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七百六十五話 捕食者と被食者

 ジューン姫の登場で妖精との交渉が進みだす手ごたえを得ることができた。今のところ俺達にも興味津々な様子だし、提供したパンケーキも満足してくれている様子なので、最悪でもいきなり交渉決裂なんてことにはならないと思う。たぶん。




「ふぅー。美味しかったわ」


 満足した様子で紅茶を啜るジューン姫。


 きつそうだったら残すように進言するつもりだったが、ジューン姫は止まることなく完食してしまった。甘い物は別腹というが、それは妖精にも当てはまるのかもしれない。


「ご満足いただけたのならなによりです」


「ええ、大満足よ。このパンケーキだったかしら? 小麦の質も高く、パンと言う名なのに驚くほど柔らかで素晴らしかったわ。あと、秀逸なのはこのソースのシステムね。様々な甘いソースを用意して、それを食べ手に選ばせる。選択の楽しみが生まれ、満足感を増大させているわ」


 かなり気に入ってくれたようで、長文の感想を頂いた。


 というか、まだ感想が続いている。


 好奇心旺盛なジューン姫は、カシュー君達が最初は警戒して食べなかったチョコレートソースにも果敢に手を付け、その味に魅了されて感想を更に長くしている。


 まあ、気持ちよく語ってもらうか。機嫌が良いほど、こちらの提案も通る可能性が高くなる。



「ふう、話していたらお腹が空いたわ。お茶のお代わりと新しいお茶菓子を頂けるかしら?」


 なん……だと……自分で好き勝手話しまくったうえで、間髪入れずにお茶とお茶菓子のお代わりを要求してくるとは……これが王族のクオリティだとでも言うのか?


 いや、違うな。俺が知っている王様はもっと苦労している感じだった。まあ、その苦労のうちの何割かは俺のせいな気がしないでもないが、マッサージチェアを提供したのでトントンなはずだ。


 でもまあ、お代わりはプレゼンの機会が増えるから俺にとっても都合が良いか。


 先程、ジューン姫はチョコレートソースに関しても豊潤で濃厚なうんたらかんたらと長文を述べていたので、チョコレートセットを楽しんでもらうことにしよう。


「紅茶のお代わりと、お茶菓子はこちらをどうぞ。以前お土産にお渡しした楽園自慢のチョコレートセットです」


 このチョコレートセット、最近というか先程気が付いたのだが、欠点があった。 


 いや、根本がチョコレートセットなのだから欠点とまでは言えない気もするが、チョコレート系のクッキーが入っていないというのはそれなりに大きな問題だと思う。


 チョコレートを練り込んだクッキー、チョコチップを混ぜ込んだクッキー、プレーン、もしくは全粒粉のクッキーにチョコレートを掛けたクッキー。


 どれも大好物なのに、その存在をチョコレートセットに入れ忘れていたのは迂闊というほかない。


 チョコレートセット第二弾には、各種チョコクッキーを入れるのを忘れないようにしよう。


 いや、クッキーだけではなくチョコレート系のパウンドケーキとかも……。なんかゴージャスになり過ぎる気がするから、落ち着いた時に考えよう。今はジューン姫のお相手に集中だ。


「あら、先程の黒いソースと同じ香り。たしかチョコレートと言ったわね。固形の物はどんな味なのかしら? でもさすがに大きすぎるわね。一つ食べるのが精一杯だわ。裕太、チョコレートの説明をお願いできる?」


 チョコレートセットとしての完成度にはクッキー系とホワイト系以外は自信があるが、確かに妖精にとっては大きすぎるか。


 その点は俺も気が付いていた。


 ホットケーキは妖精に合わせて大きさを調整できたが、チョコレートはナッツ系と大きさを合わせないとバランスが悪く、見た目的にその辺りの調整が難しかったんだよね。


 麦チョコを入れておけば食べやすかったのだろうが、高級志向に拘ったのでこのチョコレートセットには入れていない。


 麦チョコは大好きなお菓子だが、麦チョコは気軽にポリポリ食べるのが最高なので、俺としては高級チョコレートセットには違和感がある。まあ、俺が知らないだけで高級麦チョコとか存在していそうな気もするけどね。


「―――というラインナップとなっております。どれも自信作ではありますが、食べやすさを考えるとこちらの生チョコレートがお勧めでしょうか?」


 一通り説明をした後、生チョコをお勧めする。人目のない場所でならともかく、俺達の目がある場所でチョコレートに噛り付かせるのはさすがに駄目だろう。


 ジューン姫なら気にしないかもしれないが、カシュー君がブチ切れそうなのでお勧めできない。その点、生チョコであればカトラリーで切り分けて上品に楽しむことができる。


「まあ、ソースに比べるとしっかりしているけど、それでも柔らかくてとろけるわ。芳醇な香りにミルクの風味と優しさが―――」


 あ、また語り始めた。ジューン姫にはレポーターとしての才能があるかもしれない。言葉をもう少し短くまとめることが出来ればだが。


「ふぅ、大満足だわ」


「お喜びいただけたのなら幸いです。残りはお持ち帰りになりますか?」


 ん? 姫様相手なら新しいチョコレートセットを用意するべきか?


