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八十四話 ドリーとの契約

 ドリーの要請で北側のブロックに土を入れて、レインに水をいてもらった。これでドリーとの契約準備は完了だな。


「ドリー、これからどうするの?」


「ちょっと待ってくださいね」


 そう言ってドリーが目を閉じると、ドリーの前に魔力がドンドン集まっていく……。


「ね、ねえ、シルフィ。尋常じゃない感じなんだけど、大丈夫なの?」


 サラ達も異常な状況に気が付いたのか固まっている。


「大丈夫よ。あれは森の精霊の能力の一つだから」


 精霊達がのんびりしているから大丈夫っぽいのは分かった、怖いけど。特にタマモは、ドリーがやっている事に興味津々で、尻尾全開で振り回している。たぶん凄い事が行われているんだろうな。


 ドンドン集まって来る魔力がまぶしいぐらいに光り輝き、そしてその光が緩やかにおさまるとドリーの両手の間に、赤ちゃんの握りこぶしぐらいの大きさの種が浮かんでいた。


「裕太さん。この種をこの場所の中心に植えてください」


「あ、はい」


 思わず差し出された種を受け取ってしまう。なんか流れが読めないが、この種って明らかに普通じゃ無いよね。どうなっちゃうんだ?


 植物の種なはずなのに、妙に迫力がある種を持って、北ブロックの中心に向かう。


「えーっと。ここで良いよね。ドリー、深さはどのぐらいなんだ?」


「そうですね。少し深めに……十五センチ程でお願いします」


 ドリーに言われた通りに種を植えて土を被せる。


「では裕太さんこちらに来てください。あっ、裕太さんサラちゃん達にも、離れているように伝えてくださいね」


 えっ、何? 森の大精霊との契約って危険なの? 取り合えず何かあったら大変なので、サラ達には離れているように伝えてドリーと向き合う。


「では始めましょうか」


 ニコリと微笑むドリー。


「う、うん」


 引きつった笑顔を返す俺。返事を確認したドリーは両手を前に出しシルフィやディーネがしたように、属性の力がこもった種を……種? 風玉や水玉みたいに玉じゃ無いの?


「私は森の大精霊ドリー。契約を望むのであれば、この種を心臓に押し当てなさい」


 ……風玉や水玉でもどうかと思ったけど、種は更にどうなんだろう? 心臓から植物が生えて来たりしない? ……いや契約者にそんな危険な事をするわけ無いよね。覚悟を決めて種を受け取り、心臓に押し当てる。


 おお、種がほどけて魔力になって俺に吸い込まれていく。種ごと俺に吸い込まれなくて、ちょっとホッとした。


「契約は成りました」


 ドリーが優しく微笑む。うん? 終わったの? 正直今までで一番地味でちょっと拍子抜けだな。いや、これ位が丁度良いんだ。俺が満足しているとドリーがニコリと微笑み、先程種を植えた場所を指差した。つられて顔を向けると……。


 ピョコンっと先程種を植えた場所から芽が出て……ミキミキ? ニョキニョキ? メキメキ? ゴゴゴゴゴっと表現しようのない音を立てて急成長しだした。


 えっ? なんかこの光景ト〇ロで見た事ある。呆然をしている間も木はドンドン成長して、木のみきもドンドン太くなりこちらにせまって来る。


「……えーっと。ドリー。この木は何なの?」


 見上げると首が痛い。何この木? 大き過ぎだよね。


「精霊樹です。この地を豊かにするのに力を貸してくれる、良い木なんですよ」


「……ああ、そうなんだ。それは凄いね」


 思わず平坦な声が出てしまうがしょうがないと思う。そもそも死の大地に、こんな凄そうな木を生やして良いものなのか?


 既にベル達が精霊樹の周りを飛び回って遊んでいる。ま、まあ、緑が増えるのは良い事だよね。うん。良い事だ。


「ええ。シルフィもディーネも演出を凝らしたみたいですから、私も頑張らないといけませんよね」


 ニコニコと微笑むドリー。……そうなんだ。精霊樹って演出なんだ。演出で精霊樹を生やすなよってツッコミは無粋なのか?


「う、うん。凄く驚いたよ。でも、ありがとうドリー」


「喜んで頂けて嬉しいです。この子がいれば周りの植生も豊かになります。素晴らしい場所にしましょうね」


「う、うん。頑張るよ」


 ドリー。上品で清楚なお嬢様系大精霊だと思っていたんだけど、やる事は大胆なんだな。


「お、お、お師匠様。あの木はいったい……」


 サラがアワアワしている。気持ちはとても良く分かる。


「精霊樹って木だそうだよ。ドリーと契約したら生やしてくれたんだ」


「精霊樹っておとぎ話の? 前にメイドに絵本で読んでもらった事が……」


 おとぎ話……精霊樹ってそんなレベルの木なんだ。見ただけで普通の木じゃないのは分かるから今更だけど、大精霊が頑張るとこうなる訳だ。半端じゃ無いな。


 それよりもメイドに絵本を読んで貰うって、やっぱりサラは良い所のお子さんだったんだな。そして聞き逃せないキーワードが。メイドさんかー、大きな家を作ればメイドさんが必要になるな。でも死の大地に来てくれるメイドさんがいるか? なんか望みが薄そうで悲しいな。


「師匠! あの木って登れるのか!」


 マルコが興奮して聞いて来た。うーん、子供は木登りが好きなんだろうけど、あの木を見て登ろうと思うマルコはどうなんだろう? キッカが後ろで泣きそうな顔して首を横に振ってるよ。


「ちょっと待って。ドリー。あの木って神聖な木なの? 登ったりしたらダメかな?」


「むやみに傷を付けなければ登っても問題無いですよ。枝も丈夫ですから、木の家ぐらいなら建てても問題ありません」


 ……ツリーハウスか。あそこまで大きいと上り下りが大変過ぎる。でもシルフィに頼めば簡単に行き来は出来るよね。作っちゃうか?


