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七百六十六話 裕太の観光ガイド

 ジューン姫との最初のお茶会は成功に終わり、その翌日、再びジューン姫様とのお茶会を熟し、そして俺が主体となるジューン姫、楽園観光ツアーが開催される……のだが……最初の森を出る前から俺の観光プランが崩壊の危機を迎えている。泣きそう。




「ジューン姫、興味がおありでしたら、後で果物を収穫する時間を用意しますので、まずは精霊樹に向かいましょう」


 ふらふらと飛んでいきそうなジューン姫を頑張って制止する。いかん、被食者であるカシュー君の気持ちがとてもよく分かる。不味い状況だ。


 あ、タマモ、自慢の果物を自慢するのは後にして。今じゃないから。ベルもレインもフレアも参加しないで。トゥル、ムーン、止めてくれてありがとう。後で褒めまくるね。


「そうね、楽しみは後に取っておくことにしましょうか」


 およ? 意外と素直にこちらの指示に従ってくれた。さすがに身内扱いのカシュー君と違い、他人の言葉はある程度聞いてくれるらしい。


 この観光ツアー、少し希望が見えてきた気がする。



「あう!」


「こんにちは。ふふ、本当に妖精が居るのね。とても懐かしいわ。私の名前はラエティティア、この地からずっと離れたエルフの国の精霊樹よ。よろしくね」


 納得はしてくれたものの、一秒後には違う方向にフラフラと飛んでいきそうな気性のジューン姫にハラハラしながら、なんとか精霊樹の根元に到着する。


 そこにはサクラを抱いたラエティティアさんが約束通り待機してくれており、サクラの挨拶と共に声を掛けてくれた。


 ラエティティアさんの妖精二人を見る目はとても優しく、そして言葉通り昔を懐かしむような目をしている。


 ただ、精霊と同じく精霊樹の思念体であるラエティティアさんの懐かしいの幅は広いからな。


 ラエティティアさんが人の暴挙で眠っている間に妖精が引き籠ったのか、もしくはラエティティアさんが健在な間に妖精が引き籠ったのかだけでも、数百年、下手をすれば数千年単位での違いが生まれかねない。


 ……まあ、どちらにせよずっと昔ということだな。


「私は妖精王の三女、ジューンベリー。こちらこそよろしくね、ラエティティア」


 ラエティティアさんの挨拶に、優雅だが親しみを込めた様子で挨拶を返すジューン姫。


 そしてそのことを咎めるどころか、当然と言った様子でジューン姫の傍に控えるカシュー君。


 もしかしたら妖精にとっての精霊樹はエルフ達のような崇拝の対象ではなく、信頼できる友人のような立ち位置なのかもしれない。いや、この場合は信頼できる友人の友人かな?


 なんにせよ、カシュー君の人間と精霊樹との対応の違いが凄い。ここまで露骨だと逆に清々しく感じてしまうくらいだ。


「あう!」


 そんな二人の挨拶にサクラが割って入る。自分を忘れるなというアピールだろう。見た目通り幼くて甘えん坊でとても可愛い。まあ、本体は見上げると首が痛くなるくらい巨大なんだけどね。