「ありがたくいただいておくわ」


 俺が結論を出す前にジューン姫がチョコレートセットを収納した。まあ、喜んでいるようだし良いか。


「姫様、そろそろ戻りますよ!」


 今ならジューン姫も言葉を聞き入れると思ったのか、カシュー君が即座に帰還を告げる。


 まあ、確かに悪くないタイミングだよね。


 こちらとしては交渉を続けたい気もするが……シルフィはどうやらまだ動くつもりはないようだ。


 シルフィはお酒の場合は性急になるのだが、今回は急がず確実を期すつもりのようだ。それだけ妖精の花蜜酒にたいして本気ということなのだろう。


 今日の分のお土産も用意してあるのだが、今回はチョコレートセットの残りもあるし大丈夫か。今から新しい甘味を提供したら、たぶんジューン姫が再び居座ることになるからな。


 交渉を続けるならともかく、続けないなら今は違う。


「うーん、もう少しこの場所を楽しみたかったのだけど、まあ、仕方がないわね。続きは明日にしましょう」


「明日!」


 ジューン姫の言葉に白目を剥くカシュー君。彼の胃もかなり心配だな。でも、さすがに妖精専用のマッサージチェアは作れない……よな?


 迷宮のコアならできそうな気もしないではないが、羽とかあるし妖精にマッサージチェアは冒険な気がするので止めておこう。


 こちらに手を振りながらカシュー君に引きずられるように妖精門へ消えていったジューン姫を見送り、ホッと一息つく。


 これで明日のお茶会まで楽園でもいつもの日常が戻ってくる。


「裕太。明日、決めるわよ。楽園を案内する機会を作るから、裕太はコースを考えておいてちょうだい」


 ……まだ日常は戻ってこないようだ。コースって、楽園の観光コースってこと? シルフィもなかなか難しいことを言う。




 ***




「この楽園は裕太が作った聖域なの。興味があるなら見て回ると良いわ」


 翌日のお茶会。


 ゲッソリとしたカシュー君を引き連れ、宣言通りジューン姫が現れた。


 カシュー君に渡したお土産と同じ順番ということで、今日はクレープを提供した。クレープはサイズの変更が可能なので、ルビーに小さなクレープを何種類も作ってもらったので、ジューン姫もかなり満足してくれた様子。


 再びジューン姫の長文の味の感想を聞き、ついでに長文の愚痴も聞いた。


 どうやら妖精界に戻った後、ジューン姫とカシュー君はかなりきつめのお叱りを受けたらしい。


 それなのにケロッとした表情で楽園に遊びに来るジューン姫と、死にそうな顔をしてやってきたカシュー君の対比が凄い。


 知ってはいたけど食物連鎖って同族の中でも連鎖するんだな。無論ジューン姫が捕食者でカシュー君が被食者だ。


 そしてそんなジューン姫を捕食しようとしているシルフィはなんなのだろう?


「それはいいわね。是非楽しませていただくわ!」


 妙な疑問に悩んでいると、ジューン姫がシルフィの口に飛び込んだ。ふむ、まだどちらが勝つか決まってはいないんだな。


 そして、シルフィを勝利に導く一手が、俺の観光案内……意外と責任重大で辛い。でも、俺も妖精の花蜜酒は確保したいので頑張ることにしよう。


「姫様、そのようなことを迂闊に受け入れてはいけません!」


 あ、被食者なカシュー君が頑張って捕食者なジューン姫を止めようとしている。傍から見ると無駄な努力だと丸分かりなのに、カシュー君も頑張るな。


「じゃあ裕太、案内をお願いするわね」


 カシュー君の制止もむなしく、ジューン姫の圧勝。いよいよ本番か。観光コースは考え抜いているが、おそらくジューン姫は一筋縄ではいかない。


 コース外で興味が引かれる物を発見したら、そちらにフラフラと飛んでいってしまうだろう。


 その可能性を織り込んで、そこから臨機応変に対処できるのが仕事ができる人間。


 そして俺は仕事に慣れが必要なタイプな人間なので、ジューン姫の興味が逸れる前に本命だけは確実に紹介するプランを練っている。


 まず紹介するのは大本命の精霊樹。


 カシュー君も反応したことから妖精にとっても大切な木であることは間違いない。ならば全力でアピールするのは当然だろう。まあ、この場からでも見えているんだけどね、精霊樹……。


「あ。いや、ジューン姫。そちらではなくてですね、まずはあの精霊樹に行きましょう」


 まさか最初の森の中から出る前にプランが崩壊の危機を迎えるとは、この裕太の目をもってしても見抜けなかった。


 自由過ぎだろ、お姫様。 


「そうなの? でも、あの綺麗な精霊樹にも興味はあるけど、森の中の果物も興味深いわ。妖精が育てたのとは違う、でも、一級品の果物が実っているわ」


 なんか褒められた。


 この森の果物はドリーの監督の元、タマモを筆頭にベル達やジーナ達が頑張った努力の結晶だから、褒められるとかなり嬉しい。


 仕方がないな。


 精霊樹にサクラとラエティティアさんに待機してもらっているのだが、少しくらい森を見て回る……いや、駄目だ。


 このペースで脇道にそれたら、本命の紹介すら中途半端で終わってしまう可能性が高い。


 楽園の、そしてこのツアーの責任者である俺が被食者側に回る訳にはいかない。捕食者になれないとしても、食物連鎖の枠外あたりの位置は確保しなければ。


新年明けましておめでとうございます。

今年も更新を続けていきますので、本年もよろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。

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明けましておめでとうございます 今年も楽しみにさせていただきます 休み明けにカシューくんみると親近感が湧きます
あけましておめでとうございます!今年も楽園の発展を日々楽しみにしています
あけましておめでとうございます 本年もよろしくお願い申し上げます しかしプレゼンにサクラだけでなくラエティティアさんまで呼んでいたのか それなら精霊王様方も、と思ったけど妖精の花蜜酒の分け前減っちゃ…
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