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七百四十二話 え? シルフィ……

 王様にスペシャルなマッサージチェアを献上した。そのマッサージチェアを実体験したおじさんが世間に恥を晒したうえで外見上若返るというアクシデントはあったものの、王様に神器と呼ばれるほどの好評を博した。後は献上品の対価交渉を残すのみとなり、色々と考えて分からなくなりストレートにお酒を要求した。




「…………して、裕太殿は何を望む?」


 あれ? デジャブ?


 たった今、同じ質問をされてお酒が欲しいと答えたはずなんだけど……あれ?


 王様の顔を見るが冗談を言っている様子はなく真剣な顔をしている。


 ……もしかして先程の俺の答えをなかったことにされた?


 俺だって空気を読み過ぎると評判の日本人、王様が何を思ってなかったことにしたのかは理解できる。


 普通ならそれを理解して意見を取り下げるくらいの機転が俺にもある。だが、俺の隣にはやる気満々のシルフィ。


 俺の中の優先順位はシルフィ>王様で確定している。つまり……。


「お酒が欲しいです」


 こういう返答にならざるを得ない訳ですね。


 一瞬、王様が凄く嫌そうな顔をした。周囲に漂う空気を読めよ的な雰囲気、分かっている。だが、これだけは言いたい、俺は空気が読めない訳じゃない、空気を読んだうえでの返答だ。


「お酒が欲しいです」


 再度繰り返す。


 心の中で同調圧力には屈しない俺、ちょっとカッコいいとか少ししか思っていない。


「裕太殿の希望は理解した。理解したのだが……」


 言葉に詰まる王様。面倒をかけてごめんなさい。お酒が欲しいのは確かなのですが、あなたの体を心配しているのも確かなのです。この交渉を乗り越えれば、マッサージチェアで楽になれるので頑張ってください。


「……正直に言おう。城中の酒を対価としても裕太殿の献上品一つとすら釣り合わないのだ」


 うん、薄々それは察していた。


 コアと一緒に作業している時もやり過ぎかと思っていた、自分専用のマッサージチェアだけハイスペックにすればいいかなんて考えもした。


 でもね、車を買う時にオプションを良い物にしたくなるように、パソコンを買う時にメモリやストレージを増設したくなるように、マッサージチェアだって機能をマシマシにしたくなってしまったんだ。


 普通なら予算や技術等の現実的な問題で身の丈に合った物か、少し背伸びをした程度の物で落ち着くのだが、困ったことに予算が潤沢で迷宮のコアの技術もチートレベルだったので結果的に王様も引くほどのマッサージチェアが完成してしまった。


 これが俗に言うアレだ、反省はしているが後悔はしていないってやつだな。いや、今はかなり後悔しているんだけど……。


 せめて献上品だけは機能ダウンさせておけば良かったのだけど……凄いのを献上して自慢したかったんだもん……ドヤ顔したかったんだもん。結果はドヤ顔する前に王様達に引かれちゃったし、自分でも引いちゃったけどね。


 まあ、二台とも献上することになったのだから、そこは結果オーライでもある。


 ただ、目に見える若返り効果の凄まじさが予想外だった。


 若返りが程々だったならお酒でもなんとか王様達の許容範囲に収まっていたはずなのだが、加齢によるダメージの積み重ねを甘く見ていたのが敗因なのだろう。


「裕太殿?」


 ああ、いかん、少し現実逃避していたら王様を困らせてしまったようだ。


「申し訳ありません、少し考え込んでしまいました」


「いや、構わない。情けないことを言ったのはこちら側だからな。ただ、足りない上に言うことではないが、酒をすべて対価として渡す訳にもいかんのだ。晩餐等でそれなりの酒を出せねば国の面目にも関わる」


 あー、俺に置き換えると少し奮発したごはんの席に、4リットルのペットボトル焼酎がデンと鎮座していたら締まらないみたいな感じか。


 国の場合は社交とか外国との折衝などで、お酒も武器となり防具となるからその重要度は俺が想像するよりも高いのだろう。


「いえ、えーっと、元々献上品なのですから、対価はそれなりに頂ければ十分です。お酒もすべて欲しいという訳ではなく、困らない程度に貴重なお酒を放出していただければ満足です」


 元々王様に迷惑を掛けているお詫びも兼ねているのだし、この国は俺のホームのような物なので国内統制も他国との関係も盤石でいてほしい。


 だからシルフィ、不満顔をしないで。普段は基本あまり表情が動かないタイプでしょ。


「王家としてその言葉に甘える訳にはいかんのだ。とりあえず所蔵の酒のリストを見せる故、そこから交渉させてほしい」


 面倒臭いとか言ったらいけないんだろうな。スーパー執事さんからお酒のリストを受け取る。文字は読めるが、この世界のお酒を知らないのでちんぷんかんぷんだ。


 更に分からないのは、スーパー執事さんがいつお酒のリストを用意したのか……国に仕えるほどの執事は特殊能力レベルの優秀さが必要なのだろうか?


