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七百七十一話 難しい質問

 ジューン姫の話を聞いて、なんとなく深く踏み込んだら危険な気がしたので深く追求せずに話を終わらせた。すると妖精の花蜜酒を造るための打ち合わせを開始し、順調に打ち合わせが進んでいるように思えたのだが、花の蜜の種類を決める段階で大精霊内での激しい議論が勃発。俺とジーナ達とチビッ子組はジューン姫と話しながらお茶会を再開することにした。




「これなんかも面白いですよ」


 ジューン姫からとても気になる話題が提供された気がするが、俺も大人なので気が付かなかったふりをして話題を逸らす。


 大精霊達が議論に夢中で結論が怖いのに、更に胃に負担がかかる話題をほじくり出すつもりはない。


「そうなの? 見た目的には他のクッキーと違いを感じないけど?」


「まあ、試してみてください」


 首を捻るジューン姫に試食を勧める。


「分かったわ」


 俺の勧めにジューン姫がクッキーを手に取りかぶりつく。姫相手にかぶりつくは不適切な気がするが、サイズがサイズなのでかぶりつくという表現がピッタリになる。


 チョコレートは切り分けられるが、クッキーを小さく切り分けるのは難しいからね。シルフィに頼めばできそうな気もするが、さすがにクッキーの切り分けに大精霊の力を持ち出すのは違う気がしたので断念した。


「ん、クッキー独特の食感と甘味、でも、確かに何かが違う……これは豆の風味? 裕太、まさかこれは豆から作ったクッキーなの?」


 おお、なんかグルメ漫画の審査員みたいだとジューン姫を眺めていたが、正解にまでたどり着くとは思わなかった。姫ともなると食育もしっかりしていて味覚が発達しているのかな?


 というか、花蜜だけで生活していそうな感じだけど、豆も食べるんだな。ああ、そういえば鍋とか金属製品もあるって言っていたし花蜜以外も食べている可能性は高いか。まあ、妖精の場合は豆とかの方が嗜好品っぽいけどね。