 お金が入ったら迷宮都市でちゃんとした家を二軒ぐらい建てて貰うのも良いかも。移動できるように地面と切り離して作って貰えば大丈夫だろう。マリーさんなら良い人を紹介してくれそうだし聞いてみるか。


 いや、沢山間伐した木があるし、自分で挑戦するのも有りかもしれない。小屋ぐらいなら開拓ツールがあれば作れる気もする。木の乾燥も早めにしておいた方が良いな。


「登っても良いって。シルフィに頼んで連れてってもらおうか。シルフィいいかな?」


「ええ、いいわよ」


 シルフィは軽く頷いてくれた。ディーネ、空を飛べるのはシルフィだけなんだし、軽々しく頼んでいる訳じゃ無いから、言ってる事が違うって目でこっちを見ないで欲しい。


「シルフィがいいって言ってるから行こうか」


 マルコは飛びあがって喜んでるが、キッカは裏切られたって表情をしている。


「キッカ。怖く無いよ。何回も空を飛んだだろ。木の上に連れて行ってくれるのはシルフィなんだから、絶対に安全だよ」


 ……今度は少し考えて、そう言えばって顔で頷いた。昨日、サラとマルコのレベル上げの時に一緒に居たから、だいぶ警戒心が薄れたみたいだ。表情が良く出るようになったな。


「サラも大丈夫?」


「精霊樹に登るんですか? ……はい、大丈夫です」


 なんか高い所が怖いというより、精霊樹に登って良いものかって悩みっぽいな。凄い木だってのは想像がつくけど、そこまでなのか。精霊樹が出て来る本や絵本も探してみるか。


「じゃあ、行ってみようか。シルフィ、お願いね」


「ええ、じゃあ行くわね」


 シルフィが俺とサラ達を風のまゆで包み、ふわりと浮き上がる。サラ達も何度か経験しているので騒がずに、じっとしている。


 スーッとエレベーターに乗るような感覚で上昇して、テッペン付近の枝に降ろしてもらう。


「師匠! 凄いな!」


 マルコが興奮して枝の上でチョロチョロと動き回る。落ちそうでハラハラするが、枝がかなりの太さなので、転ばない限り大丈夫だろう。


「マルコ。落ちないように気を付けろよ」


「わかった!」


 返事は満点だが行動が伴ってないな。シルフィにマルコの事をお願いしておく。シルフィと一緒にもっと高い所から景色をながめた事はあるが、また違った感覚だな。


 足元がしっかりしているし、葉っぱが風でこすれる音と緑の匂い。空を飛んでいる時は何処か現実感が無いが、木の上だと五感がフル稼働している感覚がある。


 ベル達ははしゃぎ回って枝をすり抜けながら飛び回り。サラとキッカは枝に座りながら景色を眺めている。


 しかし、精霊樹ってなんか落ち着くいい香りだ。そう言えばゲームでは世界樹だと葉っぱに特別な効果があったりするけど、精霊樹には何かあるのかな?


「ドリー。精霊樹の葉っぱって何か素材になったりする?」


「ええ、しますよ。樹液や葉は高ランクの回復薬の素材になりますし、お茶や蜜としても一級品です。でも果実が一番のお勧めですよ。とっても美味しいですし、重度の病すら癒します。死んでなければ大丈夫です!」 


「……そ、そうなんだ。凄いね精霊樹」


 これって爆弾なんじゃ? バレたら全ての国が攻めて来そうだ。演出でこんなもの生やしたら駄目だと思うな。死んでなければ大丈夫って、効き目が派手過ぎだろう。


「ね、ねえ、この木の存在ってバレたら危険だよね。これだけ大きいと目立つし、何か対策を考えないとダメかも」


「大丈夫じゃない? 誰もここまで来ないしバレないわよ。それにバレたとしても何とでもなるわ」


 シルフィがあっさりと言う。……そんなに単純な事なのか? まあ、誰も来なければ確かにバレないけど。


「そんなに人が来ないの?」


「来ないわね。ここが死の大地になってからかなりの時が経つわ。最初の頃は探索もされていたけど、その結果が厳しい環境である事と、何も無い事なのよ。よっぽどのモノ好き以外は、確認しようとすらしないんじゃないかしら。後は……ノモスが頑張っている事が実現すればさらに盤石ばんじゃくになるわね」


 ノモスがやる気になってたのって、聖域がどうのって奴だよね。それはそれで気になってるんだよね。


「聖域がどうのって奴だよね。それはどうなるの?」


「んー、それはノモスが目途が付いたら話すって言ってたからちょっと待ってあげて」


 シルフィが申し訳なさそうに言う。


「うーん、分かったよ」


 たぶん悪い事じゃ無いんだよな。前にノモスに聞いたら凄い事になるぞ、楽しみにしておけって言ってたし、サプライズ的な何かを狙ってる感じだったもんな。


 考えてもしょうがないなら精霊樹はバレないし。楽しい出来事が待っていると、ポジティブに考えよう。実際に精霊樹って、名前だけでも恩恵が凄そうだ。


 精神をポジティブ方向に持って行くと楽になった気がする。のんびり森林浴を楽しんで午後から頑張るか。精霊樹の御蔭で木陰が出来て泉の家も暮らしやすくなるよね。

読んでくださってありがとうございます。

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