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八十二話 訓練

 噴水を作りディーネとの契約が完了した。何故かディーネは俺と腕を組んでパートナーね! って言っている。やっぱり何かが違う気がする。


「ゆーた。おめでとー」「キューーー」「けいやくすごい」「クゥクゥ」


「みんなありがとう」


 ポスンと俺の胸に飛び込んで来たベルを撫でながら、祝ってくれるベル達にお礼を言う。特にレインは俺がディーネと契約したのが嬉しいのか、しきりに頬っぺたを擦り付けて、キュイキュイと騒いでいる。


 同じ水の精霊が増えたのが嬉しいのかな? 俺の立場だったら自分の職分に自分より優秀な人が来たら焦るんだけど、精霊と俺との性根しょうねの違いが……純粋な心は、醜い心を際立きわだたせるからこまるな。


 ベル達とたわむれながら水面を歩いて、ポカンとしているサラ達の所に向かう。いきなり始まったから驚いたんだろう。俺も急な展開で驚いたからな。


「師匠! 水の上をあるいてる! ねえ、師匠。おれにもできる?」


 はっと正気に戻ったマルコの第一声が水面歩行についてか。気持ちは良く分かる。憧れるよね。


「ディーネ。水面歩行って水の精霊なら誰でも出来るのか?」


 未だに腕を組んだまま「照れちゃうわー」っとか言いながら、ベル達の祝福を受けているディーネにたずねる。 


「うーん、そうね浮遊精霊クラスだと、長時間や荒れている水面だと難しいけど、出来ない事は無いわね」


 ディーネが教えてくれた内容をそのままマルコに伝える。


「やったー。水の上を歩けるのってカッコいいよな。ねえ、師匠。おれ次は水の精霊と契約したい」


「いずれね。今はしっかりとウリと仲良くなる事が大事だよ」

 

 いずれは色んな精霊と契約してもらうつもりだけど、今は基礎固めだ。なんでも基本が大事って言うもんね。俺はチートで色々すっ飛ばしちゃったけど、この子達はしっかりと基礎を固めて上達してもらいたい。シルフィ達のアドバイスを貰いながら教えれば、凄い精霊術師になれるはずだ。


「分かった! まずはウリとしっかり仲良くなる!」


 マルコ。興奮しているのかいつもより子供っぽくて微笑ましい。警戒心むき出しでピリピリしているより、毎日今みたいに話せるようになれば良いな。


「お師匠様。水がいろんな形になって、凄く綺麗でした」「きれいだった」


 サラもキッカもディーネの噴水ショーを見て興奮したのか、顔が赤らんでいる。子供達に評判が良いな。作れと言われた時は釈然しゃくぜんとしないものもあったが、ディーネのおかげなのかもしれない。


「ディーネ。サラたちが気に入っているみたいだから、もう少し何か見せてくれないか?」


 俺も契約に集中していたし、ショーのど真ん中に居たから全体を見ていない。


「ふふ。初仕事ね。お姉ちゃん張り切っちゃうわ」


 そう言えばそうだな。白々(しらじら)しい芝居をしなくても、ディーネに頼みごとが出来るようになったのは良い事だ。考え事をしていると、水のショーが始まった。


 噴水から水が噴き上がり、水が様々な動物に変わっていく。光の精霊と契約出来たら、夜にライトアップして噴水ショーとか凄く綺麗かもしれない。面倒に思ってたけど、噴水もなかなか良いものだ。後でディーネにブツクサ言っていた分、おびをしておこう。


 素直に全部白状すると面倒そうだから……お酒を出して、契約してくれたことに対して感謝を伝えて褒めまくろう。面倒に思ってたとか正直に告白しても、場が荒れるだけで良い事無いからな。


 サラ達は歓声をあげながら噴水ショーを見学している。ベル達はフクちゃんとウリを連れて、泉で飛び回っている。楽しそうだな。のんびり噴水ショーを見ていると、ドリーが話しかけてきた。


「裕太さん。ディーネとの契約も終わりましたから、続けて私とも契約しますか?」


 そう言えばドリーとの契約条件も達成してるんだよね。どうしようか。


「うーん。連続で大精霊との契約もなんか勿体もったいないから、明日でいい?」


「ふふ。分かりました。では明日にしましょう。それで、これは条件とかではなくお願いなのですが、明日裕太さんが掘り終わっている、北側のブロックに土を入れてくれませんか?」


「直ぐに出来るから構わないけど、どうして?」  


「内緒です。シルフィもディーネも、演出を付け加えているので、私も少し頑張ってみますね」


 少し悪戯っ子のような表情で微笑むドリー。清楚なご令嬢が小悪魔的な雰囲気に……素敵です。しかし、シルフィの演出は聞いてたけど、ディーネも演出を付け加えていたのか。噴水は演出の為に頼まれた気がする……気のせいだったら良いな。


「うーん、楽しみにしているけど、あんまり無理はしないでね」


 大精霊が頑張ったら何が起こるか分からない所がちょっと怖い。


「大丈夫ですよ。無理はしませんから、楽しみにしていてください」


 普通の表情に戻ってニコニコと上品に微笑んでいるドリー。大丈夫……だよね? 自分でも良く分からない不安にふたをして、ディーネの噴水ショーに視線を戻す。



 ***



「じゃあ今から夕食まで訓練をするよ。キッカはまだ精霊と契約していないけど、話だけはよく聞いていてね」


「はい」「師匠。いよいよ修行するんだな」「……」


 サラは真剣に返事を、マルコは噴水ショーの興奮からか少年らしく、キッカは無言でうなずいた。


「うん。でも修行って言う程厳しい物じゃ無いから心配しなくても良いよ。自分がやって欲しい事をちゃんと契約している精霊に伝える事が大事なんだからね。まずは仲立ちするから、フクちゃんとウリがどんな事が出来るのか、どんな合図と言葉でどう動くかをしっかりと取り決めよう」