 自分で見ても理解できないので、リストを覗き込んでいるシルフィに丸投げする。


「おかしいわね、私の本命が書かれていないわ……まさか隠している? いえ、そんな挙動は感じなかったわ。もしかして忘れられている?」


 シルフィが隣でブツブツ呟きだした。シルフィにとって想定外の事態が発生した様子だ。


 なんか嫌な予感がする。


「裕太、酒蔵で直接選びたいって頼んでちょうだい」


 ……いや、直接選ぶのは構わないけど、目的が明らかに違うよね? 宝探し的なサムシングを意図しているよね? シルフィを問い詰めたいところだが人目が多すぎてそれも難しい。


 視線でシルフィを問い詰めるが、返ってくるのは早くという強い視線……お城で宝探しとかちょっとワクワクするし仕方がないか。


「あの、直接お酒を見ながら選びたいのですが、難しいですか? 無論、お酒をすべて頂こうなんてことは考えていません」 


 無理だと言ってくれてもちょっと残念なだけだから俺は構わないよ?


「ふむ、それは別に構わないが、案内の騎士を付けることになる」


 断わってくれなかったか。案内と言う名の見張りですね。


「裕太、二度手間になるから王も誘ってちょうだい」


 パードゥン?


 シルフィ、こういうデリケートな状況な時に無茶を言うのは止めてほしい。一緒に行動してくれるくらい信頼されているなら落とし穴部屋なんかに案内されないよ。二度手間って何?


「しょうがないわね、なら手早く済ませるわよ」


 視線で必死に拒否をすると、なんとかシルフィが意見を引っ込めてくれた。


 宝探しはまだ楽しめるけど、お城で王様同伴の宝探しは意味不明すぎるので諦めてくれて助かった。


「ありがとうございます。今から確認しに行っても?」


「構わぬ、その間にこちらで追加できる対価を選んでおこう」


 あ、追加の対価は確定なんですね。まあ、ここでいらないとゴネても意味はないか。素直に受け入れておこう。爵位とか提案されそうな気もするが、いらない物は拒否すれば良いよね。


「ありがとうございます」


「こちらに」


 俺が立ち上がるとスーパー執事さんが騎士さん達を連れて来てくれた。この人が案内の騎士さんと言う名の監視役であり、シルフィが起こすであろう騒動の犠牲者第一号から三号ということだ。強く生きてほしい。


 そして見張りが三人なのはあれかな? 信頼の表れかな? あと最後尾の騎士さん、しれっと居るけどお城の精霊術師講習で見た覚えがある。


 契約精霊らしき可愛らしい仔馬も一緒だし、対策も万全だね。


「あの裕太様、あちらの方達は?」


 スーパー執事さんが差す方向には白目をむいたままのマリーさんとソニアさんが居た。静かだから存在を忘れていたが、先程から気絶したままだったらしい。置いていったら駄目かな?




 ***




 遠い。騎士さんに案内されて酒蔵に向かっているが、二十分くらい歩いている気がする。お城の広さ、ハンパないな。


 でも、広いショッピングモールならそのくらい簡単に歩き回るし、お城と考えると普通のことにも思える。


 ならなんでこんなに辛く感じるのかというと……。


(裕太さん、答えてください。あんなヤバい物をなんで!)


(そうですよ裕太様、王様への献上とはいえ、あれは流石にやり過ぎです。手に入れた物はもっとちゃんと調べてから利用するようにしてください)


 歩いている間、正気に戻ったマリーさんとソニアさんにこの調子で詰められ続けているからだろう。


 案内の騎士さん達も小声とはいえ俺が詰められているのに気が付いているはずなのにスルーだし、騎士道精神とはなんなのか数時間くらい問い詰めたい。


 だいたいマリーさんもソニアさんも俺がマッサージチェアの説明した時に気が付かなかったのだから同罪だよね?



「到着しました」


 マリーさんとソニアさんに詰められながら三十分程度歩くと目的地に到着した。複雑に入り組んだ通路だったので現在地は分からないが、いくつも階段を下りたのでおそらく地下にある酒蔵なのだろう。


 鉄の扉にゴツイ鍵、扉の前に立つ兵士さん二人。


 酒蔵の警備にしては厳重過ぎる気もするが、お城での毒殺は料理かお酒に盛るというのがテンプレートだし、お城側もかなり警戒している場所なのだろう。そりゃあ三人も騎士さん達を同行させるよね。


 たぶん王様側からしたら十人でも百人でも同行させたかったのだと思う。短剣効果で三人に抑えられた感じだろう。


「お待たせしました。このセラーの管理を任されているビョルンと申します」


 あ、騎士さん達だけ連れて酒蔵に入るのかと思っていたが、さすがに管理の人がいるよね。


 なんかちょっとクマっぽい人で、酒蔵の管理人というか守護者って印象だ。


 事前に話が通っているのか、ビョルンさん、ちょっと悲しそうにしている気がする。よく考えたら俺、この人が管理しているお酒の大半を奪っていこうとしている人物だよね。


 ちゃんと対価を払うのだから悪いことをしている訳ではないのだが、なんだか少し申し訳なくなってくる。


「よろしくお願いします」


 申し訳ない思いからしっかり頭を下げて案内をお願いする。でも、たぶんシルフィの様子からハプニングは確定なんだよね。


 ビョルンさん、先に謝っておきます、ごめんなさい。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
お酒を定期的に入手できるような褒美を貰えば良いのにと思うのは即物的かな
マリーさん達が、男のラッキースケベに気がついて、そういうアクションを、し始めたという記述があるとマリーさんたちのストーリーが盛り上がるかなぁと思ってます。
シルフィの狙いはもしかしたら、先王の時代に遺失になったセラーに隠れて眠り続ける名酒の予感! だったら対価としては良い物かも知れないなぁ。すごい惜しみそうだけど…
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