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七百五十三話 妖精の居場所

 シルフィに俺も妖精の花蜜酒に魅了されていることを見抜かれ、抵抗することもできずに妖精の誘致に動き出すことになった。勢いづくノモスとドリーに押されながらも花畑のスペースを決め、聖域の拡張に動き出す。




 ノモスとドリーとの会議はすぐに結論が出た。


 なぜなら俺が勘違いをしていたからだ。じゃあ、この辺りからこの辺りまで聖域を拡張して花畑にするよ、と提案したら、それくらいの範囲があればいいだろうと素直にノモスとドリーが納得した。


 これはおかしい、ここから熾烈な争いが展開する流れだろうと、疑問を呈したことで勘違いが発覚。


 花の蜜は少ないし、それでお酒を造るならかなりの花の数が必要だろうと予想し、自分の欲望に負けないように範囲指定した。


 したのだが……実は妖精が育てた花からは溢れるほど大量の蜜が採れるらしい。


 つまり少量の蜜しか採取できない前提で考えたスペースは、その何倍、下手をしたら何十倍のスペース的な価値をもっていることになる。


 ノモスとドリーが簡単に頷くのも当然だ。


「……やっぱり半分くらいにしない?」


「裕太よ、男が出した結論をひっくり返すのはみっともないぞ」


 いや、世は男女平等な時代だし性別とか関係ない、いや、この世界は封建主義だから男尊女卑なのかも……俺の知り合いの女性……みんな卑されるどころか男を押しのけているんだが?


 あ、フィオリーナが居た。うん、なんか混乱してきたが、とりあえず楽園では関係ないということにしておこう。


「裕太さん、妖精の花蜜酒が完成しても呑むのは私達だけではないので、スペースを半分にしたら足りないと思いますよ?」


 え? 疑問に首を捻るとドリーが上空のとある島を指さす。


「ああ、そういえばそうだね。酒島も当然妖精の花蜜酒を欲しがるよね」


 楽園のすぐ上の酒島にはお酒大好きな上級精霊以上の精霊達が集まっている。今回のように少量だけ貴重なお酒が手に入ったという場合なら口を出してこないだろうが、それなりの量が手に入るとなれば、仕入れたいと望むだろう。


 確かに、スペースを減らしている余裕はなさそうだ。生産できるお酒を独占するの気が引けるもんな。


「分かった。じゃあさっそく開拓に取り掛かるよ。シルフィが居ないから、ノモスかドリー、どちらか護衛をお願い」


 なんとなくだが開拓に関しては大精霊の力を直接活用しない空気が出来上がっている。


 それはおそらく開拓当初に大精霊と契約できておらず自力で頑張ったことと、そこから生活が安定し大精霊の力が使えるようになった頃に趣味的な部分が顔を出した影響だろう。


 大精霊の力、特にノモスにお願いすれば開拓の下準備は数分で終わるだろう、でも、ここまでやったのだからできるだけ自分の力で開拓したいと思ってしまう。


 まあ、要所要所は大精霊の力を借りているし、ベル達には沢山手伝ってもらっているのだけどね。


 あと、開拓ツールの出番確保。


 凄まじく便利で高性能な開拓ツールなので、開拓に活用しないのはとても申し訳ないと思ってしまう。


「うむ、儂は先にミスリルで酒の容器を作っておこう。妖精と繋がることができれば、妖精の花蜜酒を仕入れることもできるだろうからな」


 楽園での妖精の花蜜酒の生産を考えていても、妖精とコンタクトが取れて妖精の花蜜酒を仕入れない選択肢が大精霊達にある訳がないよな。


「分かった、ミスリルは出しておくよ。ドリーは警護をお願い」


 まだ妖精とコンタクトが取れると決まった訳ではないのだが、シルフィがやる気満々なので、どうにかこうにか見つけ出すであろうことは確信している。


「うむ」


「分かりました」


 ミスリルを魔法の鞄から取り出しノモスに渡し、ドリーと一緒に開拓予定地に向かう。


 現在豊かな森にするべくドリーとタマモや遊びに来た精霊達が手を入れている、森建設予定地。


 長い時を重ね古代から続く森のような重厚感はないものの、きちんと手入れされた果樹園くらいには木々が育っている。


 無論、楽園にある果樹園コーナーほど整然としている訳ではないが、至る所に実を付ける木々が点在しており、ベル達や遊びに来る精霊達、そしてジーナ達の楽しみの場にもなっている。


