな。


「いらっしゃいませ、裕太様。店長が首を長くしてお待ちしていました。奥にどうぞ、直ぐに呼んでまいりますね」


 いつの間にか店員さんに名前を憶えられて、様付けされてる。お得意様だからか? 卸した素材でよっぽど儲かったらしい。


「ちょっと待ってください。今着いたばかりで宿も取っていないんです。宿を取った後に面会して頂ける時間をお願い出来れば助かるんですが」


「さようでございますか。直ぐに確認してまいりますので、少々お待ち頂けますか?」


「はい。よろしくお願いします」


 そう頼むと店員さんが一礼して奥に素早く移動していった。かなりの速度で移動しているのに、傍目はためには歩いているようにしか見えない。凄い技術だな。店員に必要なスキルなのかは分からないが。


「サラ、マルコ、キッカ、ここが終わったら直ぐに宿に行くから少し待っててね」


「なあ、師匠。遠くに行かないから店の中を見ても良い?」


 ただ待っているのも退屈か。近くの商品を見て回るぐらい問題無いだろう。


「いいよ。サラとキッカも行っておいで」


 子供達を見送り、迷宮都市での行動をどうするか考えていると、シルフィが何とも言えぬ表情で話しかけてきた。


「ねえ、裕太。あの店員、今日の夜に会食をセッティングするつもりみたいよ。なんかお酒を飲ませてマリーお嬢様を生贄に差し出せば、この店は安泰あんたいだってつぶやいてたわ」


 あー……俺もどんな顔をしたら良いのか分からないな……あの店員、なんか動きが胡散臭うさんくさかったけど性格もヤバいのか? っていうかただの店員なんだよな? お嬢様を差し出して店が大きくなったらメリットがあるのか?


「あら、裕太が今夜、お食事をぜひってマリーを誘っている事になってるわ。金づるからの食事の誘い、断るのはもったいないってあの店員がマリーをきつけてるわね。どうやらあの店員、前々からあなたを籠絡ろうらくするようにマリーに言っていたみたいね」


 店員の分際ぶんざいで好き勝手やり過ぎなんじゃ……。えーっとこんな時はどうすれば良いんだ? 想定外過ぎて頭が回らない。


(シルフィ。なんかどうしたらいいのか分からないんだけど、どうすればいいのかな?)


「どうしたらってお付き合いする気が無いのなら、断れば良いんじゃない? 話がしたいのなら普通に食事をして普通に帰ってきてもいいわね」


 それもそうか。生贄に差し出されたとしても、受け取るいわれは無いんだよな。マリーさんって美人だけど、何かをこじらせてる感じだし。据え膳でも食う食わないは俺の自由だ。恥ぐらいいくらでもかくよ。


(それもそうだよね。食事は面倒な事になりそうだし、断って話す時間だけ作って貰うよ)


「あら、マリーもやる気になったわね。自分の美貌びぼうが怖いとか言いながら、裕太とのお付き合いで得られる利益の計算を始めたわ。笑顔が欲望にまみれてある意味素敵よ」


 清々(すがすが)しい程の利益優先だな。まったく意外では無いけど。そういえばあの店員は食事になったとしても、話の食い違いを如何するつもりなんだろう? 確実に俺とマリーさんで会話にズレが生じるよな? 


「裕太。店員が戻って来るわよ。マリーも来ようとしていたけど、店員に止められてるわね。普段の姿ではなくて、ドレスアップした姿を見せつけるべきだって言われてるわ」


(分かった。ありがとうシルフィ)


 しかし、店長であるはずのマリーさんを完全に操ってるな。何者なんだあの店員。


「お待たせいたしました。店長が是非とも今夜、裕太様とお食事をご一緒したいとの事ですが、ご都合は如何でしょうか?」


 ……ニコニコと笑顔で、微塵も違和感を感じさせずにウソをつくな。シルフィから話を聞いてなかったら、普通に騙されてるぞ。


「申し訳ありませんが、食事の方はちょっと予定がありまして。夕方に少しだけお話させて頂く時間を頂ければありがたいのですが」


「そうでしたか、時間は大丈夫ですので、裕太様のご都合の良い時間にいらっしゃってください」


 この人何なんだ? 断られても何の動揺もしてないぞ。マリーさんにはなんて言うつもりなんだろう? 


「ありがとうございます。あなたのお名前をおうかがいしても?」


「申し遅れました。私の事はソニアとお呼びください」


「分かりました。ソニアさん、よろしくお願いします。では後ほどお伺いさせて頂きますね」


 サラ達を呼び寄せて雑貨屋から外に出る。ソニアさんはわざわざ外まで付いて来て見送ってくれた。何となく素直に受け入れられない。


(シルフィ。ソニアさんがマリーさんにどんな話をするのか確認しておいてくれる?)


 盗み聞きだからあんまり良い事では無いんだろうけど、ソニアさんとマリーさんの話は確認しておかないと、変な事に巻き込まれそうだ。


「ええ、確認しておくわね」


 取り敢えずシルフィに頼んだし、あの二人の会話は分かるだろう。少し安心して豪腕トルクの宿に向かう。迷宮都市に到着早々なんだか疲れたな。テクテクと歩いていると、シルフィがマリーさんとソニアさんの話し合いが始まった事を教えてくれた。


「ソニアは簡単に言い訳を済ませたわね。裕太に急用が入ったって言っているわ。食事はまたの機会に、今日はお話だけって説明しているわね。まだあきらめてないみたいだから、たぶんまた食事に誘われるわよ」


 うーん、美人とのお食事は喜びなはずなんだけど、マリーさんが相手だと素直に楽しめそうに無い。このまま放置していたら怖いから、後でマリーさんと会ったらお食事を断った事をびておこう。


 そうすれば、話が違う事がばれてソニアさんの暴走も少しは減るはずだ。しかし、直ぐにバレる嘘を臆面おくめんもなくつけるソニアさんの精神力が怖い。   


(取り合えず、出来るだけ回避する方向で頑張ってみるよ)


 迂闊うかつに誘いに乗ったら、延々と迷宮で採取を続ける事になりかねない。マリーさんもソニアさんも少ししか話した事は無いが、食らい付いた獲物えものは骨までしゃぶりつくすタイプなのは確信出来る。


 マリーさんは儲けに貪欲だからこそ信用できるって思ったんだけど、毛色が違う貪欲さのソニアさんの登場は予想外だったな。


 つらつらと考え事をしながら、豪腕トルクの宿に到着した……あれ? なんか雰囲気が変わってるんだけど、何があった?

読んでくださってありがとうございます。

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