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七百五十九話 考古学者兼名探偵?

 予想外のジェットコースターを味わい、吐き気を催しながら聖域に到着した。ただ、年月を積み重ねた森での森林浴の効果なのか、聖域という特別な場所であるからか呼吸をするだけで森の匂いに包まれ、気が付いた時には完璧に吐き気は治まっていた。後はのんびり歩いて妖精界の出入口に向かうだけ。魔物も居ないそうなので楽しいピクニックになりそうだ。




 聖域とはいえ整備されていない森の中なのでかなり歩きづらいのだが、俺達は精霊術師とはいえ冒険者であり、それなりに悪路にも慣れているので躓くことなく進む。


「師匠、見たことがない植物が結構あるけど、どんな物か分かるか?」


 楽しく森の中を歩いていると、ジーナが興味深いことを聞いてきた。その質問にズバリ回答できればカッコいいのだが、残念なことにサッパリ分からない。


 日本の植物でも野菜やメジャーな木々程度しか把握していなかったのに、異世界の、しかも聖域なんて特殊な場所の植物を知っている訳がない。


「分からないからドリーを召喚して聞いてみようか? あ、シルフィ、召喚は構わないのかな?」


 よく考えたら、入るのに許可が必要な場所なのに、気軽に召喚するのは不味い気がしないでもない。


「ああ、裕太とジーナ達、そしてその契約精霊全員の許可は得ているから召喚するのは構わないわ。でも、採取の許可は得ていないから、興味がある物があっても採取するのは駄目よ」


 あ、全員分の許可を得ていたのか。さすがシルフィ、手抜かりがないな。


「それならドリーだけじゃなく他の皆も召喚した方がいいかな? 大精霊でも許可が必要な場所なんだよね?」


 みんな喜ぶかも。


「必要なノモスとドリーとヴィータは召喚しても構わないけど、他の精霊達は別に呼ばなくてもいいんじゃない? だってお酒が呑めるわけでもないし実体化も楽園で毎日しているんだもの。特に喜んだりしないと思うわよ?」


「え? そうなの? 前に聖域の話を聞いた時、特別な場所てきなニュアンスで話していなかった?」


「精霊達が細々とでもお酒が作れる場所が聖域にしかなかったからよ。今は楽園で自由にお酒が作れるから聖域の娯楽的な価値が薄れているのよ」


 ……非常に納得できる説明ではあるが、そんなことで聖域の価値を薄れさせていいのか大精霊。いや、娯楽的な価値が薄れただけなら、相対的に聖域の価値は上昇しているのか?


 まあ、実際娯楽的な価値が落ちたのはしょうがないか。


 特別な場所と言われていてもルールが厳しくて自由がない場所しかなかった時と、歴史は浅いが似たような特色を持つ場所でルールも緩く趣味を実現できる場所が生まれた後では、その価値に変化が生まれるのも当然と言えば当然だ。


 ただ、大精霊がそんなに即物的でいいのか? という疑問は消えない。


「……とりあえず、ドリーとヴィータだけ召喚することにしておくよ。ノモスは目的の場所に到着してからでいいよね?」


「それが無難ね」


 だよね。ドリーは聖域の森を喜んでくれるだろうし、優しく植物の説明をしてくれる光景が思い浮かぶ。


 ヴィータも生命の息吹あふれる聖域の森を嫌がることはないと確実に言える。


 ノモスの場合は……うん、文句は言わないだろうが、内心では呼ぶのが早いと確実に思うはずだ。基本、イフと共に趣味の酒造りに没頭しているもんね。


「あら、まだ目的の場所ではないのですね」


「そのようだね」


 召喚された場所が予想と違っていたのか首を傾げるドリーとヴィータ。


 そんな二人に事情を説明すると、喜んでガイド役を請け負ってくれた。



 正直、結構楽しい。


 ドリーのガイドで、その辺に埋もれている植物が実は伝説の! とか、実は貴重な薬草で、とか、話題が豊富でジーナ達も戻ってきたベル達もキラキラした目をして話を聞いている。


 生物が現れたらヴィータの出番で、その生物がどんな習性を持つとか、どんな特徴を持つとか、サファリパーク的なアナウンスをしてくれてとても勉強になる。


 聖域という古代から続く貴重で美しい森の中を、風の大精霊に見守られながら森の大精霊と命の大精霊にガイドしてもらう。


 冷静に考えたらとんでもなく幸運な出来事だよね。 




「到着したわよ」


「ここ? ……特に何もないけど……え? もしかしてこの木」


 周囲の木々も普通……と言っていいか分からない大きさだけど、他の木と違いは見当たらないし、他に何か特別なシンボルがあるようには見えない。


 というか、目的はフェアリーリングだよね? 木にフェアリーリングってどういう形式で成立するんだ?


「違うわよ。目的はこの木の下の地面の更に下よ。妖精が引きこもってどれほどの時間が過ぎたと思っているの?」


 言われてみるとその通りだな。おそらく遺跡になるレベルで時間が経過しているはずだ。上に木の一本や二本生えていても不思議ではない。


「え? ……そんなんでフェアリーリングを復活させられるの?」


 俺の想像では、欠けがあるにしてもある程度完成図が見える程度には痕跡が残っていると思っていた。まさか木が生えているうえに地下に埋まっているとは……無理じゃないか?