「正解です。豆乳おからクッキーといって、体にも優しいクッキーなんですよ」


 最近お茶会続きで自分や精霊達はともかくジーナ達の健康が気になってきたので、体に優しい甘味を開発してみた。


 つくづく思ったのは本職の料理にかける情熱と、それに伴う技術だな。俺のあやふやな知識だけで豆乳おからクッキーという、少し変わり種のクッキーを見事に再現してくれた。


 ただ、ルビーの実力を知ると本当にホワイトチョコレートの失敗が悔やまれる。


 ホワイトチョコレートが成功していたら北海道の有名銘菓であるあのクッキーの再現すら可能だったかもしれないのに……。


 錬金箱を利用してなんとかできないかな? ホワイトチョコレートの実物さえ用意できれば、ルビーならなんとかしてくれる気がする。時間がある時に試してみるか。


「面白いわ。本当に面白い。今まで花の蜜さえあれば他はおまけだと思っていたけど、この聖域に来てからそれが間違いだったと自覚したわ」


 どうやら姫の意識改革に成功してしまったようだ。


 別に望んでそうした訳ではないので今後が少し心配になる。


「あはは、気に入って頂けたならなによりです」


 まあ、地球人類が長年積み重ねてきた味を楽園で再現しているのだから、当然と言えば当然の結果か。


 今のこの世界でも甘味はあまり発達していないし、妖精が引き籠る前のはるか昔ならもっと甘味に対する意識や技術は未熟だったかもしれない。


 そんな認識のところに数百年の積み重ねがある地球の甘味をぶつければ、意識改革の一つや二つ起こってもおかしくない。


 まあ、地球の甘味に数百年の積み重ねがあるのかは知らないから想像でしかないけどね。


「ねえ、裕太、聞こえているわよね?」


 頑張ってジューン姫と会話をしていたのだが、いよいよ大精霊達を無視できなくなってきた。


「……シルフィ、いや、みんな、結論が出ないからと言って俺を巻き込もうとしないでくれ。どの案を選んでも角が立つだろ」


 先程から大精霊達の意見がまとまらず、一応この楽園の主である俺を大精霊達が巻き込もうとしてくる。


 主である俺を立ててくれているのであれば嬉しいのだが、今回は自分の票を獲得するためだから巻き込まれたくない。


「そうかもしれないけど、このままだと結論が出ないわ」


 たしかに結論が出そうにないな。みんな精霊だけあって自然を大切にしているし当然好みもある。しかもその選択がお酒に影響してくるとなると、当然モメにモメる。


 意見が割れたら和を優先するドリーやヴィータ、そしてお前達の好きにしろよと不器用に選択を譲りそうなイフでさえ自分の意見を譲らない。


 たしかにこの様子なら結論を出すのは難しいだろうな。


「……分かった。サクラ、貯蔵庫は二つ作っても大丈夫かな?」


「あい!」


 元気いっぱいに頷くサクラ。こちらは大丈夫なようだ。


「ジューン姫、二種類の花蜜酒を造ることは可能ですか?」


「うーん、可能だけど手間が増えるから、こちらにもメリットが欲しいところね」


 妖精が現実的に交渉してきた。いや、仕事に対する対価は当然のことなのだが、ファンタジーな存在に現実的な交渉をされるとちょっと悲しい。


 まあ、俺の自分勝手な意見だから、言わないけど。


「無論、報酬は用意します。とはいえ妖精が必要な品が金属と甘味以外思いつかないのですが、他に何か必要な物がありますか?」


 おそらくお金を渡しても、鋳つぶして金属として再利用されるのが関の山だろう。


「うーん、甘味と金属の増量は当然として、新しい甘味も当然ほしいわね。あとは……そうね楽園食堂だったかしら? あそこの利用許可と妖精が食べられる美味しい料理を用意してほしいわ」


 欲深い要求をされなかったことは嬉しいのだが、ジューン姫の要求はルビーの負担がかなり増えてしまう。


 金属は俺が用意するけど、他はな……新作の開発はルビー達も喜んで協力してくれるし、妖精が食べられる料理の開発も、ルビー達なら興味を持つだろう。


 でも、妖精の食堂利用か……利用すること自体は問題ないのだが、妖精専用の料理をメニューに加えて通常営業となるとどうなんだ?


 だって毎回ミニチュア料理を作るって手間がハンパじゃないぞ。


「ちょっと相談させてもらっていいかな?」


「ええ、構わないわ」


「ありがとうございます。シルフィ、悪いけどルビーに手が空いていたらこちらに来てもらえるように連絡をお願い。駄目だったら後で話があるって伝えておいて」


「了解」


 楽園食堂は営業中だけど、朝食の時間は終わっていて、お昼までまだ間があるから仕込みに手間がかかっていなければ来てくれるだろう。


「裕太の兄貴、どうしたんだぞ?」


「実は―――」


 手が空いていたのかすぐにルビーが来てくれたので、かくかくしかじかと事情を説明する。


「面白いんだぞ! ジューン姫、詳しく話を聞かせてほしいんだぞ。食べられるもの食べられない物、必要な料理の量は重要なんだぞ!」


 手間がかかり過ぎるかと心配しているのだが、ルビーは乗り気な様子で目を輝かせている。本物の料理バカってルビーみたいなタイプなんだろうな。


「ルビー。甘味の増産もお願いしているのに、手が足りるの?」


 ルビーが深く考えていない様子なので、ジューン姫に突撃しようとしているルビーに話しかける。


「うーん、その辺りも話を聞いてみないと分からないんだぞ!」


 まあ、そうか。とりあえずルビーに話をしてもらって、キャパオーバーしそうなら俺が制止することにしよう。



「問題ないんだぞ!」


 ジューン姫から話を聞いて、ルビーが胸を張って断言した。俺は助かるけど本当に大丈夫なのかとても心配だ。


「ねえ、ミニチュアの料理とか絶対に手間がかかるよ。本当に大丈夫なの?」


「問題ないんだぞ。小さく分割できる料理を作れば量はそれほど必要ないから盛り付けと配膳をどうにかすれば良いだけなんだぞ」


「いや、そこが問題なんじゃないか?」


 毎日毎日ミニチュア製作って、本職の人かそれが趣味な人じゃなければ発狂しそうな作業だろう。


 食器の類はノモスやシトリンがどうとでもしてくれるだろうが、盛り付けは精霊の力でも難しいはずだ。スープなどの液体ならサフィが……でも、サフィには宿の仕事も有るから楽園食堂に常駐するのは難しい。