「ふふ、昨日ぶりね。サクラもよろしくね」


「あい!」


 ジューン姫の言葉に満足したのか、サクラがラエティティアさんの胸元から飛び立ち、俺の胸元に飛び込んでくる。


「上手に挨拶ができて偉いね、サクラ」


 飛び込んできたサクラを優しく受け止め、褒めながらナデナデする。


「あい!」


 まあ、上手といっても二文字程度しか言葉を発していないのだが、サクラはベル達やシバ達と違い、見た目通り生まれたばかりの赤ん坊なので返事が出来ているだけ凄いのだ。


 ただ、俺にはどうしても理解というか納得できないことがある。至福であろうラエティティアさんの胸元から、なぜ俺の貧相な胸元になぜ飛び込んでくるのかだ。


 それだけサクラが俺を気に入ってくれているのだと嬉しくもあるが、下世話な意味を含めなくとも抱かれ心地は千倍くらいラエティティアさんの方が上だよな。


 もし俺がサクラの立場だったら、ラエティティアさんから絶対に離れないだろう。いや、下世話な意味ではなくてもということだけどね。下世話な意味を含めたら……。


「それにしても、遠目に見た時から思っていたのだけれど、この精霊樹の花は素晴らしいわね」


 ジューン姫が巨大な桜を見ながら、感嘆の言葉を漏らす。


 俺にとってもこの桜はサクラが俺の意志をくみ取って咲かせてくれた桜だから、褒められるととても嬉しい。まあ、ちょっと大きすぎでは? という違和感はいまだに消えないのだけどね。


 それでもピンク色の美しい桜の花の屋根の下で、木漏れ日を楽しみながらリラックスするのは最高の癒しだと思う。


「私の故郷の花なので、喜んでいただけたなら嬉しいです」


 日本の花は桜が代表的だと思うけど、梅も良いよね。あ、梅干しが食べたくなってきた。


 梅干し……漫画で読んでなんとなく作り方を知っているが、挑戦しようかな? 梅茶漬けとか和風梅パスタとか、ササミの梅紫蘇巻とか食べたい。


 うん、妖精関連が落ち着いたら梅干しに挑戦してみよう。


「裕太の故郷。綺麗な場所なのね。行ってみたいわ」


「……ええ、綺麗ではあると思います。ただ、遠すぎて難しいですね」


 日本は確かに清潔で綺麗だけど、都会に妖精が来たらどうなるんだろう? 首都である東京も意外と緑が残っている場所が多いが、それでも妖精から見ると、いや、妖精だけではなく精霊達も悲しみそうだ。


 万が一、億が一、日本にみんなと戻れる機会があったら、案内するのは田舎にしよう。


「そう、それは残念ね」


 俺の感情を察したのか、素直に納得してくれるジューン姫。おてんば姫だけど、こういう配慮はできるのか。


「でも、この場所も悪くありませんよ。私だけではなく、この場にいる全員で協力して作り上げた自慢の場所です。できる限り案内しますので楽しんでくださいね」


 そして、できるだけ計画通りにツアーを進行させてください。お願いします。


「ええ、全力で楽しませてもらうわ」


 ここからはいつものメンバーに加えてラエティティアも同行しての楽園観光だ。今日は精霊達が遊びに来ている日なので、賑やかな楽園を楽しんでもらえるだろう。




 ***




「あー、楽しかったー」


 うん、言葉通り全力で楽しんでくれたね。


 いや、いいよ、楽しんでくれたのであれば俺達の思惑とも合致する。


 でもね、〝楽しんでください〟と言う言葉の前に、できる限り案内するって言葉がついていたのを覚えている? ジューン姫、ええ、楽しませてもらうと頷いたよね?


 せめて最初の十分ぐらい案内に従ってくれても良かったのでは?


 楽園は妖精界に引きこもっていたジューン姫にとって刺激的だったらしく、案内開始して秒で脇道に逸れた。


 逸れただけではなく、逸れたまま本道に戻らず突っ走り始めた。


 その猪突猛進ぶりがベル達やシバ達の心に火をつけたのか、こちらも暴走。楽園内を飛び回るチビッ子暴走族が結成されることになる。


 楽し気に暴走するチビッ子暴走族は楽園を縦横無尽に飛び回り、その楽しげな姿を見た遊びに来ている下級精霊や浮遊精霊も合流。


 小規模暴走族があっという間に大規模暴走族に変貌した。


 そんな暴走族の集団のトップを爆走し、楽園内を隅々まで飛び回ったのだから、これで楽しくないと言われたら、さすがに温厚な俺も怒る。


 そしてカシュー君、本当にお疲れ様です。早々に諦めた俺達と違い、君はずっとジューン姫を追いかけ続け、制止を続けました。その諦めない心、本当に素晴らしいと思いました。