 栗の木もいくつか存在しており、収穫期には焼き栗と栗きんとんを楽しみたいと考えている。


 モンブランやマロングラッセも楽しみたいが、ふんわりとしか作成方法が分からないので、挑戦という形になるだろう。


 でも、楽しみだな。


 ここの栗の木は自分の好きなように楽しめるから、サツマイモを混ぜた栗きんとんではなく、全てを栗で作る栗きんとんを作ることもできる。


 サツマイモが入った栗きんとんも大好きだが、やはり栗きんとんという名前なのだから栗だけで作った栗きんとんを食べたく思うのは当然の心理だろう。


 そんな未来に楽しみをもたらしてくれる森を抜け。聖域と死の大地を分けている岩を取り除いて聖域から出る。


 まだ朝と言える時間帯なので、アンデッド系統は出てこないから、死肉漁り系統の魔物に注意すれば大丈夫なはずだ。まあ、ドリーが一緒だから、どんな魔物が出ても大丈夫なんだけどね。


 とりあえず、森建設予定地の半分程度の大きさを花畑にする予定だが、さすがに地中に敷く岩と豊かな森の土は足りない。


 ある程度ストックとして所持しているが、ここまでの大工事を賄うのは無理だ。


 今日は聖域と同じ程度の深さまで地面を掘り返して収納していく作業だな。シルフィが帰ってきたら、岩の確保と森の土の確保に向かおう。


 森に行くならサラに新しい服を着せて、ヴィクトーさんに会いに行くのもいいかもしれない。あそこも豊かな森が沢山あるから、土の確保がかなり容易だ。


 さて、散々繰り返した開拓作業を始めるか。これくらいの範囲なら、急げば三日で終わらせられるかな?


 無理をする必要はないのだが、シルフィの動きの速さを考えるに、こちらも相応の早さで対応するべきだろう。



 ***




 遊びに行っていたベル達が俺が外で作業していることに気が付きお手伝いに来てくれて、お昼の後にはジーナ達も協力を申し出てくれた。


 まあ、開拓の戦力になるのは土の精霊であるトゥルとウリくらいで、他の子達は警護と言う名の土遊びなのだけど、それはそれで周囲が賑やかで楽しいから問題はない。


 精霊達がはしゃいでも声は届かないから、魔物を呼び寄せることもないしね。


 賑やかな声をバックミュージックに無心に穴掘りをするのは悪くない。やはり開拓ツールはチートだ。




「裕太、場所が分かったわよ!」


 開拓作業をしていると、シルフィがハイテンションで戻ってきた。


 もうすぐ日が暮れる時間だし、今日はこの辺りで作業を切り上げるか。


 シルフィに少し待ってくれるように告げて、ベル達とジーナ達に作業の終了を告げる。


 みんなが手伝ってくれたから、穴掘り作業は予定通り明後日には終わりそうだ。



「それで、妖精はどこにいるの?」


 作業が終わり、身嗜みを整えてシルフィとリビングで向かい合う。


「風の精霊王様に聞いたところ、妖精は自分達の世界を持っていて、その世界に引っ込んでいるからこの世界には居ないそうなのよ」


「……それは居場所が分かったと言えるの? そもそもこの世界に居ないって、まあ、シルフィの様子から見るに手段はあるのだろうけど……」


 妖精にコンタクトが取れないのであれば、シルフィのテンションがこんなに高い訳がない。


「別の世界と言っても、迷宮のようにこの世界とズレた場所に存在しているだけで、繋がっている場所がいくつかあるのよ」


 そういえば迷宮は厳密的にはこの世界に存在しない、だから契約者が居ない精霊は迷宮に入ることはない、的な話を聞いた覚えがあるな。


「その場所に行ったら、すぐに妖精と会えるの?」


「さすがにそんなに簡単にはいかないわ。まず、いくつかある妖精界と繋がっている出入口に行って、そこで妖精界と繋がるフェアリーリングを復活させないといけないの」


 フェアリーリング、なんか聞いたことがあるな、訳すと妖精の輪、なんか漫画とかでは妖精が躍った後に描かれる紋様だとか書かれていた気がする。


 この世界だと、そのフェアリーリングが妖精の世界への出入口になるのか。


「それで、そのフェアリーリングはどうやって復活させるの?」


 RPGならその復活方法を求めて大冒険が繰り広げられそうなイベントだけど、お酒を求めるシルフィがそんなまどろっこしいイベントを熟す忍耐があるのかどうかとても疑問だ。