「あら、そういうことなら妖精専用の従業員を妖精から派遣するわよ?」


 会話にジューン姫が参加してくる。


 そうなれば確かに問題は解決するのだが……。


「妖精って人間が嫌いで怖い感じですよね? 私達が居るのに働けるんですか?」


 積極的なジューン姫や、俺達に対する警戒心を隠さないカシュー君を見ていると忘れそうだが、この世界の妖精は臆病と聞いている。


 陸の孤島みたいなこの場所で働けるか疑問だ。


「先ほども言ったけど、妖精も新しい甘味に興味津々なのよ。たしかに慣れが必要なのだけど、安全が確認できれば働くくらいはできるわ。あとはそちらの決断次第ね」


 うーん、まあ、妖精の花蜜酒を作ってもらうのは働いてもらうのと一緒だし、別に他で働いてもらっても構わない。


 まあ、精霊の来訪人数を制限している現状、妖精の働き口を用意することに疑問を覚える精霊が居るかもしれないが、何しろ精霊だからな。


 そもそも疑問を覚えない可能性が高いし、疑問を覚えても妖精の花蜜酒と妖精が採取した花蜜で甘味が増えるとなると、たぶんみんなあっさり納得すると思う。だから問題となるのは……。


「ルビーはどう? 妖精の従業員が増えても大丈夫かな?」


 部下が増えて仕事が増えるのはルビーだから、ルビーの判断が一番大切だ。


「問題ないんだぞ! 料理をする機会が増えるのは大歓迎なんだぞ!」


 ……まあ聞くまでもなかった気がするが、ルビーが納得したなら大丈夫だろう。楽園食堂はオニキス達も手伝ってくれているが、メインはルビーだからな。


「了解。ジューン姫、こういうことになりましたので、お願いします」


「ええ、任せて。働く妖精達の報酬もお願いね」


「働いてもらうのですから、報酬は当然です。そういえば楽園食堂や雑貨屋、宿屋などで人間のお金が必要になるんですが、妖精はお金を持っているんですか?」


 精霊は精霊石の成りそこないを換金しているが、妖精も換金アイテムかな?


 あ、楽園の雑貨屋はレンタル制だけど、妖精だと持ち帰る……あ、サイズが人間仕様だから必要ないか。


「その辺りも交渉が必要なようね」


 さすがに人間のお金は所持していないらしい。まあ、お給料や妖精の花蜜酒の対価に人間のお金を混ぜればいいだけだから、交渉はそれほど難しくないだろう。


 それにしても妖精の花蜜酒を造ってもらうだけのつもりだったのに、予想以上に妖精との関係が深まりそうだな。


 まあ、騒動を起こすタイプの妖精ではないし、楽園の情報が人に漏れる心配もないから構わないか。


「ねえ、裕太。私達の質問は?」


 あ、どの花から妖精の花蜜酒を造るか決めている途中だった。すっかり忘れていた。


読んでいただきありがとうございます。

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姫はグルメレポーターの素質あるなら、いろんなイベント企画するとかも得意そうだな 裕太はふりまわされそうだけど… いまも精霊に振り回されているから変わらないかw
料理人?料理妖精?の妖精が出てくるのかな。今まで花の品種気にせずまとめてそうだから、品種ごとに仕分けしないといけないの妖精からしたら面倒そう。
ワインだって赤白ロゼといろいろあるんだから妖精の花蜜酒もいろいろ造っても良いんじゃない? 若しくは毎年違う花蜜で造るとか あと妖精の食事は某世界食堂だと大皿料理を各自取り分けてたね わざわざ妖精用の…
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