七百七十九話 すごく妖精っぽい
妖精達の歓迎会が始まった。俺も妖精達との交流を深めるべく行動していたのだが、途中で楽園に潜む危険に思い至り焦って行動した結果、その問題はすでに対処済みな上にディーネの怒りを買う結果になってしまった。そしてそのディーネの怒りが解ける前に歓迎会は終わり、次のイベントが始まろうとしている。急がないと。
いよいよ妖精の花畑が造られるのか。百花が揃う花畑とは聞いているが、上手く想像できないので実際に見るのがとても楽しみだ。
特に精霊樹の桜並木を造ることになったから、花畑予定地全体を百花で埋めることになっている。
一面を同じ花で満たす光景も素晴らしいだろうが、広大な面積を百の花で埋め尽くす光景も見ごたえがあるはずだ。
ディーネを連れてレベルアップ前だったら確実に息が切れる速度で走り、ようやく花畑に到着すると、待たせていた面々からの視線が集中する。
ほとんどのメンバーが俺の説教終わり待ちだと知っているはずだから、正直かなり恥ずかしい。
「お待たせして申し訳ない」
恥ずかしいがうろたえるともっと恥ずかしいので、頑張って表面だけは取り繕って遅れたことを謝罪する。
「ゆーたー。まってたー」
すぐにベル達が飛んできてくれて、賑やかに絡んでくれたから気まずさが薄れる。子供の無邪気さってこういう時は救われるよね。
集まってきたベル達を装備しながら妖精達を観察する。……妖精の数がなんだか少ない気がするが、二十人くらいは居るようなので良しとする。
今更花畑のお世話が役目でしょ、なんてことは言わない。だって無駄だから。
ある程度楽園に慣れたら、花畑のお世話をして美味しい妖精の花蜜酒を造ってさえしてくれれば問題ない。
「えっと、それでジューン姫、妖精の花畑の造営はどのような手順で行えばいいんですか?」
「裕太、お説教お疲れ様。ドリーが種を用意してくれているらしいから、まずはその種に妖精の魔力を馴染ませるのが最初ね。ドリーがかなり頑張ったと言っていたから、素晴らしい花畑が出来上がりそうよ」
そういえば前に種に妖精の魔力を馴染ませるって言っていたな。
でも、それよりも気になるのは……素晴らしい妖精の花畑=高品質な妖精の花蜜酒ということで良いのだろうか?
シルフィ達を見ると、ノモスまで満足気に頷いているので俺の予想は間違っていないようだ。
あれだけ妖精達に根掘り葉掘り聞いていたんだ。その辺りをシルフィ達が間違えるはずがないよな。
俺がお説教をされている間もずっと話し込んでいたのだから、なにか問題が起きてしまったらシルフィ達のせいにすることにしよう。
「なるほど、ドリー、花の種は?」
ジューン姫が言うにはドリーが頑張ってくれていたらしい、というか、百花蜜ということで百の花を用意するとテンションが上がっていたドリーを知っているから、確実に最高の花の種を用意しているだろう。
お酒の原料になるのだから、聞かなくても品質は保証されている。
「こちらです」
なにも持っていないドリーを見て、こちらって? と首を捻っていると、地面からスルスルと植物が生えてきて花を咲かせる。
大きさは段違いだが、なんかどこかで見たことがある花……ああ、蛍袋だったか? ホタルの里に行った時に見た覚えがある。
でもなんで……蛍袋の花が俺の目の前に近づいてくる。もしかして生きてる? いや、植物なのだから生きているのは当然なのだけど噛んだりしないよね?
ドリーが俺に危険なことをするはずがないと思いつつも、若干ビビりながら巨大な花を観察する。
しっかり見ると蛍袋の口は閉じており、花がパンパンに膨れているように見える。もしかしてこれってドリーの荷物入れ的な役割を果たす花なのかな?