 そして、そんなややこしそうなイベントに俺も巻き込まれるのか? というのも大問題だ。でも、秘かにワクワクもしている。だってこれぞファンタジーって感じがするもん。


「フェアリーリングは出入口の森の地面にキノコで紋様が描かれているそうなのよ。ならドリーとノモスとヴィータが居ればなんとかなると思わない?」


 あ、これがゲームのイベントだとしたら、いろんなところの出入口跡を調べて紋様の欠片を集めたり推測したりしてなんとかする感じのイベントだな。


 そしてシルフィは大精霊の能力を活用して、力技で突破することを選択したということだな。  


 ゲームだとチート一歩手前な行為な気がするが、現実だし問題ないだろう。俺のワクワクを返してほしい。言わないけど。


「それならなんとかなりそうだね。それで、出入口はどこにあるの? というか、まだ花畑スペースが下準備段階だけど、すぐに出発するの?」


「あ、そうだったわね。向こうが場所の確認に来るかもしれないから、下準備は終わらせてからにしましょう。あと、場所は聖域の一つにフェアリーリングがあるそうだから、そこに行くわよ」


 下準備を終わらせてからなら、出発は明々後日以降か。ん? 聖域?


「聖域って、楽園の人工的な聖域ではなく、本物の聖域のこと? たしか入るのに許可が必要なことを言っていなかった?」


「一応、ここも本物の聖域なのよ? まあ、天然物の聖域ということなら間違いではないわね。あと、許可は必要だけど、風の精霊王様が掛け合ってくれて、割とすぐに精霊宮の許可が下りたわ」


 ということは本物の聖域に足を踏み入れることができるのか。


 それは結構嬉しいな。楽園の発展の参考にできることがあるかもしれない。


「それなら良かったけど、風の精霊王様に随分と骨を折ってもらったみたいだけど大丈夫なのかな?」


 ある程度気安く接しさせてもらっているが、それでも王様なんだから利用するような事態は避けたい。


「風の精霊王様も他の精霊王様方も狙いは妖精の花蜜酒だから、上手く妖精を誘致してお酒が完成すれば、その時に宴会でもてなせば問題ないわ」


 ああ、色々とスムーズに物事が進むと思ったが、精霊王様方も妖精の花蜜酒が呑みたいのか。


 シルフィ達よりも年上なのだから、当然妖精の花蜜酒の味を知っているはずだからな。


 それに、聖域にフェアリーリングがあったってことは、精霊と妖精のコミュニケーションも問題なかったってことだから、お酒大好きな精霊達が妖精の花蜜酒を逃すはずがない。


 骨を折ってもらった風の精霊王様には、宴会でしっかりおもてなしすることでお返しとしよう。まあ、妖精の誘致に成功したらの話だけどね。


「あ、シルフィ、花畑スペースの資材が足りないから、岩と土が必要なんだ。岩は死の大地で構わないけど、土はヴィクトーさんのところで確保しようと思っているんだ」


 一瞬、聖域に行った時にそこで土を貰えばとも考えたが、入場にすら許可が必要な場所で土を大量に確保するのは無理があるだろう。


「分かったわ。先に土の掘り返しと岩の確保を終わらせてからローゾフィア王国に行きましょう」


「了解」


 これでおめかししたサラをヴィクトーさんにお披露目できるな。まあ、滞在期間が短くなりそうなのが少し残念だが、そこはまた訪れればいいだろう。


10/14日 本日コミックブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第78話が公開されました。メラル登場、お楽しみただけましたら幸いです。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
年齢関係ない精霊の導きで、妖精界… 何でウラシマ効果とかを疑わないんだ?
何かの間違いでお酒の作り方失伝していたら発狂しそう しかし、冒険者のフラグのおりまくっているから、もう冒険者ってだれも思ってないのでは?
弟子たちもつれていけるのか それとも許可した人限定なのか
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