 結果は伴わなかったけどね。俺は成果主義ではないので、その奮闘と努力には敬意を表したい。


 俺もせっかくラエティティアさんに来てもらったのに、ジューン姫の暴走で今のところ無意味だから気持ちはよく分かる。


「楽しかったなら良かったわ。何か気になるところはあった?」


 満足したジューン姫をお茶の席に誘い、シルフィが話しかける。


「そうね、属性が偏っていた場所も人の職業を体験できる場所も、雪島も、雑貨屋も両替も宿も興味深かったけど、楽園食堂と酒島と醸造所が特に興味深かったわ。人間や精霊はああやって料理やお酒を造っているのね」


 おお、策士シルフィとしても予想外だったのだろう、向こうからお酒の話題をふられて少し驚いている。


 シルフィ、チャンス到来だぞ。


「料理とお酒は裕太の故郷を参考にした物も多いから、この辺りで一般的な製法ではないのだけれど、質は間違いないと思っているわ。そういえば妖精はお酒を造るつもりがないのにお酒ができるんだったわね」


 妖精の花蜜酒って、花の蜜を妖精が集め保存していたものが結果的に妖精の魔力を吸収しながら発酵しお酒になったものだったな。


「よく知っているわね」


 若干ジューン姫の警戒心が増した気がする。やはり人間とのもめ事の原因になった妖精の花蜜酒には妖精側も思うところがあるようだ。


「これでも大精霊だもの。妖精がこの世界で生活していた頃から存在しているし、妖精の花蜜酒も呑んだことがあるわ。今回妖精門を開いたのも、偶然妖精の花蜜酒を発見して、懐かしくなったから裕太に頼んで門を開いたのよ」


 おお、誤魔化さずに正直にこちらの心境を伝えるのか。騙すのは悪手と判断したのかもな。


 おてんばなジューン姫でさえ妖精の花蜜酒という言葉に警戒するんだ。他の妖精はもっとひどい反応をするだろう。ジューン姫の背後で目を尖らせ警戒心マックスなカシュー君のように。


 ただね、偶然という言葉は疑惑でしかない。


 シルフィ、お城のお酒を手に入れるために俺に王様と交渉させたよね?


 マッサージチェアを用意し、王様と交渉し、お城の酒蔵に乗り込み、管理人さんの悲しげな眼に耐えながらお城のめぼしいお酒を掻っ攫い。


 最終的に〝お酒の気配を感じる!〟なんて恥ずかしいセリフをぶちかまして、周囲の人達になんとも言えない目で見られながら宝探しをして、本物の財宝を無視して隠し倉庫から妖精の花蜜酒を発見したあの行動が偶然?


 王様を筆頭としたクリソプレーズ王国の重鎮達の、ドン引きした視線が若干トラウマになっているのだけど?


「つまり、あなたも妖精の花蜜酒が目的な訳ね?」


 ジューン姫のシリアスな表情。おてんば姫だと思っていたが、王族なだけあって締めるところはしっかりと締められるらしい。


「違うわ。私達は人間とは違い、妖精の花蜜酒でお金儲けしたいなんて微塵も思ってないの。私達は妖精の花蜜酒が目的なのではなく、妖精の花蜜酒を呑むことが目的なのよ」


 無表情なシルフィの背後にドーンといったオノマトペが出ていそうな雰囲気で断言するシルフィ。


 ごめん、俺、シルフィ側なはずなんだけど、違いがあまり分からないよ……。


1/13日、本日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第81話が公開されました。メルが沢山頑張っていますので、お楽しみいただけましたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
なんで聖域には人間来ないのに妖精は完全に引きこもってるんだろって思ってたら… そうか精霊も警戒対象か!
さすがシルフィさんやでぇ。酒に対しては真摯ですな。最終的に楽園内で消費しきることを条件に交易できるかな?そのために常駐する妖精と飲むための専用の場所を用意する必要があるかな。
まぁ精霊にお金は要らんからな でも妖精の花蜜酒が飲みたいだけと言っても欲しいのは同じじゃん? ところで妖精の花蜜酒を使った美味しいスイーツも作れます! というプレゼンすればワンチャン譲ってくれるので…
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