初めて見たけど、ルビーみたいな特殊な趣味でもないかぎり聖域が完成するまで精霊は持ち物を持つ意味がほとんどなかったし、聖域になる頃には大精霊達の家も用意したから使うタイミングがなかったのだろう。
納得しながら巨大な花に手を添えると、プツリと茎から花が切り離される。
「重っ!」
落とさないように慌てて花を支えると、ズシリとした重さを感じる。落ちてきた米袋をキャッチしたような重み。レベルが上がる前の俺だったら腰が逝っていたかもしれない。
「ド、ドリー、もしかしてこの花にパンパンに詰まっているのが花の種? こんなに必要なの?」
俺のイメージだと花の種って手のひらサイズの紙袋でさえたっぷりと種が入っているイメージなんだけど……。
「広大な花畑スペースの為の種ですから、それくらいの量が必要になります」
そっか、俺が勘違いして大規模にスペースを確保してしまったし、二分割する予定がサクラの精霊樹の脇芽を並木道に利用することになったからこれだけの量が必要になったんだな。
自業自得……いや、怪我の功名で素晴らしい花畑が完成するかもしれない。妖精の花蜜酒の原料、大量ゲットだ。
大量ゲットできるならお酒になる前の花蜜もふんだんに利用できるはず。ベル達やフクちゃん達、サクラはむろんのこと、楽園に遊びに来る精霊達も大喜びだろう。
「了解。それで、この種はどうしたらいいのかな?」
「地面の上に置いてくれたらいいわよ」
ドリーに聞いたのだが、ジューン姫から返事がきた。
言われた通り花の種が入った花を地面に置く。
「少し離れてちょうだい。あ、この量だと割と時間がかかるから別の作業をしていてもいいわよ」
「時間がかかるってどのくらいですか?」
妖精達に仕事に来てもらっているとはいえ、その初日に放置してしまうのは気が咎める。あと、監視しておかないと不安でもある。
「そうね、三十分くらいかしら?」
三十分か。たしかに時間がかかると言えなくもないが、三十分なら見学一択だな。
「見学させていただきますね」
「分かったわ。さて、じゃあやりましょうか。みんな集まりなさい」
ジューン姫の言葉に、飛んでいた妖精が素早く集まってくる。これが王族の威厳というものなのか、変わり者の妖精達が素直に従っているのが凄い……違うな。
王族の威厳に従ったと思える表情なのは、ポットリアやマルメロなどの一部で、他は好奇心に従っているな。
こんなに大量の種を魔力で染めるのが面白そうと妖精の顔が言っている。
「ドリー、種を出してちょうだい」
ジューン姫がドリーに声を掛けると、蛍袋の口が開き、花の種がザラザラと流れ出し、最後には蛍袋の花が土に還るように消えていく。
それにしても凄い種の量だ。ドリーがあれだけやる気満々だったのだから、きっちり百種類の種が用意されているんだろうな。
その小山になった種を妖精達が円状に取り囲む。
「じゃあ、いくわよ。さん、はい!」
「「「「「ララララー!」」」」」
「ふえっ?」
ジューン姫の合図と共にいきなり妖精が歌い始める。
綺麗な歌声にも驚いたが、なによりもその声量、俺達と普通に会話できていたから気にしていなかったが、楽園に響き渡るような歌声を聞くとさすがに驚く。
「え? 更に踊るの?」
最初は神に捧げるようなイメージの歌だったのだが、その歌のリズムが徐々に賑やかになっていき、それに合わせるように妖精達が種の小山を回りながら踊り始める。
なんというか……凄く妖精っぽい。
異世界に来ているので今更なのだが、童話の世界に迷い込んだ気がしてくる。
「裕太、あれは別に無意味に歌って踊っている訳ではなくて、歌で魔力を整え、踊って全員の魔力を混ぜ合わせる儀式のようなものらしいわ」
戸惑った俺の言葉に反応したシルフィが妖精の行動を説明してくれる。
俺がディーネのお説教を受けている間に、しっかりこの儀式についても情報収集済みらしい。
なるほど、魔力を整え混ぜ合わせるか、魔力についてはサッパリだがスープ料理と考えれば理解できなくもない。
美味しいスープはバランスが大切。具材や調味料を適切に用意するのが歌の役割で、煮込みながら掻き混ぜるのが踊りの役割なのだろう。
妖精達の踊りは技巧を凝らすような物ではなく、素朴だが可愛らしい踊りで、見ているだけで微笑ましくなる。
ん?
大人しくしていたはずの俺の装備品達から、微妙な振動が伝わってくる。もしかしなくても、あの踊りに参加したくてソワソワしてない?
普通であれば楽しそうな行事に参加を促すのだが、今回はさすがに駄目だろう。
いくら美味しかろうと、お味噌汁とコンソメスープを混ぜ合わせて美味しくなるとは思えない……あれ、意外と美味しそうかも……違う、そういう問題じゃない、止めないと。
「みんな、楽しそうだけど妖精さん達はお仕事中なんだから参加したら駄目だからね」
装備品達のもぞもぞが少し収まった。
お仕事を邪魔してはいけないことをベル達はしっかりと理解している。それでも動きが完全に収まっていないのは、妖精達の歌と踊りがとても楽しそうだからだろう。
我慢しているベル達を褒めながら、今度ダンスパーティーでも開こうかと考える。
ベル達だけではなく、サラやマルコやキッカ、そしてジーナも見入っているし、喜んでくれる公算が高い。
本格的なパーティーではなく、お遊戯会のような雰囲気になるだろうが、だからこそちびっ子達も気楽に楽しめる。
頃合いは妖精達がある程度楽園に慣れた頃がいいかな。精霊王様達と約束している宴会の演目に組み込むか。
なら妖精の花蜜酒が完成した頃かな。楽しみになってきた。
ベル達やサクラと戯れながら見学していると、妖精達の盛り上がりが最高潮に達したように感じた。
時間的にも丁度だし、そろそろフィニッシュなのだろう。
魔力に対してド素人だが、妖精達の歌と踊りを見ているとなんとなく感じ取れる。
今まで花の種は妖精達の魔力に包まれ染められていた、そして最後にその魔力が種に強固に定着される。
「花の子らに、妖精の祝福を!」
ジューン姫が高らかに宣言するように歌う。
「「「「「祝福を!」」」」」
妖精達が賛同するように歌う。
同時に妖精達の踊りも終わる。
あっさりとした終わりだが、だからこそこれが芸術ではなく儀式なのだと強く感じる。
その証拠に、小山になった花の種から儀式が始まる前とは違う迫力を感じる。
花の種が妖精の花の種になり、だから妖精達の歌と踊りも終わった。そういうことなのだと思う。
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