「ふふん、大精霊が三人も全力を尽くすのよ。できない訳がないじゃない」


 シルフィが胸を張っているが、その三人の大精霊の中にシルフィは入っていないんだよね。


 チラリとドリーとヴィータに視線を送ると、二人とも苦笑いしながら頷いた。


 なんとかなるらしい。


 やはり大精霊は凄いのだな。


「裕太、そろそろノモスを召喚してちょうだい」


「了解」


 とりあえず全部大精霊に任せてしまおう。シルフィに言われた通りノモスを召喚する。


「うむ、仕事か。妖精の花蜜酒を手に入れる為じゃ。気合を入れねばな」


 召喚した瞬間から仕事モードのノモス。美味しいお酒を手に入れる為だとやる気が違う。


 そして、ノモス、ドリー、ヴィータが現場を確認しながら相談を始める。なんかプロっぽい。


「うむ、この手順でなんとかなるじゃろう。裕太、始めて構わぬか?」


「ああ、全部任せるから自由にやってくれ」


 部下を信じて全てを任せる上司のような言葉だが、無論責任は取らない。というか取れない。


 この状況で何か失敗しても責任の取り方すら想像できない。


 あと、美味しいお酒が関わっているのに大精霊がミスすることも想像できないので、安心して全部任せているだけだ。


 さて、最初はどうするのか、ノモス達の様子を完全に観客の目線で注目する。


 自分の属性の大精霊の仕事ということで注目している、トゥル、タマモ、ムーンの方がよっぽど真面目に注目しているかもしれない。


 最初に動き出したのはノモス。どうやら木の周りの土を取り除くようだ。


 ドリーが力を振るえば木がひとりでに移動してくれるのだが、無理に根を引き抜くと現場が荒れると判断したのだろう。


 木の周囲の土が綺麗に取り除かれると、木が浮き上がる。シルフィも俺と同じ傍観者だと思っていたが、地味に仕事があったらしい。


 シルフィが風で木を運び、邪魔にならない場所に着地させるとドリーが力を振るい木が自分で? 根を動かし土に埋まっていく。


 これで下準備が完了したのだろう。再びノモス、ドリー、ヴィータがフェアリーリングがあると目される場所に集まり覗き込む。


「ふむ、この辺りまでは要らんな」


 ノモスの言葉と同時にごっそりと土が移動する。おそらくこれでフェアリーリングがある場所が露出したのだろう。


 興味深いので俺も穴に近寄り覗き込む。


「これ、本当になんとかなるのか?」


 何か痕跡があるのであれば再現も可能な気もするが、見えるのは湿った土と根が入っていた穴だけ……これが事件なら迷宮入り確実だろう。証拠が残ってなさ過ぎる。


「むぅ……要らぬのは、ここと、ここと、ここじゃな」 


「そうですね、あ、でも、こちらの部分は必要ではありませんか?」


「え? なんでわかるの?」


 傍観者のつもりだったのに、ノモスとドリーの言葉に驚き質問してしまう。


「ん? ああ土の中の成分の違いじゃな」


「そうですね、フェアリーリングを形成していたキノコは、妖精の力に影響を受けた特殊なキノコですから、土の養分に違いが現れます。少し時が経っているので判別が難しいのですが、まだ判別できる状況で助かりました」


 いや、結構深い穴ができるほど土が積もっているのに、少し時がって……深窓の令嬢にしか見えなくても、やはりドリーも時を重ねた大精霊なんだな。


 あと、言っていることも使っている能力もファンタジーその物なのに、やっていることがドラマの科学捜査物みたいで少し混乱する。


「えっと、説明ありがとう。続けてくれ」


 このレベルになると確実に邪魔にしかならないので、現場から離れて傍観者の立ち位置に戻る。たぶんまた気になることが出てくるのだろうが、できるだけ口を挟まないように気をつけよう。


 穴が開いた地面にヴィータが降り立ち、慎重に地面を観察している。何をしているか凄く聞きたい。聞かないけど……。


「うん、採取は終わったよ。これがあれば再現は可能だね。ただ、妖精の力を受けて変質した部分が……ああ、妖精の花蜜酒を利用すれば大丈夫だね」


 チラリとヴィータが俺を見る。どういうこと? とても質問がしたい。


「今、採取したのは妖精のキノコの欠片というか化石化した物だよ。それを参考に似たキノコを生み出し、そこに妖精の花蜜酒から妖精の魔力を流し入れれば再現できるってことだね」


 質問しなくても聞きたくてしょうがない気持ちが俺の表情に現れていたらしく。ヴィータがちゃんと説明してくれる。


 ノモスなら軽くスルーするところだから、ヴィータの人の、いや、精霊の良さがにじみ出ている。


 ノモスも性格が悪いわけではないのだけど、子供以外には基本的に無愛想だからな。


 それにしてもこちらから見えないが、化石が残っていたのか。いや、妖精の魔力を受けて変質しているキノコらしいから、残りやすいキノコなのかもしれない。


 だって、美味しいキノコだったりしたら、そこら辺の動物に食いつくされるもんな。出入口が食い荒らされたら妖精も困るだろうし、ハンパじゃない毒とか宿していそうだ。


 ヴィータの説明に頭を下げて感謝を示し、再び傍観者に。もう、自分でも傍観者の言葉の意味に疑問を覚える状況だが、とりあえず俺は傍観者だ。


 ……まあ、なんにせよ、なんとかなりそうなので良かった。大精霊はやはりすごい。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
大精霊ってやっぱりすごい!
ディーネは聖域そのものに興味が無くても、契約した大精霊の過半数が召喚されているのに自分は仲間外れにされたことで拗ねそうな予感。
なんだかラエティティアさんの本体を浄化した時のことを彷彿とさせますね 大精霊はやはりすごい
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