 合図と言葉が決まれば、後は精霊がやってくれるんだから、精霊術師ってかなりチートだと思うんだけど、たぶんそれが一番難しいんだろうな。


 ちゃんと意思疎通が出来ていない精霊術師の指示で、勘違いや暴走が起こって評判がガタ落ち。精霊術師が嫌われて不人気職に……本当に虚しいな。


 フクちゃんとウリが使える魔法を、実演と共に説明して様々な合図を取り決める。複雑にすればするほどミスが増えるから出来るだけシンプルな方法を考える。


「なあ、師匠。こんなにかんたんでいいのか?」


 不安そうにマルコが聞いて来る。何か問題があったか? ちゃんとマルコが指示する通りにウリが岩弾を飛ばしてるけど。


「ちゃんと出来てるよね。何か不安があるの?」


「だって、魔法だよ! もっとむずかしい呪文をとなえたり、きびしい修行をしたりしないとダメなんじゃ。本当にだいじょうぶ?」


 修行って言ってたし、なんか修験者とかが行う修行みたいなのをイメージしてたのか? あまりにも苦労なく物事が進んで行くので、不安になったのかもしれない。


 難しくて辛い修行を用意出来れば良いのかもしれないが、そんなの俺もやった事ないから無理だ。辛うじて思いつくのは断食とか滝行ぐらいだけど、精霊術師の修行になるのかは疑問だな。


「んー、多分なんだけどマルコは勘違いしてるよ。精霊術師の一番難しい所を仲立ちしたから簡単に思えるかもしれないけど、普通に考えたら難しいんだ。意思疎通の手段も無くて、探り探りで精霊に自分の意志を伝えて、魔法を使って貰うのは大変だからね。他の人達はもっと苦労してると思うよ」


「……そうなのか?」


「うん。だいたいフクちゃんもウリも、シルフィがしっかりと意思疎通が出来る浮遊精霊を選んで連れて来てくれたから、これだけスムーズに魔法を使って貰えるんだよ。だからラッキーだと思って頑張れば良い」


 実際に死の大地に飛んで来たマリモみたいな、風の浮遊精霊と契約したらどうしたら良いのか分かんないよね。そもそもあの子には意思が無さそうだったし契約すら出来ないかも。


 何とか納得してくれたけど、疑問でいっぱいって表情だ。簡単なのは良い事だと思うんだが……まあ、出来るようになれば疑問も薄れるだろうし、地道に信頼を得て行くしか無いな。たぶん師匠としての貫禄が足りないのが足を引っ張っているっぽい。


「じゃあ、次の訓練だ。トゥル。人型の土を幾つか作ってくれる?」


 トゥルがコクンと頷くと、土がモコモコと動き出して幾つもの土のマネキンが出来上がった。お礼を言うとニコニコと笑顔を返してくれる。


 最近のトゥルはフクちゃんとウリも来てご機嫌だ。ふと目を向けるといつの間にかモフモフしている。確実にモフラーへの道を突き進んでいるな。


「今晩から戦って貰うゾンビとスケルトンは人型だからね。ゾンビは頭を潰すか切り離す。スケルトンは心臓部分の魔石を砕けば倒せるから、あの人型に向かって練習するよ」


「ゾ、ゾンビとスケルトンですか? お師匠様、私達はアンデッドと戦うんですか?」


 サラが本気ですか? って顔で俺を見る。その気持ちは俺にも分かる。子供達の最初の相手がアンデッドとか、どうなんだろうとは今でも思う。


 でも、気持ち悪いのをのぞけば、動きも遅くて弱いから初心者の相手としては最適なんだよね。臭いがひどくて、素材が魔石以外は取れない以外は……。あと、やっぱり元が人間だったりするから忌避きひしたくもなる。


 真剣な表情でサラ達を見つめ、アンデッドと戦う利点を説いて何とか納得させた。自分でも鬼畜な気がするが、ダンジョンでゴブリンとかを相手にするよりは安全だと思う。精神的な面ではちょっとトラウマになる可能性もあるが、それはゴブリンとかでも同じだろう。


「じゃあ、まずはサラからね。最初はゾンビを想定して首を。次はスケルトンを想定して心臓を狙って」


「はい、お師匠様」


 サラが緊張した面持ちて、人型を指差し「フクちゃん、風刃。首」っと指示を出した。その言葉に反応したフクちゃんが、パタパタと羽を動かしながら風刃を放つ。


 コロリと人型の首が落ちる。続いてサラは「風弾。心臓」と指示を出す。圧縮された空気の玉が人型の心臓部分を吹き飛ばした。……もう訓練は終了で良い気がする。


 続いてマルコも挑戦するが、こちらもあっさりと頭を潰し心臓を貫いた。あとはもうレベルを上げて、フクちゃんとウリが使える魔法に慣れるだけで何とかなるよね。……あれ? もう俺の役目って終わり? いや、まだ何か教える事はあるはずだ。


「基本はこんな感じだね。精霊と一緒に色々考えれば、新しい魔法を作る事も出来るよ。ただ、注意して欲しいのは、精霊は君達の奴隷じゃない。調子に乗っていると見捨てられちゃうから、最低限の礼儀をもって仲良くなろうね」


 微妙に難しい事を言って訓練を終わる。後は夕食後に本番だな。

読んでくださってありがとうございます。

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